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読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第5章 8)

2020年09月22日 | 小説

   翌日の日曜は、来栖は朝から忙しかった。来栖は足の悪い母を助けて、先ず、午前中の母の黄道の会の入会の儀式に参加しなくてはいけなかった。また、その日の午後は黄道の会の総会が行われるはずで、そこで重大発表がいくつか行われると言う噂がY村の中ではすでに広まっていた。
   来栖が母といっしょに大講堂の「華山」の間に着くと、来栖の母と同時期に入会する中年の女性一人、若い女性一人、それにまだ十代後半と思われる男子学生がそれぞれ付添人一人を伴って、すでに部屋の中で、待っていた。
   やがて、その日は桐野首席正導師でも、普段東京にいる小野村正導師でもない、正導師の序列第三位の羽山正導師が儀式用の比較的派手な道服を身にまとい、被り物を頭にかぶって、その太った体を揺らせながら、部屋の中に入って来た。そのあとには、来栖の入会の儀式のときにはいなかった八雲、村の長老の猪田、北里、そして、来栖の隣人の原良が、それぞれ、スーツ姿で続いた。
 そして、いっとき部屋の外で騒がしい声が聞こえたかと思うと、あの東南アジア出身と思われる眼光の鋭いボディガードを伴った鵬役員自身が、ゆっくりと「華山」の間に入って来たので、これから黄道の会に入会しようとする計四名と付添人たちは大きくざわめいた。
   鵬役員は本日の入会予定者一人一人と言葉をを交わし、祝福の言葉を贈った。やがて、八雲が鵬役員を来栖の母と来栖の前に導くと、鵬役員は来栖の母に一礼し、静かに口を開いた。
「このたびはご入会、たいへんおめでとうございます」
 来栖の母は頭を下げ、それに答えたが、何かぎこちなく、おどおどしていた。来栖の母は鵬役員が、欧開明を頂点とする指導職ではない、いわゆる在家信者最高の特別五級の資格を持ち、黄道の会の組織のトップに立つ人物でありながら、たいへん気さくで優しい人物で、会員の皆から好かれていることを原良から聞いていたが、初対面でもあり、緊張せざるを得なかった。
   鵬役員は来栖に微笑み、うなずくと自分の席についた。ついでに言っておくが、本日の入会予定者四名は祭壇正面に向かって立つ羽山正導師の後ろの一番前の列の席に座り、付添人はそれぞれ、前から二列目の自分の身内である入会予定者の真後ろの席に座っていた。鵬役員及び黄道の会のY村の面々は第一列目と第二列目から二メートル位の距離をあけたその後ろの第三列目に腰を下ろしていた。
 黄道の会の儀式は、日本の多くの神道と同じように「けがれ」や「みそぎ」の概念がある中国の道教の儀式からの流用が多いとは言え、まるで同じと言うわけではなく、どうしたわけか、日本の一部の神道にもある、それとは真逆の古代中国の「いけにえ」の思想があり、さすがに羽山は、作法を重んじる桐野のように祭壇でいけにえを屠る(ほふる)ことはせず、すでに屠られた一羽のにわとりが祭壇にささげられていた。また、オレンジ、桃、バナナなどの果物も祭壇に供えられ、赤い太い蝋燭に火が灯され、あの人をうっとりさせるようなにおいの香がたかれていた。
「これから入会の儀式を始めます。皆さん、ご起立ください」羽山の言葉に皆が立ち上がった。
   カセットレコーダーで 中国の民族音楽のような楽曲を流し、儀式が始まった。壮麗な音楽の中で、羽山は歌のような節のついた経文を七八分間にわたって、唱え続けた。そして、ついにクライマックスに達すると、今回入会の四名の一人一人の名前を呼び、羽山及び入会者四名は羽山と同じように、床に膝をつき、頭を床につける礼を行った。
   入会の儀式が終わると、全員、別室に移動して、恒例の食事会が行われた。中華テーブルは一卓十人前後の席数だったので、新規入会者の四名と鵬役員、八雲、猪田、北里、それに正導師の羽山が座り、もう一つのテーブルには、来栖も含めた各入会者の付添人四名と原良、それに、あの鵬役員のボディガードが座った。
   乾杯の前に、鵬役員の短いスピーチがあったが、それは今回入会の四名に対する熱烈な祝意と感謝の言葉であり、また、特筆すべきことは、現在拘置所で取り調べを受けている欧開明にも、新規入会者四名の一人一人の状況を必ず報告すると表明したことだった。やがて、鵬役員の音頭で乾杯が終わると、その日は、午後に総会がある予定だったので、八雲の指示でアルコール類がすぐに片づけられ、酒好きの北里はやや物足りなさそうだった。
   会食中、来栖は隣りの席の原良に肩をたたかれ、ささやかれた言葉にたいへん驚いた。

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