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読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第3章 18)

2018年08月18日 | 小説

   児童たちが登校を始め、来栖も分校の門に立って、児童たちを迎えているときだった。玲玲が足早に盛山の方角から駆け下りて来た。もし、仮に、玲玲が盛山に向ったとしても、盛山の黄道の会のなんらかの施設があると思われる一帯は、分校から歩いて行くにはやや遠く、玲玲がさきほど職員室を出てから、徒歩で盛山に向ったとしても、そこに到底たどり着いたとは思えなかった。ましてや、その盛山の問題の場所で、玲玲が何かを行い、分校へ戻って来るような時間はまったくなかったことは間違いなかった。日頃、児童たちからたいへん好かれている玲玲だったが、予想外の方角から現れた玲玲を見て、歓声を上げる児童たちに微笑みながら、何事もなかったかのように、児童たちの肩を抱くようにして、いっしょに校舎へと入って行った。
   最後に登校してきた児童たちといっしょに校舎に入って来た来栖は、玲玲にどこに行っていたのかと問いただすと、実際の真偽はともかく、あらかじめ答えを準備していたらしく、それはたいへんもっともな理由だった――分校から盛山に向って道を少し上がったところに、主として玲玲が分校の児童たちといっしょに露地トマトやトウモロコシを栽培している菜園があり、防護ネットで菜園は囲まれていたが、玲玲の話では、この近くに多い野生の動物に荒らされていないかどうか見に行ったのだと言う。これについては、もしかしたら実は黄道の会指導三級の玲玲がかかわる何か口外できない、これとは別の真の行動があるのかもしれなかったが、玲玲の傍若無人の強いマイペースともとれるこうした行動を例として、自分と同等以下と考える人間に対して、相手の立場を考えての気づかいをあまりせず、上から目線で権力志向の強いこの玲玲とだけいっしょにやっていくことに、来栖が日常のこの違和感を常態として、そのまま受け入れる必要があった。そのようなことから、来栖はY村分校の小学校教諭としての今までの同僚であり、また黄道の会の会員としては先導者の役割をしてくれた三輪友紀が重篤な病気のため、来栖の身辺からしばらくいなくなることは、仕事の上でも、友人としての心支えとしても、来栖にとって大きな損失であることを痛感せざるを得なかった。 
   昨日、いわゆる『休眠』状態の人間が三人発見されたと言う盛山へ、朝から警察車両や報道関係者のものと思われる、かなり多くの車が向って行ったこと以外、その日は平穏無事に何事もなく、過ぎて行く一日のはずだったが、一日の終わりに近づくころ、そのできごとは起った。
   夕刻、まだ日が暮れる前、児童たちが皆、下校したあと、来栖がいつものように、テストの採点をしていて、ふと窓の外に眼をやると、盛山の方角から、比較的多くの人々が怒涛のように駆け下りて来るのが目に入った。それは、何か背後から追いかけてくるたいへん恐ろしいものから逃げるため、全力疾走してくるようにも見えた。どのような人々が駆け下りてくるのか――来栖がこの村で今まで一度も見たことも無かった外国人の男女――それはアフリカ系や東洋系の外国人も少し含まれているようだったが、外見から西欧人と思われる人々を主とする、外国人の群れで、少なくとも三十人以上はいるようだった。
   その恐ろしい何物かに追われているかのような、必死で逃げて行く人たちは一瞬、分校の前を素通りし、村役場や黄道の会の関係会社のある一帯に向って下りて行こうとしていたようだったが、突然、先頭の人々が何か思いついたかのように、踵を返して、一度下りたなだらかな坂道を再び舞い戻り始め、まだ分校の前に達していなかった人たちといっしょに、合流し、分校の門に突入し、更に校舎へと向かい始めた。分校の廊下に彼らの騒々しい足音と激しい息遣いが聞え出した。
   来栖は驚いて、デスクから立上り、いっしょに対応すべき、玲玲を求めて、あたりを見回したが、先ほどまで職員室の中にいたはずの玲玲の姿が、いつの間にいなくなっていた。
   そのとき、電話のベルの音が鳴り響き、来栖は思わず受話器を取った。受話器の向こうから聞こえた来た声は、来栖に聞覚えのある声だったが、来栖にとってはあまり歓迎できない、彼に緊張を与える人物のものだったので、思わず身震いをした。

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