小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第3章 9)

2017年10月21日 | 小説

     テレビの画面に映った、スーツ姿の八雲は宗教団体の幹部と言うよりは、欧開明よりはやや低かったが、長身であり、ニキビ痕がある顔の肌はあまりきれいとは言えず、粗雑な印象も人に与えることも否定できなかったが、全体的に言えば、その怜悧な雰囲気からは、大企業の有名大学出の若手のエリート社員にも見えなくもなかった。その隣りには若い、美人と言ってもよいような、来栖の知らない女性が時々手元の資料を見ながら、八雲の発言にいちいちうなずいていた。
「……ケラー教授の失踪は、黄道の会とはまったく無関係であると言えます。なぜならば、黄道の会の幹部が教授を空港の安全検査の入口までお見送りしたことは間違いないことだからです……」八雲がそう言うと、一人の記者が質問した。
「ケラー教授はフランクフルト行きの航空券を購入済みでしたが、その飛行機の搭乗が確認されていないことがわかっています。ケラー教授はいったいどこへ行ったのでしょうか?」
    八雲はすぐさま答えた。
「全くわかりません。その後、わたしたち黄道の会は、フランクフルトに戻られているはずのケラー教授と数回にわたって、コンタクトを取ろうとしましたが、今だに、連絡が取れておりません……」
    その八雲の答えを受けて、同じ記者が質問を続けた。
「……では質問の角度を変えますが、ケラー教授は人間の潜在意識に及ぼす影響が実際の人間の行動をどのように左右するかを研究されている世界的な権威のようですが、このケラー教授と黄道の会が実際どのような関係にあるのかが不明で、一部の週刊誌ではまことしやかな憶測が流布しております。例えば、黄道の会の『洗脳』の方法をケラー教授が指導しただとか……実際のところ、どういう関係なのか、八雲代表役員からこの点についてご説明ください……」
   『洗脳』と言う言葉を聞いて、少し微笑みを浮かべた八雲は、徐に語り出した。
「……最初に黄道の会に興味を持たれたのはケラー教授の方で、一九九X年七月に黄道の会フランクフルト支部に教授自ら足を運ばれ、支部の者たちと対話をされ、更に深く黄道の会に興味を持たれた教授は、翌年、調査のためにこの日本のH県Y村の本部に来られたのです。Y村に滞在されたのは三ヶ月にも及ぶ長い期間でした……」八雲の回答は淀みなく、あらかじめ周到に回答を準備していたのか、それとも何もやましいことがなく、隠すものがないので、ありのままに答えられるかのどちらかであった。
「では、お聞きしますが、ケラー教授はいったい黄道の会のどのような事にたいへん興味を持たれたのでしょうか?」記者が核心をつく質問を発した。
「それは、黄道の会の大自然の中で『気』を取り入れる一連の修業及び精進の方法についてです。これらは中国の悠久の歴史の中で育まれたもので、ケラー教授のご専門の観点から、科学的にそれらを分析し、体系化し、帰国後、教授は自己の研究成果を学会に発表される予定と聞いておりました……」八雲は答えた。
   このとき、記者会見の会場では、もっと八雲から不自然な取り繕った内容の回答があるか、または全く別の回答を聞けると思っていたらしく、不満を覚えたマスコミ関係者たちから一斉にどよめきが起こった。
   今度は別の年配の記者が手を上げて、立ち上がり、八雲に向かって、質問を発した。
「東京本部の道場で使われていたと思われる薬物についての質問です。この植物は法律で規制があるXXXを主成分とし、赤道直下の某国では、伝統的儀式を執り行う時に使われる一種の覚醒剤のようなもので、高揚感と多量に摂取をすると幻覚症状も起こりうると聞いています。この薬物は黄道の会では日頃、修行の際には日常的に使用されているのでしょうか?」
八雲は即答した。
「使用されることはたまにありますが、法的には全く問題ないです。一部の虚脱感があり、集中力が不足していて、修行の成果が得られないと自己申告する修行者に限って、黄道の会の嘱託医が煎じ薬の漢方薬として処方しています。実はこのXXXは漢方薬として認可をうけています。ただ、問題があるとしたら、一部の外国人の修行者が、煎じ薬としではなく、あたかも麻薬成分を含む植物を摂取するかのように、乾燥した葉をパイプやキセルに詰めて火をつけて吸引したりしたので騒ぎになっただけです……」
  またも予期せぬ回答に記者会見場はどよめいた。
「……黄道の会の傘下企業の麻酔ガス製造認可申請の件ですが……」今度は別の記者が手を上げて、質問を始めた。
    昼食を頬張りながら、来栖は八雲の素速い受け答えに関心して、近くでこれも昼食をとる、玲玲に語りかけた。
「八雲さん、相変わらず切れ者ですごいですね。尊敬しますよ。でもあの八雲さんの隣りにいる若い女性は誰ですか?すごくきれいな人ですね……」
    玲玲が箸を運ぶ手を止めて、口を開こうとした瞬間だった。ほとんど雨が上がった外の方から人の大きな話し声が聞こえてきた……