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小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第2章 20)

2017年05月27日 | 小説

   欧開明が二人のボディガードを伴い、大講堂の中から、機動隊の隊員やH県警の警察官、はたまた黄道の会の会員であるところの村人たちでごったがえす、大講堂前の駐車場に現れたのは、臨時集会が閉会し、岡指導職の爆発事件があってから、二十分ほど経ったころであった。
   夜闇の中に投光器で照らし出された欧開明の姿はわりと鮮明に見ることができた。欧開明は、さきほど大講堂の鳳凰の間でステージ上に現れた時と同じく、スーツに身を固め、その長身で眉目秀麗の容姿は、誰が見ても尋常の人物とは思えない印象を与え、人々に不思議なオーラを感じさせるものだった。
「……教祖だ、教祖が出て来たぞ……」警察官の誰かが叫ぶ言葉が聞えた。
   まだ、その場を立ち去らずにいた、大木や猪田たち、それに来栖と土岐も一様に欧開明の方を見た。大木がつぶやいた。
「……欧開明先生は退場されずに、ずうっと中におったんか……」
   そして、黄道の会の会員である村人たちは皆、欧開明を目にすると、この自分たちの絶対者に向かって動き始めた。
「……欧開明先生!……欧開明先生!……」
   村人たちは口々に欧開明の名前を経文のように唱えながら、あたかも女王アリに群がるアリたちのように欧開明の周りに集まって来るのだった。
   爆発音を聞きつけたらしく、一早く家路についたはずの北里と原良も舞い戻って来て、来栖や土岐も属する大木と猪田のグループと合流した。そして、欧開明の周りを取り囲む村人たちの輪に加わった。
「……欧開明先生!……欧開明先生!……」
   その声は地の底から湧き上って来るかのようだった。
「……欧開明先生!……欧開明先生!……」
   村人たちの欧開明の名を連呼する声が最高潮に達したと思われたとき、欧開明の周りの村人たちをかき分けて、スーツ姿の数名の警察官たちが、前に進み出た。その後に制服姿の警察官たちも従った。
   欧開明の前に立った一人の刑事が言った。
「わたしはH県警公安課の巽(たつみ)です……欧開明さん、本名、李光逸(リーグアンイー)さんですね?外国人登録証明書を見せてもらえますか?」
   欧開明の手渡した外国人登録証明書を確認すると、懐から書面を出し、それを欧開明に手渡して内容の確認をするように伝えた。書面に目を通している欧開明に向かって、巽は言った。
「……このような案件について、事情をお伺いするために任意で同行をお願いします……」
   欧開明は書面から眼を上げ、警察官たちに了解をした意思表示の如く会釈をすると、後ろを振り向き、ボディガードの一人からあまり大きくないバックを受取った。そして、いつの間にか近くに姿を現わしていた、桐野富士夫に向かって、一言言った。
「……あとを頼みます……」
   桐野がうなずくと、欧開明は警察官たちに迎え入れられ、両脇を抱えられると、人垣をかき分けて、静かに歩いて行った。
   周りから今度は、強く追い求めるような喉の奥からしぼりだすような声調のトーン変わった村人たちの声が湧き上がった。
「……欧開明先生!……欧開明先生!……」
   来栖もいつの間にか村人の皆といっしょに欧開明を呼ぶ声に必死になって唱和していることに気がついた。
   突然、欧開明が振り返り、村人の皆に向かって、左手を挙げた。それは黄道の会の宇宙の『源体』に敬意を表する準備とわかった村人たちもすぐに一斉に左手を挙げた。欧開明が外国語のようなその言葉を唱えると、周りの村人たちが一斉に唱和した。
   そして、欧開明は、自分を強く追い求める村人たちに向かって手を振ると、もう振返らなかった……

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村 (第2章 19)

