蛍 ラビンドラナート・タゴール
1
わたしの空想は蛍―
いのちある光のかけら
暗がりにまたたいている。
4
春は 花のはなびらをまき散らす
はなびらが 未来の果実のためにではなく、
一時の気まぐれのためにあるから。
5
よろこびは、大地の眠りのいましめを解かれて
数えきれない木の葉にみなぎり、
ひもすがら 空中に浮かんで踊る。
6
わたしのささやかなことば
時代の波に乗って軽やかに踊るかもしれぬ
わたしの作品が意味の重みで沈んだときに。
9
わたしの思いつきは、閃光のように、不意打ちを喰らわせて、
ひとつの笑いをもたらす。
10
わたしの愛が、太陽の光のように あなたを包みこんで
しかも 輝かしい自由をもたらしますように。
11
昼は 色つきのあぶく
底なしの夜のうわべに浮いている
12
わたしが捧げたのは 思い出してもらうのも気が引けるものばあり、
だからこそ あなたは憶えているかもしれぬ
13
わたしの名前は 贈り物から消しておくれ
もしそれがお荷物ならば、
でも わたしのうたは捨てないで。
18
わたしの心は 思索の流れに浮かんだ
一瞬のきらめきによって動きだす
まるで 決してくりかえされることのない
水の音符を見つけた小川のように。
23
偏見は 真実を手放すまいとして
扼殺しかねない。
24
ひとつの臆病なランプを励ましたくて
大いなる夜は 空いちめんの星に点燈する。
25
大地という花嫁を抱きしめていいるけれど、
空はつねに果てしなく遠い
26
神は同志をさがして愛をもとめる、
悪魔は奴隷をさがして服従をもとめる。
27
大地は面倒を見てくれるかわり
樹を地上に縛りつける、
空はなにひとつもとめないで樹を自由にする。
28
不死のような宝石は
永年の歴史よりも
時の一瞬のきらめきを誇りにする。
29
こどもはいつも永遠の時の神秘のなかで暮らす、
歴史の塵にまみれることがない。
30
屈託のない笑いは 創造の歩みに
時をこえた飛躍をもたらす。
31
遠くにいた人が 朝 わたしのそばに寄ってきて、
いよいよ近づいたとき 夜に連れ去られた。
33
平和が汚れを掃除するのにいそがしいとき、
それはあらしとなる。
34
みずうみは山のふもとに身を伏せている、
涙ぐましい愛の願いは
考えを曲げない人たちの足もとにある。
35
こどもの神さまがほほえむ
たいない雲のおもちゃと
はかない光の影のあいだで。
39
暴君は 自由が自由を殺すように仕向ける
だが おのれの自由だけ守ろうとする。
43
わたしはうたいながら神につながる
まるで山から瀧がながれて
はるかな海へとつながるように
44
陽の光は 色彩の宝を見いだす
さえぎる雲をくぐり抜けて。
46
わたしは人生を豊かに実らせてくれた樹木に感謝をささげたが、
つねにそれを青々と茂らせてくれた雑草を
思い出すことができなかった。
47
単独に存在するものは虚無であり、
他者の存在がそれを真実にする。
48
孤独をやわらげて
人生のあやまちが美の寛容を欲しがって嘆く
美はあやまちの孤独をやわらげて
全体との調和に変えることができるから
52
あなたが偉大な人物を誹謗するのは不遜である、
それはあなた自身を傷つける。
あなたが小人物を誹謗するのは下劣である。
それは犠牲者を傷つけることだから
55
おのれの智慧を信用しない腕力は
叫ぼうとする声をおさえつける。
56
嵐は 炎をとりこにしようとして
吹き消してしまう。
62
わたしの背負った重荷は 軽くなる
みずからを笑いとばすときに。
63
弱者は怖ろしいときがある
怒り狂って強くみせようとするから。
76
世界はなによりも無欲な暴政に悩まされる
世界を支持する者の。
77
わたしは自由を手に入れる
わたしたちが生きる権利の対価を支払ったときに。
79
あなたのさりげない一瞬のめぐみが、
秋の空の流れ星のように、
わたしのこころの奥底で発火する。
