帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第四 恋雑(二百三十七と二百三十八)

2012-08-03 00:11:08 | 古典

   



          帯とけの新撰和歌集



 歌言葉の戯れを知り、紀貫之の云う「言の心」を心得えれば、和歌の清げな姿のみならず、おかしさがわかる。藤原公任は、歌には、心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。「言の心」を紐解きましょう、帯はおのずから解け、人の生々しい心情が顕れる。


 紀貫之 新撰和歌集巻第四 恋雑 百六十首
(二百三十七と二百三十八)

 我が恋をしのびかねてはあしひきの 山たち花の色に出でぬべし
                                                 (二百三十七)
(我が恋を、忍ばせておれずに、あしひきの山橘の実のように、めだつ色に出てしまうだろう……わが乞い求め、お、堪え忍べずに、あの山ばの立ち花の、白い色に出てしまいそう)。


 言の戯れと言の心

 「恋…乞い…求め」「を…対象を示す…お…おとこ」「あしひきの…枕詞」「山…山ば…ものの盛り上がったころ」「たちばな…橘…橙色の果実…木の花…男花…立ち花…白い花を咲かせるもの」「の…比喩を表す」「色…色彩…表面…果実の色…目立つ色…花の色…白い色…おとこの色」。

 

 古今和歌集 恋歌三。題しらず。


 歌の清げな姿は、忍ぶ恋に堪えられず、顔色や振る舞いの表面に出てしまいそうという。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、乞い求める心に、堪え忍べずに、立ち花の色に出てしまう、おとこのさが。

 


 色なしと人や見るらむむかしより 深き心にそめてしものを
                                 
(二百三十八)

 (色なしと人々は見るのだろうか、昔より君は、深い心に染めていたのになあ……君の心身色気なしと、ひとは見るだろうか、武樫撚り、深い心で、ひとを色に染めていた物、お)。


 言の戯れと言の心

 「色なし…色彩なし…表面に表れない…色情なし…色好みでない…風流でない」「人…人々…女」「見る…思う…覯する」「むかしより…昔から…武樫撚り…強く堅いものに撚りかけて」「む…武の草書体」「かし…樫…堅い木…おとこの褒め言葉」「ものを…のに…のだから…感動、詠嘆の意を含む…物、を…おとこ」。


 古今和歌集 雑歌上。或る人が中納言になった時に、染めていない表着の絹綾を贈るといって詠んだ、右大臣の歌。

 贈り物の染めていない衣は、「無色の衣…無色の心身…武色の心身…贈られた人は武骨な人だったらしい、常に弟よりも官位など劣っていた」「衣…心身の換喩…心身」。


 歌の清げな姿は、挨拶。昇進おめでとう、以前から君は深い心ある人と思っていたよ。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、贈る相手の人柄や性かくまで顕れているところ。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。