2017年05月06日 | 小説

   ひとしきり沈黙があったあと、大木が言った。
「……何の爆発やろか?」
   猪田がその言葉を引き取って言った。
「……地下には何も爆発するようなものはないはずだし、あの爆発の音からすると、ひょっとすると、発破でも使ったのかもしれんな……」
   大木は左右を見てから、声を小さくして言った。
「……まさか、壁が壊されて、地下通路が発見されたんやないやろな……」この大木の言葉の雰囲気が周りの人々に与えた不安は少なくなかった。
「……えっ、『地下通路』ってなんですか?」会員になりたてで、黄道の会内部の情報量が不足している、来栖が口を挿んだが、土岐が来栖の袖を引いたので、来栖は土岐の方を見ると、土岐は来栖の耳元でささやいた。
「……大きな声で言ってはダメです」
「……入口は塞がれていて、他の壁と見分けがつかないようになっているから、見つかるはすがない……」それを打ち消すように猪田が言った。
   来栖がふと気がついたように言った。
「……ああ、そう言えば、あの人たちの中に何かの装置を手に持っている人がいました……」
   大木はそれを聞くと、思案気な顏で言った。
「うーん……それはもしかしたら、レーザー探査機かもしれんな……あれを使うと、壁の中の状態がわかるので、入口が発見されてしまうかもしれん……」
   やがて、大講堂の中から人々のざわめき声が聞え始め、それがだんだんと近づき、やがて、機動隊化学部隊の隊員が大講堂の中から現れ始めた――数名の怪我人と思われる隊員がそれぞれ、二人の隊員に両側から抱きかかえられ、階段を上がって、外に出て来た。予め、携帯無線機で連絡してあったらしく、いつの間にかH県警の警察官が多数現われ、怪我人を担架に載せ、後方への搬送を行った。
「いったいどうしたんやろうか?」大木は言った。
   離れた場所から、負傷者を迎えた警察官が携帯無線機で連絡している声があたかも風に乗って飛んで来るかのように聞こえて来た――こういうことは実際にあることだった。
「……至急、至急、機捜2より、H本部(H県警本部)。黄道の会教団施設地下で爆発発生。警視庁機化隊の負傷者三名、ヘリで病院への搬送の手配お願いします……」
   大講堂の中から再び、数名の人が出てきた。指導二級の上岡が、左右を防毒マスクをつけたままの機動隊員に脇をかかえられながら現れた。上岡の顔は爆発の影響なのか黒く汚れていた。
   上岡の脇をかかえていた機動隊員が防毒マスクを外して、先ほど負傷者を迎えた警察官に何事かを告げ、上岡の身柄を地上で迎えた警察官に引き渡した。
   また、声が風に乗って伝わるかのように遠くから携帯無線機の連絡の声が聞こえて来た。
「……機捜2より、H本部。現行犯逮捕、一名護送お願いします。公務執行妨害及び爆取・激発物……」
   大木が驚いて言った。
「……おい、上岡が逮捕されたらしいぞ……」
   猪田がふと思いついたように言った。
「……上岡は鉱山技術者だった男で、昔は発破を仕掛けることもやっていた……裏切者の上岡は、もしかしたら、警察に地下通路を発見させるため、計画的に発破を仕掛けたかもしれんな……」
「……じゃ、警察は入口を発見したんやろうか?」大木が言うと、猪田は大木の顔を見て、うなずくと、周りの者たちを蚊帳の外に置くかっこうで、大木を少し離れたところに連れて行き、何事かささやいた。
   猪田の言葉を聞いて、大木の驚く様子が見て取れたが、二人は再び皆の前に戻って来ると、大木が皆に語りかけた。
「……今は理由ははっきり言えんが、上岡が何をしようが、警察が地下通路を発見することはないので、問題は無いので、皆も安心して欲しい……」
   大木の言葉を聞くと、しばらく、その場に居合わせた者たちの間に沈黙が訪れた。突然、来栖が鬼の首を取ったかのように勢いづいて、高いテンションでまくしたてた。
「……ああ、そうか、ぼくはわかりました……推理したんですが、もしかして、地下通路の入口の場所が今は変わったのでしょうか?その場所は大講堂の地下ではなく、別のところで、警察が見つけることはありえないということでしょうか?また、その情報は、第一層の人にしか知らされていなくて、第二層の上岡さんは地下通路が以前あったが、今は埋め戻されて何もないところを爆破した可能性がある、と言う事でしょうか?」       
   黄道の会に入ったばかりの来栖が場が読めずに、言わなくてもよいことを言ってしまったのは周りの人間の反応から見て、それは明らかだった。
「……来栖さん、場が読めてないですね……黄道の会の会員はそういう言動は慎むものです。ここにいる人たちは皆、内部の人たちで心配はないですが、あなたの推測に過ぎない、そんな事を口に出して言わない方がよいですよ……」土岐が慌てて、来栖を諫めて言った。

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