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読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第5章 10)

2020年11月29日 | 小説

   その日の総会は日本全国から集まって来た黄道の会の日本の会員だけでなく、世界各地の支部からも大勢の会員たちが参加し、大講堂の鳳凰の間はいつもは空席になっている後部の数列がすべて埋まり、また、普段は開放されていない二階席も満席となり、会場は異様な熱気に包まれていた。
 マナーがよいはずの黄道の会の会員たちではあったが、会場は私語をする人々のざわめきで、騒々しかった。序列第二位の正導師であり、普段は東京本部にいる小野村正導師がステージ上に姿を現したとき、会場のざわめきはぴたっとおさまった。小野村正導師は一礼をしてから、マイクの前に立ち、会場の皆に語り掛けた。
「皆様、遠路はるばる本年度の総会にご参加いただき、誠にありがとうございます。病気療養中の桐野首席正導師に代わり、本日の導師役を務めさせていただく、正導師の小野村です。まずはいつものように、宇宙の『源体』に敬意を表したいと思います。皆様、ご起立ください……」
 一同は起立して、小野村正導師の引導による「和光同源」のルーティンを行い、着席したが、会場は少しざわついていた。
 小野村が退出すると、入れ替わりにスーツ姿の八雲がステージ上に現れ、自分が今回の総会の進行役を行うこと、本日は例年通りの世界各エリアの代表の「弘教成果報告」のあと、黄道の会からの重大報告があることを会場の参加者に伝えた。
 型通りの各エリアの代表の「弘教成果報告」のあと、進行役の八雲が再びステージ上に現われ、次は「鵬役員のお話」と宣言すると同時に、会場から鵬役員の登壇を歓迎する、万雷の拍手が自然とわき起こり、しばらくの間、鳴りやまなかった。
 鵬役員はゆっくりとステージの上の壇上に立つと、マイクの向きを調整し、拍手のやむのを待って、口を開いた。
「皆様が、世界各地からこのY村本部にご参集いただき、本年度199X年の総会を無事開催できたことに深く感謝の意を表します」鵬役員は聴衆の反応を確かめるように間をおいてから、先に進んだ。
「先ず、皆様にご報告すべきことがあります。それは、警察に身柄を拘束されている欧開明先生ですが、この二、三日以内には釈放されると言う確実な情報を入手しました」
 聴衆は割れんばかりの拍手と歓声でこの知らせに反応した。そして、誰かが「万歳!」と叫んだのを、周りの人がいさめて、黙らせたくらいだった。
 鵬役員は話しを続けた。
「欧開明先生は身柄を拘束されたあともわたしたちに激励のメッセージを送り続け、今もなお、ご自分のことよりも、黄道の会の皆様一人一人のことをお考えになっています。最近も、欧開明先生からの直接のメッセージをお受け取りになられた方も少なくないと思われます……」
 ここで、鵬役員は一息入れると、ふところから折りたたんだ書簡を取り出し、読み上げた。それは欧開明からのメッセージで、現在の苦境を皆が一致団結で克服した後、我が黄道の会には大きな至福のときが訪れるだろう、と言う予言じみた言葉で語られたもので、禁欲的な修行に励む宗旨とはうらはらに、このY村にも経済活動にいそしむ関係企業があることからもわかる通り、経済的利益を得ると言う価値観を否定しない黄道の会の本質に関連していた。この大きな至福とは何だろうと聴衆が思う間もなく、鵬役員はステージの袖にいた八雲に指示をして、ステージにスクリーンを下ろさせ、ビデオの上映の準備を始めさせると同時に、鵬役員は壇上から、外国の支部からやってきた人々が座る一隅に手を振り、「ミスター・グレッグ・スタイナー」と声をかけた。やがて、西洋人の中では比較的小柄な一人の紳士が黄道の会のスタッフに導かれ、ステージに上って来た。
 鵬役員はその西洋人の紳士の手を握り、熱い抱擁を交わすと、聴衆にこの人物を紹介した。
「皆様もご存じの世界的大企業P社のCEO、グレッグ・スタイナーさんです」
 会場はしばしの沈黙のあと、大きくどよめいた。
「……皆様にたいへんよい知らせをご報告できることになりました。それは何かと言いますと、黄道の会はP社と共同で、あるプロジェクトを推進することになったことです。これから、『ハイテクノロジーエリア Yヴィレッジ』の構想のビデオをいっしょに見ましょう!」
 鵬役員はそう言って、ステージ上に斜めに置かれた椅子にスタイナーCEOといっしょに腰を下ろした。
「八雲さん、お願いします」鵬役員が八雲に声をかけると、スクリーンに画面が映し出され、音声が流れだした。

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