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読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第4章 19)

2020年01月11日 | 小説

  「一本の樹」は一つの展望台で、実は来栖と玲玲が遠足の下見に来たときは、たまたま整備中で閉鎖されていて、見ることができなかった場所でもあり、コースには含まれていなかったが、山間の高所の盆地であるY村を一望にできる数少ないスポットであるとのことだった。来栖は玲玲のそばに歩み寄り、この「一本の樹」の展望台に立ち寄ることを彼女に告げると、展望台に続く、階段を上り始め、児童たちもそれに続いた。
   皆が展望台に上ると、歓声が一斉にあがった。それはY村の村役場、大部分が地下にあり、エントランスのみを地上に現わしている黄道の会の施設の大講堂、研修センター、黄道の会Y村本部、食品会社の工場、製菓会社の工場、化学品の工場などが盆地の中の数キロの範囲内にあるのを一望にすることができたからだった。それらはY村盆地の真ん中を縦断するように流れる粟川を筆頭に、篠川、幾野川などの流れがある中に点在していた。二、三人の児童が自分たちの分校を発見し、来栖に指し示した。来栖は自分たちが日頃活動しているY村を俯瞰して全体を見ることは初めてで、ふと、今までまったく気がつかなかったあることに気がついて、たいへん驚いた。そのことを打ち明けるべき相手はそのとき玲玲しかいなかったが、来栖とは少し離れたところでたいへんにぎやかにはしゃぐ児童たちの輪の中にあって、来栖のそうした個人的発見の話を聞く態勢にはなかった。また、来栖は、黄道の会のある種の意図と関係があるかもしれない、そのことを、黄道の会の上層部の指導的幹部でもある玲玲に指摘することがあまりよいことではないような感じをふと抱き、自身が黄道の会の会員であるにもかかわらず、黄道の会に対して、時折懐疑的な話もする若木医師に会った時に話すことに決め、それを心に深くしまいこんだ。
   来栖は自分の腕時計を見て、このあとの予定がたくさんあることに切迫感を感じ、皆に声をかけた。
「みんな、話を聞いて!あとの予定がつまっているので、今から出発します!」
   途端にもっと展望をしていたかった一部の児童たちからは失望の声も上がったが、彼らもしぶしぶ来栖の指示に従って、また元のように列を組んで歩き始めた。
  「老君洞」はそこからあまり遠くなかった。森林の中の道を五分も歩くと、やがて、一同は、赤く塗られた壁の色も鮮やかな中国風の建物の門にさしかかった。
   その門のところで、着物のようなぼろぼろの服を着た、髪が伸び放題で、長い白い髯の大柄な老人が地面にあぐらして、坐っていたが、児童たちが近くによると、急に立上り、そのまま門の中に入って行った。
   来栖と玲玲は途中で迷子になった児童はいないかどうか再確認し、問題無いことがわかると、来栖が先頭になって、その門の中に入った。中では、高位の証明である黄色の道服を着て、黒い独特の帽子をかぶった住職の羽山正導師と、それぞれ青紫と黒の道服を着た二人の出家修行者が皆を出迎えた。児童たちは初めて見る道士の服装や容姿を不思議そうに、じろじろと視線を走らせていた。
 来栖と玲玲が羽山に挨拶をすると、羽山は満面に笑みを浮かべて、口を開いた。
「……おはようございます。『老君洞』の住職の正導師の羽山です。こちらはここで出家修行をしている、宇田導師と庄内副導師です」
 紹介された宇田と庄内はともに、痩せて背の高い男性二人で、年齢は三十歳くらいと二十代と思われ、比較的若い修行者たちだったが、羽田は中年で、年のころは五十歳前後の太った眼鏡をかけた男で、かなりのおしゃべりのようだった。来栖と玲玲がいろいろ問いかける間もなく、自分でどんどん皆を引っ張って行き、やがて、一同は講堂のような建物に導かれた。そこは映画館のように傾斜のついたフロアで、固定の座席がおよそ二百席くらいあるようだった。羽山の指示で、来栖や玲玲も含めて、Y村分校の児童たちは皆、前列に座らせられた。前方にはステージがあり、少しだけ、中国古典芸能のものらしい小道具が残っていて、その上ではときどき何かが演じられることもあるような感じだった。
「……皆さん、ようこそいらっしゃいました!『老君洞』の住職の羽山です。これから皆さんに太極宮を参拝してもらう前に、紹介ビデオを見てもらいます。これは皆さんもよく知っているあの欧開明先生の説かれた『源体宇宙論』と深い関係がある『道教』の説明です。そのあと、実際の参拝の方法をビデオの中でご紹介します。よいですか?」 
 羽山がステージ中央で皆に向かって問いかけたところ、「はーい!」と言う児童たちの声が響いた。

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