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小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第3章 19)

2018年09月16日 | 小説

   電話の受話器の奥底から聞こえてくるのは、確証はなかったが、八雲の声によく似た声で、それはテープの録音の声であるかのように来栖に聞えた。
「……欧開明先生の説く、『源体宇宙論』の教義を実践によって体得した人々は、皆、自分の人生が全て黄道の動きが反映された自然現象であることがわかり、運命を受け入れるようになります。不幸にあっても、心を平静に保ち、自己否定に陥ることも、打ちひしがれることもなく、前向きに立ち向かい、やがてそれを克服し、また、幸福の絶頂にあっても、驕り高ぶることは一切ありません。ゆえに世界各国の人々が『源体宇宙論』を受入れ、多くの人々が『黄道の会』の会員となりました……」
   突然声のトーンが変わって、紛れもない八雲本人の声が聞こえてきた。
「……ああ、もしもし、ごめんなさい。テープが回ってしまったようで……来栖先生ですか?八雲です。今、土岐さんと代ります」
「もしもし、土岐ですが、来栖さんにお頼みしたいことがあります。実は、今日、盛山の修行道場で、原因不明の爆発があり、合宿修行中の外国の方々が、避難のため、そちらへ下りて来ると思います。お願いは、その外国の方々を大講堂の研修センターの宿泊施設へ誘導していただきたいのです……」土岐は来栖に言った。
「……もう、その方たちが、この分校にやって来ました」来栖は職員室の扉の向こうの廊下の中で、足音と外国語の話し声が段々と大きくなるのを感じていた。
   来栖は土岐との話を終えて、電話の受話器を置くと、意を決し、職員室の扉を開け、廊下に出ていくと、外国人たちの視線が一斉に来栖に注がれた。
   驚いたような「オゥ」と言う歓声が外国人たちの間から漏れた。来栖は亡くなった父と似ていたが、日本人の中でも特に異彩を放つ風貌で、古代日本に渡来したと言われる西アジア人の遺伝子が何代も経て、復活して現れたかのような鉤鼻で彫りの深い顔をしていて、ハーフでなければ、風貌からは、ぎりぎり日本人と言った感じだった。彼らは外見から来栖を英語がわかる外国人と思いこみ、興奮した早口の言葉を来栖に浴びせかけた。
   来栖は最初、どうしてよいかわからず、うろたえていたが、やっとの思いで、拙いカタカナを読んだような発音の英語で言った。
「……ハロー、エヴリワン、アイム、シンイチ、クルス、ティーチャーオヴディススクール、エンダ、メンバーオヴ(英語で『黄道の会』を何というのかわからなかった来栖はここで黄道の会の宇宙の『源体』に敬意を表する時の作法で左手を挙げて見せた)、アイノウ、ユーケイムフロムモリヤマトレイニングセンター、ビコーズ、ゼアラービックアクシデンツ(来栖は『爆発』の英語がわからなかった)。ソウ、アイウィル、ブリングユートゥーアナザートレイニングセンター イン Y ヴィレッジ、イッツァ、アバウトヒフティーンミニッツ、ウォーク、フロムヒア……」
   途中何度も彼らに聞き返されたが、どうにか意味を伝えきると、来栖はなんとか廊下の人々を連れ出し、分校の門を出ると、道路上にいた人々も合流して、眼下の大講堂のある一帯へ向かって行った。
   来栖が左腕を軽く触られ、振り向くと、奔放な言動で有名な当時の男子プロテニスプレイヤーによく似た、一人の外国人の青年が、来栖に背後の分校の門の方を指し示した。来栖が見ると、そこには来栖の名前を呼んで、手を振る玲玲の姿があった。来栖は大勢の人を帯同しているので、戻るわけにはいかず、手を振って、それに答えた。

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