はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る 三章 その3 帰らない者たち

2024年05月20日 09時56分13秒 | 赤壁に龍は踊る 三章
徐庶はふんと鼻を鳴らすと、控えていた士卒長に言った。
「監督不行き届きだぜ。こいつは牢に入れておけ。あとから沙汰があるだろうよ」
「お手数をおかけして、申し訳ございませんでした」
指名された士卒長は決まり悪そうに言うと、部下に命じて、泣きべそをかいている男を連行していった。


「さて」
徐庶はまだ解散していない兵士たちの一団を見回した。
「言いたいことはおまえたちにも山ほどあるだろう。
だが、ここでこの弱っている若いのを痛めつけていい理由はどこにもないはずだぜ、ちがうか? 
だれだってこんな状況じゃ、具合が悪くなる。
明日にもおまえたちだって熱が出て動けなくなるかもしれないのだ。
そうなったときにお互い助け合うのが仲間ってもんだろう。
おまえたちの気持ちは痛いほどわかるが、だからこそ、弱っている仲間をいじめるような真似はしてくれるな。
これ以上もめ事が増えると、さすがにおれもかばい切れなくなる。
おまえたちが上の連中に締め上げられているところなんざ、おれだって見たくないんだよ。
だから、二度と同じことはしないでくれ。いいな?」


徐庶はなるべく兵士たちひとりひとりの目を見て訴えた。
どれだけ言葉が届いたかわからない。
兵士たちはしばらく押し黙っていたが、仲裁役を買っていた兵士が、
「元直さまのおっしゃる通りではないか。お言葉に従え! 解散だ、解散っ」
と声を張り上げたのをきっかけに、兵士たちはそれぞれの持ち場へ向かい始めた。
まだぶつくさ言っている者もいたが、ほかの仲間にたしなめられている。
これで、しばらく弱い者いじめはなくなるだろう。


『こういうときに孔明がいたらなあ』
と徐庶は思った。
孔明がこの場にいたとしても、やはり兵士たちに似たようなことを言ったことだろう。
だが、兵士たちの目の色がきっとちがったはずだ。
孔明の言葉には、不思議と説得力があった。
臥龍とはよくいったもので、孔明には人を呑む雰囲気がある。


『おれたちはいい相棒だったが』
と、感傷にひたりかけたとき、梁朋《りょうほう》が立ち去っていく兵士たちとすれ違うようにして駆け寄って来た。
「すごいや、さすがに元直さまだ!」
「すごくはない。連中が聞き分けがよかったおかげだ」
「ご謙遜だなあ。すごい頭突きだったね、音がおれのところまで聞こえてきたよ」
「そうかい」
言いつつ、徐庶は自分の額をさすった。


「ところで、そこの人は大丈夫なのかな」
梁朋の言うとおりで、横倒しになっている若い兵士は、同室の仲間に助けられてまた寝台に乗せられているのだが、ピクリとも動かない。
思い切り殴られたせいか?
徐庶は気になって兵士の脈をとってみた。
異常に速い。
そして、触れた肌は高い熱を持っていた。
まぶたを開いてみると、白目が濁っている。


「おい、こいつはいつから具合が悪いと言っていたんだ?」
徐庶が同室の兵士に尋ねると、その兵士も顔色が悪かった。
「一昨日から、ひどく悪寒がすると言っていました。
熱が出始めたのは昨日です。でも無理して仕事に出たんですよ。
ほかのやつらから、迷惑がられるのは、こいつもわかっていましたから。
それで、ふきっさらしのなかで警備の仕事をしたもんだから、今朝は起き上がれないほどで……」
そこで今日こそは仕事ができないと報告したところ、例の男が乗り込んできて、この若い兵士を外へ引っ張り出そうとして、ひと悶着あった、ということらしかった。


「元直さま、じつは」
と、部屋に残っていた仲裁役の男が近づいてきた。
その男はいかにも古参兵といったふうの、場慣れた感じの男だった。
仲裁役の男は、眉を八の字にして言う。
「高熱が出ている者が、ほかにもたくさんいるようなのです」
「なんだと? 皆、我慢しているのではなかろうな……いや、待て。
でている者が『いるようだ』というのは、どういうことだ?」
「いえ、それが、医者に診せにいかせると、そのまま帰ってこないものですから、われらもよくわからぬのです」
「帰ってこないだと?」
徐庶の問いに、仲裁役の男はこくりと頷いた。
「どんどん人が減っているので、みなの仕事は毎日増えていくいっぽうなんです。
これではまた、同じようなことが起きましょう」
「なんだそれは、どうして医者のところから帰ってこない?」
顎髭をひねって考え込む徐庶に、
「医者のところで休んでいるのじゃないのかなあ」
と、のんきな梁朋が言う。
そうかもな、と相槌を打つことはできなかった。


徐庶は妙に胸騒ぎをおぼえた。
兵士たちを省みないで、江東を攻めることばかり考えている曹操と、その曹操のご機嫌伺《うかが》いばかりしている蔡瑁《さいぼう》。
そのかれらの元で働く医者が、そんなに末端の兵士たちに手厚い看護をするものだろうか。


「その医者のいる場所は?」
「宿舎のはずれの、長方形の建屋です。
窓もないような建屋で、果たしてあんなところで養生できるものなのか……」
「そうか、その建屋には、おれが行ってみる。おまえたちは持ち場に行け」
徐庶は仲裁役に礼をいい、梁朋を持ち場に戻らせ、それから医者のいるという建屋に向かった。


つづく

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げんざい、四章目をコツコツ書いておりますよー。
まだ完成まで遠いですが、がんばって書いていきます!

それと、季節の変わり目のせいか、わが家は病人が続出!
自律神経をだいぶ狂わせているようです……
みなさまも、どうかお身体ご自愛くださいね。

ではでは、また次回にお会いしましょう(*^▽^*)


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