ホワイトボードに貼られた大きな紙には、まだ、八雲と今回呼び出された四人との話の中に出ていなかった第三の場所――それは、この村にあっては比較的大きな建造物である大講堂の影になる北側の、人がめったに立ち入ることもない坑道入口跡の周辺を中心に、他の二か所、第一の場所のU神社裏手の大亀池近くの大木付近、それに第二の場所、植山南斜面の通称「お花畑」との位置関係を記した図だった。なぜ、この第三の場所の大講堂裏を中心にしているのかは、北東にあるU神社、南西にある「お花畑」を結びつけた対角線のちょうど真ん中にあるからであることは一目瞭然だった。しかし、この三つの場所の位置関係が、古敷田よしこの嬰児遺棄事件とどのようなつながりがあるのかは古村の説明が必要で、またそれに加えて、特筆すべきことは、この地図には、赤い油彩ペンで大きな印をつけて、北西の位置にあの来栖や三方が住む「ぶな屋敷」と呼ばれるアパートがあり、その対角線上の南東の位置には、これまた印をつけた来栖の勤めるY村分校があった。
古村は語り始めた。
「古敷田よしこ被疑者の二転三転する供述の中で出てきた第一の現場のU神社の裏手の大亀池近くの大木の付近ですが、警察のローラー作戦の捜索がありましたが、この場所では今のところ何も見つかっておりません。また、念のため、Y村役場の協力を得て、大亀池の水を抜く、かい掘り調査も行われたとのことです……」古村は後ろの方にいて、メモをとる、保村と畠山の方に視線を走らせた。
「……第二の場所、植山南斜面の通称『お花畑』では、土の表面はもちろん、原良氏がショベルカーで掘り返した部分については、その動かした土の範囲内の全面的な調査が行われ、現在も進行中とのことです。そして、第三の場所、大講堂裏の坑道入り口跡付近ですが、まだ、第二の場所の捜索が終了しておりませんので、終了しだい、警察の方では捜索を行う予定とのことです……」古村は一呼吸おいてから、なおも話を続けた。
「……話を続けます。この地図の左上の赤いマジックペンで印をつけた通称『ぶな屋敷』と呼ばれるアパートですが、古敷田よしこ被疑者が第一の場所の本人立会いの捜査のとき、警察の捜査員のちょっとしたすきに逃亡し、ここにおられる、来栖信一さんの住むこの『ぶな屋敷』のアパートの二階の部屋に駆け込んだことがありました。彼女の供述では来栖信一さんは東京にいたときの交際相手だったとのことですが、この供述は信ぴょう性に欠けると思われます……と言うのも、噂がすぐ広まる小さな社会のY村において、来たばかりの来栖信一さんの容貌の噂を聞きつけ、彼女が強い関心をよせたことを裏づける言動を目撃された方が何人もあるからです……」
このときも、八雲の表情にはまるで変化はなかったが、後ろの席にいた保村があたかも自分が受け入れられない情報を耳にしたかのように、なぜか首を振るのが目についた。そして、来栖本人はこの古村の言葉を聞いて、自分の事実無根の疑いを晴らす新情報が出たことに、ほっと安堵するしだいだった。
「……さきほども申しましたとおり、このY村の小さな社会では何か他人の好奇心を刺激するような情報があれば、またたく間に村中の人が知ることになります。その観点から言いますと、今回『黄道の会』が協力を仰いだここにいらっしゃる四名の方々及び外国の方のシュナイダーさんは皆、古敷田よしこ被疑者との接触を目撃され、噂になったことがある方です……」古村がここまで言いかけて、突然、Y村郵便局長の前野川が発言をした。
「……とんでもない話です。弁護士の先生、誤解されたら困ります。わたしの場合、よしこの方がわたしにつきまとって離れずにたいへん困っていたんです。このことは村の皆も知っての通りです……」前野川の反応は少し過度なもので、返って人に疑惑を起させるものだったかもしれなかった。もう一人の細村はなぜかにやにやしていて少し気味が悪かった。
弁護士の古村は前野川の発言に対して、何らコメントをすることなく、話の先を急いだ。
「……ここで、当時改修工事中だったY村分校での古敷田よしこ被疑者の行動の問題が新たに判明しました……」古村がそう言うと、今まで誰も知らない話ということで、その場にいた一同はざわめいた。





