ぼくとサルは、暗がりの中、昼間はエビガニ取りをする小さなどぶ川に行き着いていました。エビガニ取りは好きではありません。なぜなら、鎧のような尻尾をひっくり返すと白い腹に青い一本の筋が透き通って見えて、気味が悪かったし、ここにいるエビガニは何処のよりも唐辛子のような真っ赤な邪悪なハサミを持っているのです。水が緑色の絵の具を溶かしたように濁っていても、真っ赤なハサミが見えるほどなのです。それにエビガニは共食いをする残酷な生き物なのです。エビガニの尾っぽの白身を糸にくくりつけてエビガニの鼻先にちらつかせると、あの邪悪なハサミでしがみついてくるのです。
どぶ川の片側はコンクリートの壁になっていて壁の向こう側は、戦前、大きな化学工場だった焼け跡でした。川ふちの草むらに分け入ると思いがけなく、筏が一つ浮いていました。厚い木の板を針金で縛り合わせた畳一畳くらいの大きさでした。真ん中にミカン箱が置いてあって、腰掛けのようになっていました。それに櫂に使えるように竹竿が川に突き立てられていました。
「筏遊びをしよう」ぼくが言いました。
サルは大喜びでぼくよりも先に筏に飛び乗りました。