81
世界とは無常の泡
沈黙の海のおもてに浮かんでいる
83
海にそそぐ川のように、
労働は充足を見いだす
余暇の深みに。
86
権力のぎこちなさは 鍵をねじ曲げて、
鶴嘴を振りかざす。
90
危険と懐疑と否定という海が
確信の小さな島を取り巻いているから
人間はあえて未知に挑もうとする。
91
愛は赦すときに懲らしめるから、
おそろしい沈黙によって美を傷つけた。
92
あなたは ひとりぼっちで酬われずに生きている
人びとがあなtなおほんとうの値打ちを怖れているせいで。
98
神はわたしをたたえる わたしが働くときに、
神はわたしを愛する わたしがうたうときに。
107
山はそびえて動じない
たとえ霧に負かされたようにみえても。
111
世界は知っている わずかな人びとが
たくさんの人びとよりも豊かであることを。
122
世界はわたしに映像で話しかける、
わたしのたましいは音楽で応じる。
124
夜の暗さは、痛みのように、口をきけない、
あかつきの暗さは、やすらぎのように、音をたてない。
126
へつらう絵筆は 真実を端折る
寸法の足りない画布に合わせて
129
利益は善にほほえみかける
善が利益をもたらすときに。
130
うぬぼれが昂じると
あぶくは海の存在を疑い、
笑って弾けて消える。
138
恋は 噂になっても秘めごと、
愛されていることを本当に知っているのは恋人だけ。
139
歴史は じわじわと真実を窒息させるが、
苦悩のおそろしい呵責のなかで
あわてて蘇生させようとする。
140
わたしの労働は、日々の糧によって報われている、
わたしはやがて愛によって評価が定まるのを待つ。
141
美は「もう結構、」ということをわきまえている、
野蛮は、もっとたくさん欲しいといって騒ぎ立てる。
142
神はわたしのなかに見たがっている、神のしもべではなく、
万人のために奉仕する神のすがたを。
146
わたしは わたしの神を愛することができる
神はわたしに 神を否定する自由をあたえているから。
156
果実に目がくらむと、花を見逃してしまう。
161
富は 大きなお荷物、
幸福は いのちの豊かさ。
162
剃刀の刃は切れ味にうぬぼれている
太陽をせせら笑うときに。
168
空は果てしないがらんどうである
大地がそこに夢の楽園をつくるための。
169
おそらく 三日月は笑みを浮かべて疑っている
いまだ完成の域に達していない
断片のようなものだといわれて。
170
夕べは 昼のおかしたあやあちを赦してやりなさい
そうして みずから平和を勝ち取るがいい。
171
美は 花のつぼみに幽閉されてほほえむ、
居心地がいい未完成の奥深いところで。19え
173
葉は沈黙
ことばの花を取り囲む。
179
真実はおのれの限界を愛する
そこで美と出会うから。
181
所有する権利は、愚かしくも自慢する
享楽にふける権利を。
184
かしこい人は教え方を心得ている、
愚か者は殴り方を心得ている
192
労働の精神は 創造するとき
遊びの精神に力を貸してささえる
197
党派にこだわる人は
おのれの池に海水を汲んで
海を所有していると思い込む
203
ほんとうの終わりは 限界に到達することにはなく。
限界のないものを完成することにある
205
あなたの指遣いで わたしのいのちちの弦をふるわせて
音楽をあなたとわたしのものにしてください。
206
わたしの心の世界は 果実のようにまるみをおびて、
いのちのよろこびとかなしみのなかで熟れながら、
原始の大地の暗がりへと落ちていくだろう
創造の更なる深まりのために。
207
物にはかたち、力にはリズム、
人には意味がある。
208
智慧をもとめる人たちがいて 富をもとめる人たちがいる、
わたしはあなたとの信仰をもとめる うたをうたうために。
209
樹木が大地に葉を散らすように、わたしはことばを散らす、
