OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

デトロイトから来た凄い奴ら

2008-11-11 12:23:49 | Jazz

Jazzmen Detroit (Savoy)

デトロイトといえば一般的には自動車産業の都市かもしれませんが、今日では音楽の聖地のひとつとなった感もありますね。

例えば1960年代から大ブームとなった所謂モータウンサウンドと呼ばれるR&Bヒットの数々は永遠に不滅でしょう。そしてジャズの世界にも、デトロイトからニューヨークに出てきて大活躍した名手が大勢いるのです。

このアルバムはそうしたブームを逸早くとらえたタイトルどおりの企画セッションで、メンバーはペッパー・アダムス(bs)、ケニー・バレル(g)、トミー・フラナガン(p)、ポール・チェンバース(b)、ケニー・クラーク(ds) という凄い面々! ただしケニー・クラークだけはデトロイト出身ではなく、しかし当時のサボイのジャズ部門では現場監督的な仕事をやっていましたから、ここでの起用となったのでしょう。まあ、これがエルビン・ジョーンズなら完璧だったんですが、それは言わないのが美しい仕来たりということでしょうね。そのあたり事情から、表ジャケットにはケニー・クラークが登場していないのですから。

ちなみに録音は1956年4月30日&5月9日とされていますが、これはトミー・フラナガンやケニー・バレルにすれば、ニューヨークへ出てきて間もない時期のセッションながら、その演奏は既に超一級の輝きに満ちています――

A-1 Afternoon In Paris (1956年5月9日録音)
 ジョン・ルイスが書いたジェントルな名曲ですから、ここでのソフトタッチの演奏もあたりまえかもしれませんが、個人的には参加したメンツからして、ちょっと意表を突かれた感じです。なにせアルバムのド頭ですからねぇ。
 まずケニー・バレルが意外な感じの小技でテーマをリードし、ペッパー・アダムスのバリトンサックスがそれを補足するアレンジが、なんとなくMJQののムードをハードバップに転換したような……。ケニー・クラークのブラシがさもありなんのムードを増幅させています。
 しかしアドリブパートに入っては、トミー・フラナガンが持ち前の粋なセンスとメロディ優先主義のフレーズ作りで好演♪ するとケニー・バレルもソフトな歌心で続きますから、グッと惹きつけられます。
 このあたりは例えばホレス・シルバーやアート・ブレイキーが推進していたファンキー&ハードドライブな路線とは、一味違ったモダンジャズの快感でしょうねぇ~。
 ですから日頃は白人らしからぬゴリゴリ節のペッパー・アダムスも、微妙に抑制の効いたバリトンサックスがなかなかに良い感じ♪ ミディアムテンポのグルーヴを強靭に支えるポール・チェンバースも自然体です。

A-2 You Turned The Table On Me (1956年5月9日録音)
 トミー・フラナガンの軽快なイントロに導かれ、洒落たアレンジの合奏からペッパー・アダムスが気負いの無いアドリブを聞かせれば、ケニー・バレルは十八番の「節」を出し惜しみしない熱演を披露します。
 このあたりはメンツ的な興味からブリブリのハードバップを期待するとハズレますが、トミー・フラナガンの素晴らしいピアノタッチと歌心が完全融合した日常的な奇跡が楽しめますから、結果オーライ♪
 ポール・チェンバースのベースソロも若さに似合わぬ老獪な味わいがニクイほどですし、全体をビシッと締めるケニー・クラークのスティックは言わずもがなでしょう。

A-3 Apothegm (1956年5月9日録音)
 ポール・チェンバースのグイノリウォーキングから如何にもというテーマメロディは、ペッパー・アダムスの白人らしい感性の作曲ですが、アドリブパートに入るとグッとハードな雰囲気になるのが面白い演奏です。
 ただし曲そのものがあまり冴えない所為か、いずれのメンバーもアドリブに腐心しているというか……。

B-1 Your Host (1956年4月30日録音)
 これもペッパー・アダムスのオリジナル曲ですが、憂いの滲む雰囲気がなかなか琴線に触れますし、力強いミディアムスローのグルーヴもあって、ちょっとシブイんですが、なんとも言えないモダンジャズの快感に酔わされてしまいます。
 特にトミー・フラナガンのミステリアスでソフトな情感が溢れ出たアドリブは秀逸! 流石だと思います。

B-2 Cottontail (1956年4月30日録音)
 デューク・エリントンが書いた、ジャムセッションには最適という景気のよい名曲で、このアルバムの中では特に熱気溢れる演奏になっています。初っ端からいきなり咆哮するペッパー・アダムスのバリトンサックスが、まず最高ですねぇ~。
 アドリブパートでもケニー・バレルとペッパー・アダムスの掛け合いにはゾクゾクさせられますし、珠玉の「トミフラ節」しか出さないトミー・フラナガンの名手の証には最敬礼♪ また些か趣味の良くないポール・チェンバースのアルコ弾きのアドリブも、全体の熱気の中では許せるんじゃないでしょうか。
 
B-3 Tom's Thumb (1956年4月30日録音)
 ケニー・バレルが得意技を出しまくったオリジナルのブルースですから、ハード&グルーヴィなテーマとグイノリのビートにはハードバップの魅力がいっぱい♪
 そしてトミー・フラナガンが素晴らしすぎるアドリブでソフトな黒っぽさを全開させれば、ペッパー・アダムスはブリブリゴリゴリの咆哮でバリトンサックスの醍醐味を堪能させてくれますが、このあたりのムードを完全にとらえたヴァン・ゲルダーの録音技術は、シンバルやベースの響きも鮮やかで力強く、やはり「ハードバップの音」は、これだっ! と痛感させられると思います。

ということで、A面はジェントルサイド、B面はハードバップサイドというアナログ盤ならではの構成もニクイですね。決して名盤ではありませんし、ジャズ喫茶の人気盤でもないでしょうが、やはりハードバップ好きには堪えられないアルバムでしょう。そのハードエッジな録音からはセッション全体の雰囲気の良さが溢れ出てくるという、まさに1956年のニューヨーク&デトロイトの「モダンジャズな音」が楽しめるのでした。

そしてやはりモーターシティをイメージしたジャケットのデザインも、賛否両論の楽しさが横溢しています。

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