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小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第5章 14)

2021年12月08日 | 小説

   分校に戻った来栖が目にしたのは、大屋が教壇に立ち、複式学級の児童たちの前で、自己紹介をしているところだった。玲玲の姿はどこにもなかった。
   来栖が教室の中に入ってきたのを目にすると大屋はふいをつかれた形であるかのように、少しおどろいた様子であったが、児童たちに向かって言った。
「……来栖先生が帰ってきました」大屋は教壇を下りると来栖の方に歩み寄った。
「玲玲先生は来てますか?」来栖が大屋に尋ねると、大屋は自分の責任でもないのに、申し訳なさそうに来栖に答えた。これには何か裏事情があるのかもしれなかった。
「あの方―――玲玲先生はいません。今日玲玲先生は出勤されるとまもなく、大事な用があると言われて、出て行かれました」なおも大屋は、鵬役員と上岡がY村に残ったP社の関係者二名とともに視察に来て、いつぞやの黄道の会の会議にも使われた二階の視聴覚教室にいることを来栖に告げた。
   来栖は急なこととは言え、自分が朝一で村役場に行くことは前夜に玲玲に知らせてあり、この職場放棄とも思える行動に出た玲玲に不満を感じた。
   来栖はとりあえず、自分が担当しない一~三年の児童に対しても自習の学習課題を与えようとして、それぞれの学習内容を把握しようとしたが、うまくいかず、あくせくしていたところ、赴任前の大屋が見かねて手助けを申し出てくれた。
   やがて、階段を下りてくる数名の足音がしたかと思うと話声が近づき、来栖は鵬役員一行と気づき、児童たちと大屋に断って、廊下に出て行った。それは鵬役員と通訳を自ら務める上岡と男性二名のP社の関係者及び鵬役員のボディガード、それに驚いたことに玲玲が随行していた。
「ああ、来栖君、大木村長との話はどうだったかね?」鵬役員が尋ねると、来栖はやや緊張して、答えた。
「たいへん責任重大な任務を仰せつかったと思います。お断りすることはできないことは承知していますが、少し準備期間をいただきたいと思います」
   鵬役員は来栖の言葉にうなづきながら、来栖に二人のP社の関係者を紹介した。来栖がつたない英語で自己紹介をし、彼らと握手をした。
   来栖が児童数や学年構成等公立の小学校の分校であるY村分校の状況を説明し、日本の教育制度――文部省が全国を管轄する制度も簡単に述べたのを上岡がP社の関係者に通訳した。
「ちょっと、いいかね?」鵬役員は来栖にそう言って、教室に入ると、教壇に立ち、児童たちに語りかけた。
「こんにちは!勉強の邪魔をして申し訳ないが、わたしを知っている人?」
 児童たちは最初いぶかしげな表情を顔に浮かべていたが、一人が手を挙げて言った。
「欧開明先生!」
   児童たちのほぼ全員(まれに両親の片方が黄道の会の非会員の場合も有り)が黄道の会の会員の両親を持ち、欧開明の名前は児童たちにもある程度浸透していたが、鵬役員のことを知る者はまだまれだった。
「偉いね!欧開明先生をよく知っていたね」
   鵬役員は微笑みながら、「欧開明先生」を知っていた児童を褒めたたえた。しかしながら、自分は「欧開明先生」ではないと告げると、チョークを手に取って、黒板に「月」二つと「鳥」の「鵬」の字を書いて、自己紹介を始めた。
「これは大昔中国にいたと言われる伝説の巨大な鳥の『鵬』(ほう)と言う字です。これがわたしの名字で鵬(ほう)と言います。もしかしたら、わたしの祖先は当時生き残っていた翼のある翼竜と言われる恐竜と関係があったかもしれません」
「恐竜」と聞いて、児童たちの一部からちょっと声が上がった。
   そのあと、修行を通じて、苦しんでいる人や悩みのある人を救う黄道の会の欧開明先生のことを話し、自分はお父さんやお母さんも参加している黄道の会の皆さんの代表だと言った。
   眼鏡をかけ、大学教授のような知的な風貌で有りながら、眼をギラギラ輝かせ、尋常ではない人物を感じさせる鵬役員は、児童たちに強い印象を残したようだった。
    鵬役員は来栖に、近々始まる初等教育センターの仕事は大きな使命感を持ってやるべき仕事で、欧開明も自分もたいへん期待していることを告げると、上岡とP社の二人、それになぜか玲玲も伴って、分校を後にした。
   玲玲は出て行くとき、来栖に向かって、自分は会議あるので、鵬役員らといっしょに行くけれど、翌日は必ず分校に来ることを告げた。
   来栖は黄道の会の自分の上級者とは言え、人の仕事の負担も考えない玲玲を苦々しく思いながら、赴任前の大屋の力を借りて、授業を進めざるを得なかった。

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