わたしの思想は ことばになるよりも花となれ あなたの沈黙のなかで。
210
わたしは真実を信じて、完全なるものを心に描いて
師よ、あなたを手伝う、あなたの創造を。
211
いのちの果実と花のなかに
わたしが感じてきたよろこびのすべてを
祝祭の終わりに あなたに捧げさせてください、
愛が完全にひとつとなったときに。
212
ある人々はよく考えて あなたの真実の意味を探究した、
だから偉大である。
わたしは耳を澄まして、あなたの遊戯の音楽を理解した、
だから満足している。
214
蓮の花は うつくしさを天にささげる、
草の葉は はたらきを大地にささげる。
215
蔕にしがみついた青い果実の貪欲が
太陽にくちづけされて熟れると忘我に変わる
217
間違いは真実のすぐとなりに住んでいる
それゆえ わたしたちは騙される。
219
暗闇のなかで わたしに無駄な手探りをさせないで
わたしの心を じっと落ち着かせてください
夜は明けるだろう
そして 真実はその簡明さのなかに
あらわれるだろう と信じることで
220
しめやかな夜を徹して
わたしには聞こえる 気まぐれな朝の希望が帰ってきて
わたしの心をノックする音が
221
あたらしい恋がわたしにおとずれて
いにしえの恋の永遠の富をもたらす
225
人間は 神の花を編んで冠をつくるとき
花は人間のものだと主張する。
229
ことばで捉えることのできない わたしのあの思想が
わたしのうたに降りてきて踊る。
233
太陽の光は わたしに 世界の扉をひらく、
愛の光は わたしに 世界の宝をしめす。
234
太陽の光は わたしに 世界の扉をひらく、
愛の光は わたしに 世界の宝をしめす。
236
わたしの感謝のことばを あなたにささげて
わたしの沈黙から その最大限の敬意を奪わせてはならぬ。
237
人生の願望は
こどもたちの恰好をしてあらわれる。
239
わたしの人生の庭で
わたしの富は 光と影によって織りなされてきた
それは集めることも蓄えることもできない。
240
わたしが永遠に手に入れた果実は
あなたがすでに手にしている果実。
242
光は年を取らない、それは太古から変わらぬ光、
影はこの瞬間のもの、それは生まれつき老いている。
246
わたしは 人生のお芝居のなかで
自分の役の意味を取り違える
なぜなら 他人の演じている役について
わたしが知らないからだ
247
花は はなびらすべてを散らし
果実を見いだす。
248
わたしは残していく わたしのうたを
とこしえにめぐる忍冬の花ざかりと
南から吹く風のよろこびに。
249
枯葉は 土にまみれて消えるとっき
森のいのちに参加する
250
心はいつも 音と沈黙に
ことばをさがす
空が暗黒と光にそれをさがすように。
252
わたしのうたは
わたしがあなたのうたを愛しているとうたうこと。
253
ものいわないひとの声が わたしのことばに触れるとき
わたしはそのひとを知る それゆえ わたしはみずからを知る。
254
わたしはお別れのあいさつをする
わたしの至らなさを知りながら わたしを愛した人びとに。
255
愛の贈りものはあたえられるのではない、
それは受け容れられるのを待っている。
256
死がやって来て わたしにささやく、
「おまえのいのちは盡きた。」
そのときにいわせてください、
「わたしは愛に生きた漫然と生きたのではない。」
わたしはいう、「わからない、でも、たしかにわたしは
うたいながら いくたびも わたしの永遠を見つけたのだ。」
256
「さあ わたしのランプを点燈しよう、」
と星がいう、
「も思案してはいけない
明かりが闇を払いのけてくれるだろうかと。」
258
わたしの旅が終わらないうちに
すべてであるひとつものが
わたしのなかに見いだされることを祈る、
めぐりあわせとうつろいの流れに
たましいのぬけがらを浮かべて
あまたの人びとと漂いながら去りゆくままに。
