生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)

2010-10-19 13:25:52 | 雑感
かなり揉めているのが利益分配。薬の原材料となる稀少植物の原産地は発展途上国,稀少植物から新薬を開発するのが先進国,というお決まりの構図の中,先進国の製薬会社が莫大な利益を独占している。その利益を分配せよ,というのが発展途上国の言い分。今回成立を目標としている名古屋議定書は、医薬品や食品のもとになる動植物や微生物など「遺伝資源」を利用して得た利益の一部を、利用国側が資源の原産国側に配分するためのルールを定めようというものだ。

何となく分からんでもないな,と最初は思ったのだが何か違和感が残った。発展途上国の主張は,名古屋議定書発効後のみならず,過去の利益も翻って利益配分せよ,というもので紛糾している原因はこの主張にある。植民地時代に植物を持ち出し,先進国で栽培,開発に利用し利益を挙げたのだから返せ,というロジックらしい。

植民地時代の話はさておき,原材料を「適正価格」で原産国から輸入し,本国で開発し利益を上げた場合,その利益は普通開発した製薬会社のものだと思う。原材料に対する対価は既に支払われており,それをどう活かすかは購入者の自由だ。購入者の努力で上げた利益を寄こせと言うのは正直図々しい発想ではある。

事案が特殊なのは,原材料が無ければ新薬という人類にとって特別な意味を持つ製品を開発できないだろうという部分と,新薬が開発できるかどうか,原材料の売買契約締結当時には分からない=価格に反映しにくい,という部分であろう。原材料にどれだけの価値があるか分からないリスクをどちらがとるのか,という話である。普通の売買契約なら売主買主がそれぞれ自己責任でギャンブルすることになる。

しかも,人類の共通財産と言う発想から,個々の主権国の所有権的主張を認めると言う方向に世界の潮流が変わったのも事情を複雑にしている。もっと本音を言えば,発展途上国にとっては国が富む為の最後の武器でもある。価値は未知数だが安売りできない,という政治的な側面もある。そういう意味でただの法律論では片付かないのが厄介だ。これに「植民地支配の負の遺産」という問題が絡むので複雑どころの話ではない。

最初,このニュースを聞いた時,「利益配分するか,して貰えない代わりに原産国は原材料の値段をふっかける」のどちらしかないな,と思った。ただ,原産国がレアアースと同様に政治的駆け引きに使ったりすると,原材料の購入価格が暴騰し,製薬会社が購入に二の足を踏むことになる。これは新薬の開発コストが爆発的に跳ね上がること意味する。これは人類全体の利益と言う視点から宜しくない。だとすると,法律論はさておき,適正な価格で売買した後,新薬が利益を生み出した時には途上国にも利益を分配する,その代わり原材料の価格決定に政治的駆け引き等を持ち込まない,というのが落とし所としては良さそうだなと思った。

現に,先進国は議定書発効後の利益分配自体には同意しているようだ(ただ配分率で紛糾するのは目に見えているが)。途上国側は,過去の利益も再分配せよ,と主張しておりこの辺をどう落とし込んでいくのかに人類の未来がかかっていると言っても過言ではない。新薬の製造開発が歩みを緩めることは出来ない。新薬の開発を心待ちにしている患者が世界には沢山いる。助けられる命を利益配分を理由に見殺しにすることは許されないだろう。

つーかね。いつものことなんだけど,世界最大の製薬開発国であるアメリカは批准していないんですよ。オブザーバーとしてのみの参加。アメリカは地球を食い殺す気なのかね。

「遺伝的多様性」という言葉を良く聞くようになった。この言葉を聞くと個人的には,15,6年前の就職活動のときに,未来の基幹産業として遺伝子銀行を設立しそこに融資し産業として育てるべきだ,と各金融機関に熱弁を振るっていたのを思い出します。熱かったね(笑)。遺伝的多様性を支える「遺伝子のゆりかご」といわれるエリアは実は非常に少ない。しかも開発や自然災害による「ゆりかご」の消滅の危険性は非常に高まっています。実は世界の遺伝的多様性が如何に脆弱で,ある日突然多様性がなくなることは珍しい事でもなんでもないことに気がつかなければなりません。興味がある人は,アル・ゴア著「地球の掟」を是非1度読んでみて下さい。

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