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村 (最終章 4)

2025年04月11日 | 小説

 欧開明の血縁者であるアレックスのY村への到来のニュースはまたたく間にY村の隅々までに知れ渡った。これは黄道の会のホームページよりも黄道の会のケーブルテレビによるところが大きかった。新しくY村に長期在住が決まった黄道の会の会員は逐次、黄道の会本部からケーブルテレビの番組で発表があるのだった。黄道の会初等教育センターに着任し、中国語と「至道」の授業を受け持つこと、簡単な略歴及び黄道の会における彼の等級が公開された。
 このアレックスの着任は、Y村の黄道の会の人々に異様な興奮をもたらした。特にアレックスと同世代のY村の若い男女がアレックスの一挙一動に注目するようになった。それはアレックスが欧開明の血縁者であり、若年であるにもかかわらず、アレックスの黄道の会における等級の高さからくる尊敬と畏怖もあった。アレックスは弱冠二十五歳で、第三層の指導七級(在家)を持っていて、そのことはケーブルテレビの新しくY村に着任した人物紹介の時、字幕で出た略歴の後に、それを追いかけるようにして出てきたので、テレビの前の黄道の会の会員たちに大きなざわめきが起こったことは想像にかたくない。彼の指導職の上には、病気で長期療養を続けている桐野富士夫の八級と十級の欧開明しかいなかった。また、アレックスは着任早々、辞任した桐野富士夫の後、長らく空席となっていた源体宇宙論研究会の主座に定例会の席上、満場一致で選出され、それが一大ニュースとなって、全世界の黄道の会に広まった。
 そのようなアレックスではあったが、職場の上司である来栖に対して、アレックスは従順な姿勢を貫き、自分が黄道の会における上位者であることを鼻にかけることもなく、また、初等教育センター内の教師間の和を乱すこともなく、誰もがアレックスが黄道の会の高位の者であることを意識することはほとんどなかった。ただ、アレックスの教え子である子供たちは陰でアレックスを「プリンス(王子)」とか「グレイドセヴン(7級)」とか呼んでいた。
 初等教育センターの中では、来栖とアレックスのように日本人同士でも、英語を必ず使用しなければならず、日常の教師や児童の日本人同士の会話においては、日本語を解さない外国人の教師や児童がまわりにいなくても、英語で会話することが求められた。そうは言っても、所長の来栖は、所長室に日本人教師を招き入れて、個別に話をするときなどは、仕事の話が終わって、雑談になるときは、日本語を使うことが常であった。
 また、来栖は、自分と関係が比較的よいと感じた若い新任の教師を自分の家に夕食に招くことを慣習にしていたが、アレックスにはなかなかその誘いを言い出せないでいた。それはひとえにアレックスが黄道の会の高位の者で、一定の影響力を持っている者と見なされ、個人的に親しくなることは、何か自分が出世や昇給などで自己の利便を図ろうとする意図があると他人やアレックス本人に思われるのを忌避したいと言う極めて日本人的な無意識の心の作用があったことは否めなかった。
 しかし、ある日のこと、来栖は所長室でアレックスと雑談中、あることがきっかけで、アレックスを家に招くことを決意した。それはアレックスの意外な質問だった。
「来栖先生は、『ふるしきだよしこ』と言う人を知っていますか?」アレックスは真剣な表情で来栖に尋ねた。
 来栖は驚いて、アレックスの顔をまじまじと見つめて、問い返した。
「その人の名前をどうして知っているんですか?」
「ぼくがこのY村で小学生のとき、その人を知っていると言う人から、その人が自分の本当のお母さんだと聞いたからです」アレックスはそう答えると、欧開明の妹である自分の母親が、自分の本当の母親ではないと感じるエピソードを語りたい様子だったが、来栖はそれを押しとどめて、アレックスに週末に自分の家に来ることを提案した。アレックスはちょっとためらう表情を見せたが、来栖に訪問を約束した。

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