1
わたしの空想は蛍―
いのちある光のかけら
暗がりにまたたいている。
4
春は 花のはなびらをまき散らす
はなびらが 未来の果実のためにではなく、
一時の気まぐれのためにあるから。
5
よろこびは、大地の眠りのいましめを解かれて
数えきれない木の葉にみなぎり、
ひもすがら 空中に浮かんで踊る。
6
わたしのささやかなことば
時代の波に乗って軽やかに踊るかもしれぬ
わたしの作品が意味の重みで沈んだときに。
9
わたしの思いつきは、閃光のように、不意打ちを喰らわせて、
ひとつの笑いをもたらす。
10
わたしの愛が、太陽の光のように あなたを包みこんで
しかも 輝かしい自由をもたらしますように。
11
昼は 色つきのあぶく
底なしの夜のうわべに浮いている
12
わたしが捧げたのは 思い出してもらうのも気が引けるものばあり、
だからこそ あなたは憶えているかもしれぬ
13
わたしの名前は 贈り物から消しておくれ
もしそれがお荷物ならば、
でも わたしのうたは捨てないで。
18
わたしの心は 思索の流れに浮かんだ
一瞬のきらめきによって動きだす
まるで 決してくりかえされることのない
水の音符を見つけた小川のように。
23
偏見は 真実を手放すまいとして
扼殺しかねない。
24
ひとつの臆病なランプを励ましたくて
大いなる夜は 空いちめんの星に点燈する。
25
大地という花嫁を抱きしめていいるけれど、
空はつねに果てしなく遠い
26
神は同志をさがして愛をもとめる、
悪魔は奴隷をさがして服従をもとめる。
27
大地は面倒を見てくれるかわり
樹を地上に縛りつける、
空はなにひとつもとめないで樹を自由にする。
28
不死のような宝石は
永年の歴史よりも
時の一瞬のきらめきを誇りにする。
29
こどもはいつも永遠の時の神秘のなかで暮らす、
歴史の塵にまみれることがない。
30
屈託のない笑いは 創造の歩みに
時をこえた飛躍をもたらす。
31
遠くにいた人が 朝 わたしのそばに寄ってきて、
いよいよ近づいたとき 夜に連れ去られた。
33
平和が汚れを掃除するのにいそがしいとき、
それはあらしとなる。
34
みずうみは山のふもとに身を伏せている、
涙ぐましい愛の願いは
考えを曲げない人たちの足もとにある。
35
こどもの神さまがほほえむ
たいない雲のおもちゃと
はかない光の影のあいだで。
39
暴君は 自由が自由を殺すように仕向ける
だが おのれの自由だけ守ろうとする。
43
わたしはうたいながら神につながる
まるで山から瀧がながれて
はるかな海へとつながるように
44
陽の光は 色彩の宝を見いだす
さえぎる雲をくぐり抜けて。
46
わたしは人生を豊かに実らせてくれた樹木に感謝をささげたが、
つねにそれを青々と茂らせてくれた雑草を
思い出すことができなかった。
47
単独に存在するものは虚無であり、
他者の存在がそれを真実にする。
48
孤独をやわらげて
人生のあやまちが美の寛容を欲しがって嘆く
美はあやまちの孤独をやわらげて
全体との調和に変えることができるから
52
あなたが偉大な人物を誹謗するのは不遜である、
それはあなた自身を傷つける。
あなたが小人物を誹謗するのは下劣である。
それは犠牲者を傷つけることだから
55
おのれの智慧を信用しない腕力は
叫ぼうとする声をおさえつける。
56
嵐は 炎をとりこにしようとして
吹き消してしまう。
62
わたしの背負った重荷は 軽くなる
みずからを笑いとばすときに。
63
弱者は怖ろしいときがある
怒り狂って強くみせようとするから。
76
世界はなによりも無欲な暴政に悩まされる
世界を支持する者の。
77
わたしは自由を手に入れる
わたしたちが生きる権利の対価を支払ったときに。
79
あなたのさりげない一瞬のめぐみが、
秋の空の流れ星のように、
わたしのこころの奥底で発火する。
81
