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短編p

2018-05-05 06:41:22 | 人生
大学時代の友人Pは
大金持ちの息子だ。

僕は大学を中退して、
六本木の路地のウナギの寝床みたいな小さな民家を改造して
隠れ家みたいなバーを経営するようになった。

Pは僕の店に足しげく通う常連だった。
Pの親は、TVCMでおなじみのホテル王の息子だ。
Pの太った母親が巨大なネックレスを下品に首に巻いて
「私が会長よ」と笑うやつ、一度は見たことがあるでしょ…


大学生だったころPはおぼちゃんでおまけに金持ちで有名だが、
それをひけらかすこともなく、優しい男だったので
砂糖に群がる蟻のように、女がやってきた。
タレントの卵、旧華族、美しい女医…
だが、Pは付き合って、ねんごろな関係になるとすぐ、女に捨てられた。
一度の例外もなく。そして若社長となった今も。
「どうしてPは、まぐわったあと、女とうまくいかないの?」
ある晩、カウンターで沈み込むPに問うてみた。
グラスを吹く僕をじっと見つめたPはやがて重い口を開いた。
「それはね、僕の親もそうなんだけれど、DNAのせいなんだなあたぶん」

彼の告白は、親のことからはじまる。

Pの父親は、Pと同じく、身震いするほど容姿端麗で、地方のホテル王の息子だった。
大学で東京に出てきたが、女がほおっておくはずはなく、何人もの
絶世の美女と付き合った。
しかし、どの女ともまぐわったあと、上手くいかなくなるのだった。
「神々しいまでに光る鮭が、産卵後、傷だらけにやせ細って、川面に浮かぶだろ…
うちの父親は、まぐわったあと、そうなるんだって」

カッコよかった男が毎回しわくちゃのサルみたいにしおれるんだったらいやだろうな
俺もあいづちを打った。

Pは続けた。
「ところが大学四年生のころ、多くの女性と付き合ってなげやりになった父は
奥能登へ一人で傷心旅行に出かけたんだ。
日も暮れたんで
宿を貸してもらおうと室町時代からある珠洲の古寺によったんだ。

そこの一人娘が、よくいえばふくよかなお福さんみたいな女性だったんだ。
それがかあさんさ。
傷心して寂しかったんだろうね、父親が言うには、魔がさしたらしい。」

「そんなかっこいいお父さんが、なぜブサイクで太った母さんと結婚まで下のさ」
「母親は子供のころから、庭で傷ついて飛べなくなったスズメを見るとほおっておけない性分だったらしい。
足の折れた犬なんかをわざわざ檀家から貰い受けたりして、育てたそうだよ」

なるほど…

そういえば!

その話を聞いた翌週、おればPに女を紹介した。

ギャンブルだったが、その後二人は結婚した。

女はNY出身のモデルL

彼女も透き通るようような美しい肌と、栗色の巻き髪と、セクシーなぷっくりした唇をしていて
日系人なので日本の文化にも通じているから会う男を例外なく虜にしたが、
なぜか枕を共にした後は男が去るという評判だった。

Pが深夜、バーにやってくると
うまく行った秘密を打ちあけた。

「彼女はまぐわったと、男が無言で背を向けようものなら、猛然と平手打ちをするんだ。
極端に言葉での会話を大切にするんでね、アメリカ育ちで家族を大切にする過程で育った
影響なのかどうか知らんが…」
「で、pは?」

「おれはまぐわったあとは、なんだかおしゃべりがとまんないんだよ。ウザイくらいにね」

そういって、Pはウインクをした。

よのなかはなんだっていい。
お互いの意図がすれ違ったのに、
お互いの糸が赤く見えたってことなのに。
恋は勘違いと
組み合わせでできているのだから…

今年も桜は咲いたな

そして散ったな

六本木の喧騒から離れた、隠れ家のような小さなバーは
今日も静かに更けてゆく…


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