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小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第3章 2)

2017年06月17日 | 小説

「……三輪先生、具合はどうですか?今日は途中から玲玲先生が会議に行ってしまうし、一人でたいへんでした……」来栖はそう言って、友紀の顔を見ると、それはいつもの友紀の快活な表情ではなく、どこかしら陰りのある、反応の乏しい表情だった。
「……玲玲先生が会議?」友紀は問い返すと、来栖は簡単に、八雲が東京から弁護士の先生方を連れてきて、今、黄道の会の幹部の面々と二階の視聴覚教室で会議をしていることを伝えた。友紀の反応は乏しく、来栖に問い返したのも、意味がよく飲み込めず、鸚鵡返しに言っただけかもしれなかった……
   来栖と友紀が児童たちを引き連れて、教室に戻るため校舎に入ると、ちょうど二階からは、いつの間にか桐野正導師も加わった総勢十数名の会議参加者がぞろぞろと階段を降りて来るのに出くわした。
「……事は緊急を要します。もちろん、この後は、欧開明先生との面会のため、斉木先生と古村先生はすぐに、捜査本部が置かれている、S市のH県警本部に行ってもらいます。車は手配済です。宿泊のホテルも県警本部に近い、城址公園の近くに取る予定です……」階段を降りながら、日頃は冷静沈着で鳴らす八雲は、いつもより、やや高いテンションで弁護士の二人に告げた。
   児童たちは、いつもは自分たちと教師だけしかいない分校で何事かの会議が開かれ、今まさに、閉会して、これから出て行こうとする、これらの人々を不思議そうな表情で見守った。
   八雲がふと思いついたように、前を歩く、若手弁護士の古村を引き留め、廊下の片隅に連れて行き、小声で何事か言葉を交わすと、再び皆に合流した。
   李玲玲は友紀の姿を目にすると、「あっ」と声を上げて、駆け寄り、友紀を抱きかかえた。友紀の目はうつろで、身心のどこかに何かしらの病気を持っているであろうことを強く人に感じさせずにはいられなかった。
「……ごめんなさい。三輪先生。会議がいつまでかかるかわからなかったので、具合の悪い人を呼び出してしまって……」李玲玲はたいへんすまなそうに、友紀に言った。
   友紀の表情は暗く、反応に乏しかった。玲玲の言葉にただただ、頷くだけだった。
   大木が友紀の異常に気づき、前を歩く、八雲に向かって言った。
「……八雲くん、こりゃ、三輪先生はだいぶ悪いぞ。誰かをつけて、N町の総合病院に連れていかんと……」
   その言葉を聞いて、友紀はふとわれに返った。
「……村長、だいじょうぶです。N町の病院に行くほど悪くはありません。元々貧血気味だったのと、ちょっと頭痛がするだけです……」
   しかし、友紀はその言葉を発してすぐに、眩暈に襲われ、倒れ掛かったので、玲玲が慌てて友紀を抱き留めた。
   警察に出頭した自分の師である欧開明や東京の鵬役員、小野村正導師の事はもちろん、今後の日本の警察の黄道の会に対する大捜査や弾圧に対処するための戦略を考えることで頭がいっぱいのまだ若年の八雲にとって、会員の一人にすぎない友紀の身体の事に関心が薄いようだったが、意外にも対応が早かった。
   八雲がすぐに電話して、村の情報網を駆使した結果、その日の午後、偶々、Y村からN町へ行くことになっていた製材所の社長の北里の車に友紀をのせて、N町の総合病院に連れて行くことになった。北里の男手だけでは何かと不便だと言うことで、北里の妻も友紀に同行することになった。
   来栖は玲玲といっしょになんとかその日の午後、分校の授業を終え、児童たちを皆、家に帰宅させた。玲玲も帰った後、一人で分校に残り、明日の授業の準備やテストの採点で追われていたが、夜八時ごろ、一段落すると、校舎の戸締りをしてから、ぶな屋敷と呼ばれる自分の住むアパートに徒歩で向かった。
   驚いたことに、ぶな屋敷の前まで来ると、二階の来栖の部屋の電気の照明が煌々とついていて、誰かが彼の部屋にいるらしかった。彼は朝出るとき、鍵をかけて出たので、一階に住む耳の遠い老婆の大家から鍵を借りて、彼の部屋の鍵を開けて入るしかないはずだった。大家が来栖の部屋の鍵を開け、部屋の中に招き入れるることに同意した来栖の部屋の訪問者はいったい誰なのかわからなかった。
   来栖がぶな屋敷の二階に上る、きしみ音の激しい階段をどたどたと駆け上がり、自分の部屋に近づくと、彼の部屋の中から、原良や三方夫婦と会話する、聞覚えのある声が聞えてきた。

