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読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第5章 16)

2022年09月02日 | 小説

 若木は来栖の反応を見ながら、更に話を続けた。
「……八雲さんのお父さんはキャリア官僚でしたが、ある政治家のスキャンダルの尻拭いで自分自身が悪者にならざるを得ず、そのストレスからか過度の飲酒をするようになり、ある日突然、脳溢血で倒れ、そのまま意識を取り戻すことなく、亡くなられました。まだ、中学生だった八雲少年は、お父さんの死にたいへんショックを受け、勉強も手につかない有様でしたが、欧開明先生がじきじきに声をかけ、八雲少年と年齢が近い黄道の会の会員がフォローし、また、労災死と認められなかったので、経済的な援助(名目上は返済が必要な奨学金)が得られるよう便宜を図り、その結果、八雲少年は一念発起して父と同じ一流大学に合格し、卒業後、お父さんと同じ官僚になる道は選ばず、大手企業に務めましたが、三年後、欧開明先生のたっての願いで、このY村役場に勤めることになり、このY村にやってきました……」
   
来栖は怜悧で聡明な八雲を思い浮かべた。若木はなおも話を続けた。
「欧開明先生は八雲さんを大木村長の秘書とするだけでなく、黄道の会全体を統括する人間になるための英才教育を始めたのです。本来なら八雲さんを東京本部の鵬役員の秘書にするべきなのかもしれないのですが、そのようなことはせず、八雲さんをY村からたびたび出張させ、鵬役員の裏の仕事とも言える高齢者の資産のある会員の黄道の会への合法的で、しかも会員の親族からクレームの起きない寄進を滞りなく実施することの仕事を鵬役員のスタッフといっしょに執り行うようになったのです。これは限られた案件のみで、欧開明先生の方針で管理者や指導者としての自分の仕事を客観的にレビューする時間と視点を与えると言うことらしいのです。鵬役員の跡を継ぐと言う観点を持たないようにするためとも聞いています」
   
若木は八雲の反応を確かめるように、先に続けた。
「人事と組織管理についても、実際に八雲さんに黄道の会の末端の組織からリーダーを経験してもらうことにより、各層の組織のリーダーの条件及びその問題点を認識させることによって、将来全体を統括する人間になるための知識と素養を養うことを始めています。
「もう一つの面は、布教です。これも元々は鵬役員が陣頭指揮を執って進めていることですが、特に海外の方が日本のように偏見や新興宗教に対する社会的束縛も少なく、これも八雲さんが鵬役員の下で行うことになりました。また、日本国内では、欧開明先生の教えの通りに修行を進め、功徳を得た人々の口コミによる布教以外では、結婚相手が会員であった場合、その配偶者が結婚を機に黄道の会に入会することがとても多いです」
 八雲は自分の知りたいことが、なんとなく段々とわかってきたように感じ始めていた。
「八雲さんはそれほど多くない、黄道の会の会員と結婚後も入会しない人をリストアップし、その人たちと面談し、また時には欧開明先生と直接会う機会があるイベントにその人たちを参加させ、欧開明先生の常人ではない雰囲気を実際に体感させて、その強い感化力で入会をさせることもやっています」若木はそう言うと、来栖に黄道の会の将来を担う若手幹部の育成方法の例を更に語った。それは来栖にとって身近な存在でたいへん驚かざるを得なかった。
「来栖さんといっしょに分校で教師をされている李玲玲さんも欧開明先生が抜擢された一人です。彼女の使命は・・・・・・」
 来栖は身近にいる、時には彼自身に少なからぬストレスを感じさせる彼女がいったい何をしているのか気になり、思わず若木の言葉をおうむ返ししていた。
「彼女の使命は?」
「・・・・・・玲玲さんはある任務を負っています。それは国に例えれば、情報機関を統括する役割です。一つには黄道の会の会員たちや役職者たちの動向や不正の有無、それに加えて黄道の会の外側の一般社会の人々の黄道の会に対する印象や偏見の調査を含みます」
 若木のこれらの話は来栖に思い当たるふしがあり、玲玲の一連の行動の中からその目的を類推させることがあるように彼には感じられた。
 
その夜、来栖は若木との話の中で新しく知ったことを整理できず、また自分がそのような状況にどのように対応すべきなのかも皆目わからなかった。来栖は鵬役員に尊敬の念を抱き、鵬役員に言われたことは受け入れたいと言う気持ちがあったが、自分を突き動かす、一種の感動を伴った何かを、鵬役員との交流においては感じ取ることができなかった。では、何が来栖を突き動かすのだろうか?一つ確実なことは、超自然的な力を人に感じさせる、欧開明に直々に言われたことならば、感覚としては自分を納得させることになるのではないかと言う予感を来栖は漠然と感じていた。

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