帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (七十三と七十四)

2012-04-28 00:01:01 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 言の戯れを知らず、貫之の云う「言の心」を心得ないで、和歌の清げな姿の
み解き明かされてきた。藤原公任は、歌に心と清げな姿と、心におかしきところがあるという。それを紐解きましょう。帯はおのずから解け人の心根が顕れる。


 紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(七十三と七十四)


 春の着る霞の衣ぬきをうすみ 山風にこそみだるべらなれ 
                                  (七十三)

 (春の着る霞の衣、よこ糸が薄弱なので、山風に、乱れるようだ……春情の切る、か済みの身と心、抜きが薄情なので、山ばの心風に、こぞ、乱れるようだ)。


 言の戯れと言の心

 「はる…春…春情…張る」「きる…着る…切る…これっきりとする」「かすみ…霞…か澄み…か済み」「か…接頭語」「衣…心身を包んでいるもの…心身の比喩」「ぬき…横糸…抜き…放出…抜き出る」「うすい…薄い…薄弱…濃くない…薄情」「山風…山ばの心風…春情の嵐」「こそ…限定し強調する意を表す…子ぞ…この君よ…をとめ子よ」「子…男子…女子」「みだる…乱れる…霞が入り混じる…心身が乱れる」「べらなれ…べらなり…ようだ…ようすだ」。

 

 
 霜のたて露のぬきこそよわからし 山の錦のおればかつちる 
                                  (七十四)

 (霜のたて糸、露のよこ糸こそ、弱いらしい、山の紅葉の錦が、折ればたちまち散る……下の立て、白つゆの抜きぞ、弱いらしい、山ばの錦木、折ればたちまち果てる)。


 言の戯れと言の心

 「しも…霜…紅葉を促すもの…下…身の下」「たて…たて糸…立て…起て」「つゆ…露…紅葉を促すもの…白つゆ…おとこ白つゆ」「ぬき…よこ糸…抜き…放出」「山…山ば」「錦…色豊かな織物…もみじの比喩…錦木…男木」「おれば…折れば」「折…逝」「かつちる…且つ散る…と同時に散る…たちまち果てる」。


 両歌とも、春霞と秋の霜露を詠んで、それぞれ清げな姿をしている。その姿は色好みな心を包んだ清げな装束で、中身は生々しいおとこの心根である。


 両歌とも、古今集にも採られてあるが、仮名序に云う「世の中、色に尽き、人の心花になりにける」頃の歌でしょう。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。