世界とは無常の泡
沈黙の海のおもてに浮かんでいる
83
海にそそぐ川のように、
労働は充足を見いだす
余暇の深みに。
86
権力のぎこちなさは 鍵をねじ曲げて、
鶴嘴を振りかざす。
90
危険と懐疑と否定という海が
確信の小さな島を取り巻いているから
人間はあえて未知に挑もうとする。
91
愛は赦すときに懲らしめるから、
おそろしい沈黙によって美を傷つけた。
92
あなたは ひとりぼっちで酬われずに生きている
人びとがあなtなおほんとうの値打ちを怖れているせいで。
98
神はわたしをたたえる わたしが働くときに、
神はわたしを愛する わたしがうたうときに。
107
山はそびえて動じない
たとえ霧に負かされたようにみえても。
111
世界は知っている わずかな人びとが
たくさんの人びとよりも豊かであることを。
122
世界はわたしに映像で話しかける、
わたしのたましいは音楽で応じる。
124
夜の暗さは、痛みのように、口をきけない、
あかつきの暗さは、やすらぎのように、音をたてない。
126
へつらう絵筆は 真実を端折る
寸法の足りない画布に合わせて
129
利益は善にほほえみかける
善が利益をもたらすときに。
130
うぬぼれが昂じると
あぶくは海の存在を疑い、
笑って弾けて消える。
138
恋は 噂になっても秘めごと、
愛されていることを本当に知っているのは恋人だけ。
139
歴史は じわじわと真実を窒息させるが、
苦悩のおそろしい呵責のなかで
あわてて蘇生させようとする。
140
わたしの労働は、日々の糧によって報われている、
わたしはやがて愛によって評価が定まるのを待つ。
141
美は「もう結構、」ということをわきまえている、
野蛮は、もっとたくさん欲しいといって騒ぎ立てる。
142
神はわたしのなかに見たがっている、神のしもべではなく、
万人のために奉仕する神のすがたを。
146
わたしは わたしの神を愛することができる
神はわたしに 神を否定する自由をあたえているから。
156
果実に目がくらむと、花を見逃してしまう。
161
富は 大きなお荷物、
幸福は いのちの豊かさ。
162
剃刀の刃は切れ味にうぬぼれている
太陽をせせら笑うときに。
168
空は果てしないがらんどうである
大地がそこに夢の楽園をつくるための。
169
おそらく 三日月は笑みを浮かべて疑っている
いまだ完成の域に達していない
断片のようなものだといわれて。
170
夕べは 昼のおかしたあやあちを赦してやりなさい
そうして みずから平和を勝ち取るがいい。
171
美は 花のつぼみに幽閉されてほほえむ、
居心地がいい未完成の奥深いところで。19え
173
葉は沈黙
ことばの花を取り囲む。
179
真実はおのれの限界を愛する
そこで美と出会うから。
181
所有する権利は、愚かしくも自慢する
享楽にふける権利を。
184
かしこい人は教え方を心得ている、
愚か者は殴り方を心得ている
192
労働の精神は 創造するとき
遊びの精神に力を貸してささえる
197
党派にこだわる人は
おのれの池に海水を汲んで
海を所有していると思い込む
203
ほんとうの終わりは 限界に到達することにはなく。
限界のないものを完成することにある
205
あなたの指遣いで わたしのいのちちの弦をふるわせて
音楽をあなたとわたしのものにしてください。
206
わたしの心の世界は 果実のようにまるみをおびて、
いのちのよろこびとかなしみのなかで熟れながら、
原始の大地の暗がりへと落ちていくだろう
創造の更なる深まりのために。
207
物にはかたち、力にはリズム、
人には意味がある。
208
智慧をもとめる人たちがいて 富をもとめる人たちがいる、
わたしはあなたとの信仰をもとめる うたをうたうために。
209
樹木が大地に葉を散らすように、わたしはことばを散らす、
