竹崎の万葉集耕読

日本人のこころの拠り所である「万葉集」を味わい、閉塞感の漂う現代日本人のこころを耕したい。

夫婦円満の秘訣

2009-08-05 09:45:41 | 日記
日本人のこころの歌―私家版・万葉集耕読
  夫婦円満の秘訣       (19)

 恋ひ恋ひて 逢へる時だに うるはしき
  言尽くしてよ 長くと思はば
          大伴坂上郎女(巻四)
 逢いたい逢いたいと思って、やっと逢えたその時くらい、おやさしい言葉のありったけをかけて下さい。いつまでも添い続けようとお思いならば。

 坂上郎女は、旅人の妹。娘二人のうち、長女は家持の妻となり、次女は大伴駿河麻呂に嫁した。万葉歌人の中でも有数の相聞歌の名手とされている。
「やっと逢えたのだから、その時こそは、怨みつらみは述べずに、気持ちのいいことばを交わしてほしい。そうすると愛は長続きするが、反対に思いの丈を述べて、かえって気まずくなり、反発し合ってすぐ別れてしまう場合がある。隠しへだてのないのが愛し合っている証拠だと思っているのは幼い。」(中西進)
 さすがに恋愛のエキスパートだけあって、坂上郎女は恋する男女の心理のツボどころを押さえている。しかしながら、この歌は、作者自身の恋愛体験を歌ったものではないという説もある。どうやら、新婚早々で夫の扱いに慣れていないウブな次女のために作った、過保護ママゴンの代作相聞歌であるらしい。

男女間の恋慕の情は、畢竟、実生活とは別次元の観念(大抵は美しい誤解)から導き出されるものである。通い婚が一般で、めったに訪れない夫をひたすら待っている古代の妻妾と違って、今日のように日常、生活を共にする夫婦間では、こうはいかない。
 近ごろ、よく結婚式の祝辞などで引用される吉野弘の「祝婚歌」では、夫婦円満の秘訣をこのように諭している。「二人が睦まじくいるためには/愚かでいるほうがいい/立派すぎないほうがいい/立派すぎることは/長持ちしないことだと気付いているほうがいい」
 夫婦が添い遂げる要諦は、相手の美点を称えるよりも欠点に眼をつぶることだともいうのである。所詮、夫婦の情愛は身を焦がすような恋の想いとは無縁の、いじましい相互の気遣いで辛うじて保たれるものであろうか。
          

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