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小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第3章 8)

2017年09月17日 | 小説

「……もしもし、来栖ですが……」来栖が電話取ると、やや甲高い男性の声が聞えた。
「来栖信一さんですね?」
「はい、そうですが……」来栖が答えると、電話の向こうの相手は言った。
「わたしはH県警捜査課の保村と言います。N町の本校の校長にお聞きしましたが、今日はそちらの分校は大雨で休校になったそうですが、古敷田よしこさんに関連したことで、お聞きしたいことがあり、今日そちらにおうかかがいします……これは聞き込み調査のようなものですので、どうかご心配なく……午後はどこにいらっしゃいますか?」
「……午後も分校にいます。学習資料作りやテストの採点で忙しいものですから……」来栖は答えた。
「……では、午後三時にそちらの分校に参ります」保村は言った。
   来栖はワープロを使っての資料作りで忙しく、玲玲は黙々と児童の提出した作品に評を書いて、返却の準備をしていた。
   来栖はふと手を止めて、立上り、窓際に行って、外を見た。
   強い雨の中を数台の乗用車が分校の前の道を通って、更に高い、盛山へ向かって走り去って行ったのが目についた。
「……玲玲先生、いったいどうしたんでしょうかね?この雨の中、何もないはずの盛山の方に車が何台も上って行ったけど……」来栖は玲玲の方に向って言った。
「えっ!盛山に向ったのは警察の車ですか?」玲玲は驚いて、立上り、自分も窓際へ行って外を見た。
   来栖はとっさに黄道の会の第一層に属する玲玲が、盛山に関して、何か自分の知らないことを知っていることを直感した。盛山への道は山林から切り出された木材の運搬で使われる以外は、誰も用がないはずだった。
「警察の車かどうかわからないけど、皆、黒っぽい車でしたよ……」来栖が答えると、玲玲は電話に飛びついた。そして、急いでダイヤルを回したが、来栖に気がつき、来栖に対して追い払うように無作法に手を振ったが、それはあまりに失礼と感じたか、こう言った。
「来栖先生、ごめんなさい。ちょっと席をはずしてもらえませんか?これから黄道の会の第一層の人と大事なお話をするので……」
   日頃おとなしい来栖も、さすがに不快感を感ぜずにはいられなかったが、黄道の会に入った以上、会に関係することは上級者である、玲玲の指示に従うことは理解していた。
「……はい、はい、わかりました」
   来栖は不服な感じで、そう言うと、廊下に出て行った。彼は盗み聞きをしようと思ったが、日頃高くよく通る声の玲玲が、声をひそめて話していて、まるで聞き取れなかった。
   玲玲と電話で話をする黄道の会の相手は誰なのかわからなかったが、その第一層の幹部との電話での話はわり合い長く、十数分経った頃、やっと玲玲の大きな声が響き渡った。
「来栖先生、終わりました。もう入ってよいですよ」
   来栖が職員室へ入ると、玲玲は再び、自分の席で、児童の作品の評価を始めようとしていたが、来栖に言った。
「来栖先生、さきほど盛山に乗用車が何台か上って行ったことも、わたしが誰かに電話したことも見なかったことにしてください。誰にも言わないでくださいね」
   来栖は玲玲の顔を見たところ、厳しい目つきだったので驚いた。
   「……はい、はい。わかりました。誰にも言いません……」来栖はそう言うと、玲玲の斜め向かいの自分の席に座って、仕事を再開した。
   正午になって、ようやく怒涛のような激しい雨の勢いは弱まり、雨が小降りになってきた。
   来栖はテレビのスイッチを入れ、母が作ってくれた弁当を取り出すと、昼食を取り始めた。玲玲は自分の弁当を温めに給湯室へ行った。
「……王開明教祖の身柄確保で新たな局面を迎えたわけですが、ここにきて、黄道の会最高幹部の一人の八雲広緒代表役員がマスコミの質疑に応答することになり、これからS市の記者会見会場から実況放送を行います……」テレビからニュース番組の男性アナウンサーの声が聞こえてきた。
   テレビの画面ではスーツ姿の八雲が、来栖が知らない若い女性といっしょに並んで、大勢のマスコミ関係者が集まった部屋で、これから記者会見に応じるところだった。
   戻ってきた玲玲に来栖は言った。
「……玲玲先生、八雲さんがテレビに出てますよ。記者会見のようです……」
「えっ、ほんとですか?」玲玲は少し驚いて、テレビの画面に目をやった。

 

 

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