9月15日
3連休の2日目、いい天気だね。みんな、あちこち出かけてるんだろうね。今日は、早起きした。窓を開けると涼しい風が室内に流れ込む。
閉じ込めて澱んだ空気が循環されて爽やかだね。開放的に生きるってのは、こういう感触なんだろうね。
30度を割ってるね、28度くらいかなあ、いい頃合だね。ああ~、のんびりできるよ。ずう~と、こんなの続けば、尚、快適であろうね。
「28度くらいがか?」 違うがなあ、休みでのんびりがだよ。自然の欲求だよ。「張り詰めたゴムが緩るまって、それで得る安息だろ?」
そうだね、其れで云うと何度も何度も繰り返してるうちに、弾力も緩んで伸び縮みに張りがなくなって来てるね。「慣れだろうね」
「しかし、おまえのゴムは、まだ弾力が生きてるね」 気が小さいから慣れがでにくいのかね。「おまえ、緊張のし過ぎじゃないか? 馬鹿正直なんだよ」
緩んで見えてもね、根が緊張して在るから、ことの進展に滞りをもたらさないんだよ。仕事姿勢の基本に忠実なんだよ。「抜くのも大事だよ」
昔ね、親父の仕事場を掃除するのが日課だった。でかいモーターで丸砥(まると)を回転させて磨きを入れるんだけど、其の回転の動力はベルトで伝えるんだよ。
長く使ってるとベルトが弛(たる)むんだね、動力に遊びが出て丸砥の回転が落ちる。親父が、時折、ベルト外して弛みを調整してたよ。
お父さん、何してんの? 「うん? ベルトが弛むとな、いい仕事が出来ない」 だから締めてんのん? 「〇〇〇、人も弛んだ姿勢で仕事はできんぞ」 はい。
『昔の丸砥を回転させる作業台は、もっとごっつかったよ。今はコンパクトになって、もう、無いね』
「〇〇〇、後を頼むで」 はい。オレは、仕事場を一生懸命に掃除すんだよ。丸砥の回転盤の下側は、削れた砥石と鉄粉が一番溜まるんだけど狭いんだね。
其の上、福やクレオやパトラがウンチしよるから大変なんだね。コロンコロンのときはいいんだけどピーピーの時は最悪だよ。
上下に何本も張られたベルトと鉄の軸棒に設けられた滑車の間に身体半分潜り込んで、ハア、ハアなんだけど、臭いから息止めなあかんし苦しいし死にそう。
「福やクレオやパトラって猫か?」 そうだよ。親父は、全然、相手にならないのに、「また、やっとおるわ」って、云うだけで怒らなかったね。
「仕事場に排泄するとはけしからん奴等や」って、家ん中、走り回ってる福やクレオやパトラに怒鳴るけど笑ってたよ。オレが怒りたいよ。
汗かいて掃除し終わると、ほっとするんだよ。翌朝、「〇〇〇は、仕事の出来る奴になるな」って、親父が云って褒めてくれるんだよ。
仕事で嘘をつかない姿勢ってのは、それで習ったね。三つ子の魂、百までって云うらしい。オレも、そのくちだよ。だから、緊張感が抜けないんだよ。
「おまえのお父さんは、多くを語らず、子に生きる姿勢を伝授するね」 そうみたいだけど、受け手のオレも冴えてたよ。「それを云うかあ?」 云うよ。
働かざるもの喰うべからずなんて教育だったからね。なんでか知らんけど、今、考えたら、オレが一番、用事を一手引き受けてたような気がするよ。
「おまえ、他所の子とちゃうか?」 アホンダラッ、列記とした此処の子じゃ。戸籍謄本も確認済みです。「なんやねん、不安やったんか?」 ちゃうわ、アホッ。
オレの話は、木枯らし吹く道路の片隅だね。ゴミや枯れ葉が吹き寄せられるように話が転んでいくよ。
そういえば、昔、菅原文太の仁義なき戦い「吹き溜まりの詩」ってのがあったね。「そげなあ、うたあ、うとうとったかのお~」
オレ、レコード買ったよ。「へええ、ほんとなあ?」 大掃除のとき捨てたけど 「ああ、そうなああ~こんなの言いざまじゃ、まるで喧嘩を売っとるようなもんで」
全然、関係ないけど思い出したので「吹き溜まりの詩」の歌詞だよ。「やすう、見られたもんよのお~」
『仁義なき戦い』
吹き溜まりの詩 菅原 文太
風が身体を吹き抜けて あとは乾いた夜ばかり
骨の髄まで痩せこけた 影を引きずる 影を引きずる 吹き溜まり
夢という奴、道連れに 当てのないまま踏み迷う
オレは人生、横に見て いつか涙の いつか涙の 吹き溜まり
愚痴と云うなら、それもいい 笑いたければ、それもいい
路地の枯れ葉に おふくろの 子守唄聞く 子守唄聞く 吹き溜まり
俺が死ぬときゃ俺らしく 場所を探しに行くだけさ
花も飾るな 振り向くな どうせ世の中 どうせ世の中 吹き溜まり
『吹き溜まりの詩』