八雲は眉間に皺をよせ、この突然の来訪者に対しての不快感を隠そうともしなかった。八雲が指示を出すまでもなく、日頃欧開明の付き人をしている二人の若者の内、強面でいつも険しい顔つきをしている方が扉を開けて、外に出て行き、後ろでに扉を閉めると、ひとしきり廊下で来訪者と話をしてから、閻王の間にまた舞い戻ってきた。八雲の耳元で何ごとかひそひそとささやくと、八雲から一旦身を引き離し、八雲の表情をうかがったが、一考した八雲に手招きで呼ばれ、今度は八雲が若者の耳元に何事かをささやいた。若者は部屋を出て行くと、やがて、この大講堂に黄道の会の非会員が入るのは大捜査時の機動隊の化学部隊の侵入以来のこととして、特筆すべきことだったが、H県警捜査課の保村とその同僚で格闘家でもある畠山があたりをうかがうようにおそるおそる入室し、黄道の会の側の同意を得て、自分たちで、部屋の片隅の移動台車の上にあったパイプ椅子を持ち出し、この呼び出された四人の背後の位置で八雲とこの四人のやりとりを傍聴することになったようだった。
黄道の会に呼び出された四人は、誰も振り返って保村と畠山が入ってきたのを見る者もなく、誰が八雲と自分たちのやりとりを傍聴を始めたのかはわかっていなかった。しかし、H県警の捜査対象となっていなかったことから、保村と畠山とは面識がない、三方だけが何気なく、背後をちらっっと見て、傍聴者の二人を確認した。
八雲が資料に書かれた最初の場所について言及した。それは、この村がいにしえの源平の戦いに敗れた平家の落人が住みついたと言われることと関係あるのかもしれなかったが、平家とゆかりのある遠い西国に有名な総本社がある神社の裏手の池の周辺にある樹齢数百年の大木の近くだった。
八雲にこの場所についてのよしこに関わる情報はないかと聞かれ、誰もが沈黙していたが、八雲に指名されて前野川は一瞬ためらったが、ふと何かを思いついて、口を開いた。
「……これはその場所で『よしこ』の不審な行動を見かけなかったかどうかという、今回の質問の主旨とは外れるかもしれませんが、そのあたりで『よしこ』を見かけたかどうかと聞かれれば、わたしはだいぶ以前、あの池で息子といっしょに釣りをしたことがありますが、そのとき、あの『勘吉』が『よしこ』にちょっかいを出しているのを見たことがあります……」
「……確認させてください。『勘吉』とは、このY村にあって、自分の飢えをしのぐため、農作物を盗んで食べることを繰り返したことから、窃盗の罪で起訴され、現在服役中の金村勘吉のことでしょうか?」八雲は機械的とも言える感情を交えぬ口調で問い返した。
「はい」前野川は短く答えた。
「……『ちょっかい』とは具体的にどんなことをしていたのでしょうか?」八雲は続けて、前野川に問いただした。
「……『勘吉』は『よしこ』におれと結婚してくれ、と言って、『よしこ』を追い回していました」そう前野川が言うと、八雲が『勘吉』に対して差別的な見方を持っていたことの証明にもなったが、思わず吹き出して、押し殺した笑い声が出てしまった。三方も細村も少し緊張が取れて顔の表情をゆるめていたが、来栖だけは緊張をほぐさずにいた。一方、後方で傍聴していた保村と畠山は、前野川の言葉を一言も漏らすまいとメモを取るのに忙しかった。
「そのあとどうなりましたか?」八雲が前野川に尋ねた。
「ご承知の通り、『勘吉』は足が悪く、いつも右足を引きずっているので、足の速い『よしこ』に逃げられました……」前野川はそう答えると、続ける話はもうないようだった。
八雲は神社の裏手の池の近くの大木付近での『よしこ』の目撃情報がないかどうか三方と細村、そして来栖に一人一人尋ねたが他の三人からは何も聞ける話はなかった。
そして二番目の場所として、よしこ本人が特に気に入っていて、この村で通称「お花畑」と呼ばれる、春から初夏にかけて、山の南側の斜面に誰が植えたのか、美しい花々が咲く一帯があげられた。これについて、意外にも、沈黙を守っていた三方が、ある目撃情報を報告した。





