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小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第5章 12)

2021年04月17日 | 小説

   来栖が通されたのは、大講堂の中でも、一部の人にしか存在を知らされていない、「胡蝶の間」と呼ばれる特別な部屋だった。
   来栖は高級ホテルと見まがうばかりの部屋の装飾やソファなどの調度品の豪華さに驚いた。
   そこには、スタイナーCEOとP社の幹部数名が、黄道の会の鵬役員を長とする幹部たちと通訳を交えて懇談していた。P社では、スタイナーCEO以外、経営陣はもちろん、製品開発部門にも、多くの黄道の会の会員がいた。黄道の会の教義が製品開発において、よいヒントや体系化の方向性をもたらすものであることをP社の製品開発部門のスタッフは常々表明していた。
   スタイナーCEOは、P社の株式総会ではすでに日本のY村開発センターの設立について、承認を得ていて、開発ソフトの著作権保護において、極東地区のより信頼できる国としての日本の評価は高まっているとのことだった。また、黄道の会の本拠地としてのY村において、P社の開発スタッフの面々が黄道の会の体系的な修行を通じて得られる新製品の開発のヒントやよい方向性は、P社の企業生命とも言えるもので、これがわざわざP社がこの日本の黄道の会の本拠地のY村を選んだ主たる理由でもあった。
   来栖は研修センターの所長の香港人のヘンリー・ホイ(許)の隣りの席をあてがわれ、テーブルの上の自分の前に置かれた札には、英語表記の自分の名前以外に「普通8級(Normal 8 grade)と印字されていた。いつの間にか、来栖は何もしたわけではないのに、「普通10級」から、二階級昇進していた。これは自分の二親等以内の親族が会員になった場合は自動的に二階級特進することになっていたことがあとからわかった。
   ここでの来栖の役割は本人もよくわかっていなかったが、この場はプロジェクトに参加する人々の交流会とでも言った感じであった。
「来栖先生、ちょっと来てもらえますか?鵬役員がお呼びです」八雲に呼ばれ、来栖は鵬役員と歓談するスタイナーCEO他数名のP社の幹部の前に連れて行かれた。
   鵬役員が来栖をスタイナーCEO及び数名の幹部に紹介したあと、鵬役員は来栖に自己紹介するよう命じたが、小心者の来栖は、有名な外国企業のトップと対面して、頭がすっかり舞い上がり、しどろもどろで何も言えない状態になってしまった。
   鵬役員は何を思ったのか、来栖には聞こえないような小さな声で通訳の女性にささやくと、通訳の女性はスタイナーCEOたちに英語で来栖に関して、何事かを説明した。スタイナーCEOは来栖をじっと見つめ、にっこりすると、また、鵬役員に何事かを言ったが、来栖にはその英語は聞き取れなかった。
   いつの間にか、来栖は八雲に導かれ、元の席に戻っていた。研修センターの所長のホイが来栖に言った。
「これから急ピッチで建設されるP社の開発センターは、教育機関も併設されるのです。あなたもこれから忙しくなりますよ」
「えっ、ぼくがですか?」来栖は驚いて、ホイに問い返した。
   ホイは余計なことをつい言ってしまったと言う表情を一瞬顔に浮かべ、肩をすくめ、来栖には答えずに、席を離れ、懇談している人たちの方に行ってしまった。来栖が唖然としていると、突然、肩をたたかれ、来栖が振り向くと、そこには一人の中年の男がいた。
「来栖先生、この度は大事なお役目を仰せつかったようで、陰ながらわたしも応援させていただきますよ」大屋はこれから分校に来る予定の東京から来たベテラン教員だった。
「引き継ぎはもし来栖先生のご都合がよかったら、明日からでも、よいですよ」大屋は来栖に微笑みながら、来栖に語りかけた。
「引き継ぎ?」来栖は思わず問い返し、どうやら黄道の会から自分への何の説明のないまま、自分が分校を離れ、このプロジェクトの教育分野の一翼を担うことになっているらしいことに気がついた。

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