わたしの思想は ことばになるよりも花となれ あなたの沈黙のなかで。
210
わたしは真実を信じて、完全なるものを心に描いて
師よ、あなたを手伝う、あなたの創造を。
211
いのちの果実と花のなかに
わたしが感じてきたよろこびのすべてを
祝祭の終わりに あなたに捧げさせてください、
愛が完全にひとつとなったときに。
212
ある人々はよく考えて あなたの真実の意味を探究した、
だから偉大である。
わたしは耳を澄まして、あなたの遊戯の音楽を理解した、
だから満足している。
214
蓮の花は うつくしさを天にささげる、
草の葉は はたらきを大地にささげる。
215
蔕にしがみついた青い果実の貪欲が
太陽にくちづけされて熟れると忘我に変わる
217
間違いは真実のすぐとなりに住んでいる
それゆえ わたしたちは騙される。
219
暗闇のなかで わたしに無駄な手探りをさせないで
わたしの心を じっと落ち着かせてください
夜は明けるだろう
そして 真実はその簡明さのなかに
あらわれるだろう と信じることで
220
しめやかな夜を徹して
わたしには聞こえる 気まぐれな朝の希望が帰ってきて
わたしの心をノックする音が
221
あたらしい恋がわたしにおとずれて
いにしえの恋の永遠の富をもたらす
225
人間は 神の花を編んで冠をつくるとき
花は人間のものだと主張する。
229
ことばで捉えることのできない わたしのあの思想が
わたしのうたに降りてきて踊る。
233
太陽の光は わたしに 世界の扉をひらく、
愛の光は わたしに 世界の宝をしめす。
234
太陽の光は わたしに 世界の扉をひらく、
愛の光は わたしに 世界の宝をしめす。
236
わたしの感謝のことばを あなたにささげて
わたしの沈黙から その最大限の敬意を奪わせてはならぬ。
237
人生の願望は
こどもたちの恰好をしてあらわれる。
239
わたしの人生の庭で
わたしの富は 光と影によって織りなされてきた
それは集めることも蓄えることもできない。
240
わたしが永遠に手に入れた果実は
あなたがすでに手にしている果実。
242
光は年を取らない、それは太古から変わらぬ光、
影はこの瞬間のもの、それは生まれつき老いている。
246
わたしは 人生のお芝居のなかで
自分の役の意味を取り違える
なぜなら 他人の演じている役について
わたしが知らないからだ
247
花は はなびらすべてを散らし
果実を見いだす。
248
わたしは残していく わたしのうたを
とこしえにめぐる忍冬の花ざかりと
南から吹く風のよろこびに。
249
枯葉は 土にまみれて消えるとっき
森のいのちに参加する
250
心はいつも 音と沈黙に
ことばをさがす
空が暗黒と光にそれをさがすように。
252
わたしのうたは
わたしがあなたのうたを愛しているとうたうこと。
253
ものいわないひとの声が わたしのことばに触れるとき
わたしはそのひとを知る それゆえ わたしはみずからを知る。
254
わたしはお別れのあいさつをする
わたしの至らなさを知りながら わたしを愛した人びとに。
255
愛の贈りものはあたえられるのではない、
それは受け容れられるのを待っている。
256
死がやって来て わたしにささやく、
「おまえのいのちは盡きた。」
そのときにいわせてください、
「わたしは愛に生きた漫然と生きたのではない。」
わたしはいう、「わからない、でも、たしかにわたしは
うたいながら いくたびも わたしの永遠を見つけたのだ。」
256
「さあ わたしのランプを点燈しよう、」
と星がいう、
「も思案してはいけない
明かりが闇を払いのけてくれるだろうかと。」
258
わたしの旅が終わらないうちに
すべてであるひとつものが
わたしのなかに見いだされることを祈る、
めぐりあわせとうつろいの流れに
たましいのぬけがらを浮かべて
あまたの人びとと漂いながら去りゆくままに。