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小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第3章 20)

2018年10月21日 | 小説

   来栖はようやく黄道の会の会員の大勢の外国人を伴って、大講堂から百メートルほどの距離の研修センターにたどりついた。
   大講堂の研修センターの宿泊施設のエントランスで、来栖に外国人会員の誘導を依頼した土岐が、香港出身の正導師のヘンリー・ホイ(許)と日本人の二名の女性の導師を伴って、来栖と盛山研修センターから避難してきた外国人の会員たちを出迎えた。
「ああ、来栖さん、お疲れ様です。急なお願いですみませんでした。盛山の指導スタッフが警察の事情聴取で動けなかったものですから……」
   来栖はリーダー格の男子プロテニス選手によく似たグレッグや二、三人と握手をし、外国人たちに手を振ると、そのままぶな屋敷の自分のアパートに帰ろうと一瞬思ったが、やりかけの仕事があるのを思い出し、分校に向って、もと来た道を引き返して行った。
   分校に戻ると、来栖は正面の出入り口に鍵がかかっていることに気がついた。来栖はいつもは携帯している鍵を今日は職員室にある自分のバッグに入れたままであることを思い出し、このままでは校舎に入れなかった。来栖は玲玲がすでに帰宅してしまったことも考えたが、念のため、校庭の方にまわり、外から職員室の中をのぞきこむと、日が暮れて照明が点いていたが、玲玲の姿はなかった。来栖はさきほど黄道の会の会員の外国人たちがこちらに向ってくるのを見るために開けた窓にロックをしなかったことを思い出し、窓ガラスのサッシに手をかけると、外から開けることができ、来栖はなんとかよじ登って、そこから職員室の中に入ることができた。
   来栖は校舎の廊下に出ると、「玲玲先生~!」と大きな声で玲玲を呼んでみた。
   しかし、返答はなかった。
   来栖は階段を上って二階に行ったが、そこは暗く、照明を点けて、同じように玲玲を呼んでみたが、返答はなかった。
   二階の教室を一通り見て、来栖は職員室に戻ると、コートを着て立ち去る準備をしていた玲玲がいたので、驚かされた。
「……玲玲先生、さっきはいなかったのに、いったいどこへ行っていたのですか?」
   来栖が玲玲に尋ねると、玲玲は少し微笑んで「トイレ」と答えて、来栖を面食らわせた。
「……正面の入口に鍵がかかっていましたけど?」来栖がなおも問いかけると、玲玲は答えた。
「……あとから来る外国人の方が入って来ないよう、鍵をかけたんです……」玲玲はそう言うと、用事があると言って、早々に立ち去った。
   来栖は自分の仕事をひとしきりやったあと、帰ることに決め、分校をあとにした。
   警察の大捜査があった日から二三日は、夜間でもY村は大講堂のある一帯を中心に騒がしかったが、今は黄道の会に対する監視のためであろうか、一台の大きな警察車両が大講堂の駐車場に駐車し、数名の警察官が大講堂の前に常駐しているだけで、比較的安穏であった。とは言うものの、さきほどは大勢の外国人を引き連れて、その前を通ったので、なおさらだったが、来栖は自分が警察官の視界に入る範囲を通り抜けることになんとなく不安を感じ、その付近を通ると近道であったにもかかわらず、朝の通勤時と同じように、少し遠回りをして、灯りのない暗い森の中の朽ち果てた神社の境内を通り抜けて行った。
   来栖がぶな屋敷のきしむ階段を上り、二階に上がると、日本の民謡の節回しにも似た歌のように経文を念じる声が聞こえてきた。それは熱烈な黄道の会の会員である三方夫妻や原良の部屋からではなく、来栖の部屋から聞こえて来るので、来栖は驚かされた。
   来栖の部屋のドアには鍵がかかっていなかった。そのまま入ると、あの独特の線香の匂いが部屋の中にたちこめ、赤い祭壇に向って熱心に経文を念じているのは、来栖の母と原良だった。
「……お母さん!」来栖が思わず発した言葉に一瞬振返った来栖の母は「お帰り」と一言、言うと、なおも原良といっしょに経文を念じ続けているのだった。

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