大木は腕組みをして、深刻な表情で周りの人たちと話をしていた。来栖と土岐の姿を目にすると大木は一旦話を止めて、二人に声をかけた。
「土岐くんも来栖くんも大講堂の中におったのかね?」
「……はい、今出てきました。防毒マスクに防護服を着た、機動隊の化学部隊がゲートを超えて、大勢入って行きました……」土岐は答えた。
「……上岡にゲートの解除を指示したのは誰か知らんかな?」大木は土岐にたずねた。
「……うーん……わかりませんね。確かに上岡さんが衛士(警備員やボディガードに対する黄道の会の内部の呼称)に言いつけて、ゲートを開けていました。でも、ほかには誰もいなかったようです……」土岐は少し困惑して答えた。
「……八雲くんも東京に行く前に言うとったが、もし、警察が大講堂に踏みむようなことがあれば、ゲートを壊して入ってもらった方がよい、というのがわしらの共通の認識なんや。毒物はもちろん、何もあるわけもないのに、そうしてくれた方が、国家権力が何の罪もない宗教団体に対して、いかに理不尽な行動に出たのかがよくわかるんやし……勝算はないが、世の中にアピールするために、国に損害賠償の訴訟も起こすことも考えておる……」大木はそう続けた。
傍らにいた来栖が口を挿んだ。
「……あの人が上岡さんですか?ぼくはあの人を知らないんですが……上岡さんは、機動隊の隊長にゲートを開けることを強要されて、いやいや警備の人にゲートを開けるように指示していたようですよ……ぼくは見ていました……」
「……そうか、いやいやだったか……それとも、まだ何人か黄道の会の者の目がそこにあるのを意識してわざといやいやに見せおったか……」大木は言った。
大木の傍にいた猪田と他の二人も、大きく頷いて、大木の意見に同意を示すような反応を見せた。
「……もしかして、村長は指導二級の上岡さんが『退歩』して、黄道の会を裏切ったことを疑われているのでしょうか?」土岐は驚いて、大木に問いかけた。
「……最近、欧開明先生が今まで黄道の会では一人もなかった、複数の裏切者の出現の予言をされておる……しかもその裏切者は、上岡のような、もうすぐ指導三級に昇級の可能性のある、第一層に近い、第二層から出たことに衝撃を受けておる……」大木が言うと、猪田や他の者も深く頷いた。
「……今後は第一層に入る認定は桐野首席正導師だけではなく、欧開明先生自ら、口頭試問行うことになったそうだ……普通八級のわしも含めて第二層におる人間は、これから第一層に入るのはいっそう難しくなる……」大木は言った。
「……第一層、第二層っていったいなんですか?」来栖は思わず問を発した。
黄道の会に入ってまだ間もない、あまりにも無知な、この来栖の質問に皆は笑い出した。
笑いの発作が止まらない土岐が皆を代表して、来栖の問いに答えた。
「……来栖さん、笑わせてくれますね……来栖さんは入会したばかりで、まだ誰も教えてなかったかもしれませんが、指導職は三級から、一般会員は普通九級の上の特別一級から第一層になるのです……黄道の会の高得率構成比率の向上から考えると第一層の人数が多い方がよいはずなのですが、第一層に限ってはあまり人を増やさないのが欧開明先生の方針のようです……」土岐は来栖の問いに答えた。
「……ああ、そう言えば、ぼくは普通0級だったのが、入会すると普通一級になるはずだと、修行の時の老師の方から聞きました……」来栖はそう言いながら、なおも質問を発せざるを得なかった。
「……ところで、ぼくは今、第何層なんでしょうか?」
「……来栖くんは今、第三層で、これからうんと源体宇宙論の学習と実践をして、等級評議会で理解度と実践度の評価を受けて、普通六級まで上ったら、第二層になるんじゃよ……」村の長老の猪田が言った。
「……もう一つ、前から、不思議に思っていたことがあるんです。若い八雲さんは村役場の職員ですが、時々、大木村長より偉そうで、しかも大きな権限を持っているような感じさえします……」来栖がそう問を発すると猪田が答えた。
「……八雲くんはわしと同じ特別級で、特別一級なのだよ。わしの特別二級は、会員歴が皆より長くて、名誉職のようなものじゃが、八雲くんは欧開明先生の直々の指導を受けて、頭角を現してきたのじゃ……」
その時だった。大講堂の建物の中から連続して二回爆発音が聞こえ、皆は思わず顔を見合わせた……