 

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村 (第3章 1)

2017年06月10日 | 小説

   東京から数百キロ離れ、日頃は平穏な山奥のY村で、来栖の黄道の会の入会の儀式を皮切りに、いくつかの出来事が連続して発生し、混迷を極めた日――ついには、欧開明が警察から提起されたいくつかの案件に対する事情聴取のため、任意同行を求められ、警察に出頭した日から一夜明けた翌日の月曜日、来栖は分校で教壇に立ち、自分が受け持つ高学年の複式学級で、学年の違う児童たちを教えていた。
   やはり、友紀は体調が悪く、その日は欠勤するとのことで、低学年の複式学級を補助教員の李玲玲が一人で受け持っていた。
   来栖は昨日遭遇したことがあまりにも強烈で、印象深かったので、昨夜は興奮気味で、なかなか寝付くことができず、朝方に短い睡眠が取れただけで、教室で教壇に立って、児童に算数の問題の説明をしているときも、ぼおっとしてしまい、ふとわれに返ることもあった。そうしたとき、説明を受けていた学年の児童たちは来栖が眠りから覚めるよう、しきりに囃し立てた。複式学級なので、同じ教室で、問題を解く、自習時間に入っている別の学年の児童からは「うるさい」とクレームの声が上がっていた。
   たいへん意外なことに、東京へ行っていたはずの八雲が、大木と共に、黄道の会の幹部や弁護士と思われる人も含め、総勢十数名を引き連れて、分校の廊下に現れた。
   来栖は驚いて、授業を投げ出し、廊下に出て行った。
「来栖くん、あとから桐野正導師も来られるが、二階の視聴覚教室を貸してもらうよ。村役場や本部には、裏切り者のスパイもおるかもしれんのでな……あそこは閉め切れば、防音にもなっとるし……」大木はそう言って、来栖に教室に戻るよう促した。
「……はい。あれっ、八雲さん、東京へ行ったはずでは……」来栖が八雲を見て驚いて、言った。
「……八雲くんは今日、朝いちばんの新幹線で戻って来たんだよ。弁護士の先生を連れてな。最近、S(H県の県庁所在地)だけではなく、N(Y村の隣り町)にも新幹線が停まるようになったのでな……」来栖がふと見ると、最初は気づかなかったが、その場に来ていた、村の長老の猪田が八雲に代って答えた。
   八雲はまるで疲れた様子も無く、来栖を見て、真面目過ぎて滑稽さを感じさせるような人物を見たかのように、ちょっと憐れむような笑いを顔に浮かべた。手にはペットボトルのお茶が何本も入った段ボール箱の上に会議で使う資料らしき書類をのせたものを抱え、黄道の会の“雑用係”を自称する大木と同じで、八雲も相変らず“雑用係”だった。
   いつの間にか補助教員で、黄道の会の第一層の指導三級でもある李玲玲が、来栖の傍らに現れた。
「……来栖先生、今、低学年はお絵描きをしています。わたしも会議に出なくてはいけません……三輪先生は午後から来るそうです……あとはよろしくお願いします……」
   玲玲はそう言うと、八雲や大木たちのあとについて、二階の視聴覚教室へ向かって行った。
   来栖は午後から友紀が来ることを聞いて、少しは安心したものの、高学年の男子児童の中で喧嘩をするものがあったかと思ったら、今度は低学年の児童の中ではいじめられたと来栖に訴えてくる女子児童もあり、低学年の教室と高学年の教室の間を一人で右往左往して、たいへんなことになった……
   お昼になると、手配をしてあったらしく、村に一軒しかない食堂兼仕出屋が弁当を運んできたので、来栖は二階の視聴覚教室へ案内し、弁当を運ぶのを手伝った。仕出し屋といっしょに二階に上がった来栖は、視聴覚教室の扉をノックし、中から応答があってから、扉を開けた。その刹那は、八雲が一人でしゃべり続けていたようで、皆がそれを傾聴していたが、来栖が入ると、八雲はぴたっと口をつぐんで、皆に昼食を取るよう、呼びかけた。
   一階に戻ると、最近では自炊するようになった来栖は、いつものように自分の持参した弁当を取り出して、より手のかかる低学年の教室へ行き、児童たちと会話しながら、いっしょに食べた。
   昼休みの時間も終わりに近づいたころ、校庭で児童たちといっしょに遊ぶ来栖の前に自転車に乗った友紀がやっと現われた……

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