猛暑、猛暑の夏でした。厳しい残暑も過ぎて、やっと、秋の風が感じられるこのごろ。庭の植物たちも新しい花芽を形成し、やがて来る春に備えています。自然を観察すると、教えられることが実にいっぱいあります。ちょっと手を加えると素敵なことが起こることがわかります。剪定を行い、根を整えて植え替えてやる等の作業が、的確であれば、元気になって大きな花も咲くでしょう。
自然との付き合い方もいろいろですが、ベートーヴェンも都市化し膨張するウィーンの街に住みながら、ハイリゲンシュタットの森に散歩して、多くのインスピレーションを得ていたようです。
交響曲第6番「田園」は音楽による森の風景ということでしょう。夜はランプの灯火、交通手段は馬車、という時代でしたが、産業革命の波は押し寄せて、貴族社会から市民社会に移行する混乱期。ナポレオン戦争に大きく揺さぶられる中、各国の王侯貴族との交際から、転換期を迎える時代の先端にいるという感覚が常にあったと思います。
最後の交響曲第9番「歓びの歌」(合唱付)は、ベートーヴェンがまだ10代の頃に始まったボン大学に聴講した時に触れた、シラーの詩に作曲したものです。その後、ワルドシュタイン伯爵の推薦でハイドンに認められ、ウィーンに留学。苦難がありながらも一徹の道であったと思います。彼は、技術的な進歩と共に失われるかもしれないと危惧される人間性の大切さに気づき、真心に強く訴える曲を書く必要があったということです。そのような人生があるのかと驚かされるばかりです。
現在、ますます皆に必要とされている「ベートーヴェンの第九」は、世界中で数え切れないほどの公演が行われるようになっています。そのことは、技術的な進歩が一人歩きして、人間性の進歩が危ぶまれていることの証ではないでしょうか。それぞれの分野に携わる現代人の一人一人が、「人格」「認識」「感性」を高めていけるよう、私達にメッセージが送られているのでは・・・