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読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第2章 14)

2017年01月14日 | 小説

   来栖は後から思い起こすと、来栖の黄道の会の入会の儀式があった、その日は、いろいろなことが発生し、特に記憶に残る一日だった。
   集合時間に少し遅れて来栖が大講堂の中に入ると、Y村の人々はもうすでに、ほぼ全員集まり、会場は熱気にあふれ、この集会の主人公であるはずの欧開明の到来を今か今かと待ち受ける様子であった。
   突然、桐野が登壇すると、人々のざわめきは一瞬の内に静まった。
   桐野はいつものように宇宙の《源体》に敬意を表するために、先ず自分が左手を挙げ、それに従って、皆が左手を挙げるのを確認してから、暗黙の了解になっている、一、二の呼吸の間をおいて、その外国語のような言葉を皆と一斉に唱和した。そして、やや緊張の面持ちで口を開いた。
「……皆さん、今晩は!……今日午後、ケーブルテレビを通じて、欧開明先生からお話しのあった通り、東京のF本部では、違法薬物使用と失踪人への関与の二つの嫌疑により、鵬役員と小野村正導師が警察の事情聴取のために出頭しました……これについては、登録上の代表役員の八雲くんがすぐに東京に向い、わが黄道の会の弁護団といっしょに二人の嫌疑を晴らすために全力で取り組むことになっています。皆さんも欧開明先生のご指示の通り、二人の嫌疑が晴れるよう、しっかり祈ってください……しかし、ここで皆さんに、本日判明した、更に新たな状況をお伝えすることになりました……」
   来栖は今回は遅れて大講堂に入ったため、舞台からかなり離れた後ろの方の席だった。まわりを見渡しても、皆、来栖の知らない顔ばかりで、知人の顏は一人も見あたらなかった。
   桐野は一呼吸間をおいてから、再び語り出した。
「……東京のF本部の件と時間は前後しますが、通称古敷のよしこさん……本名、古敷田(ふるしきだ)よしこさんが昨日、H県警に身柄を確保されました。実は彼女は現在も妊娠しているようですが、以前自分の生んだ子供を遺棄して、死なせた嫌疑がかかっています……しかし、これは表向きの話で、警察はよしこさんを通じて、わが黄道の会に非合法の行為や活動が無いかどうか、また、一般世間ではカルトと見なされている黄道の会が、実際どのようなことをしているのか、内情を探ろうとしています……」
   大講堂の中の聴衆は桐野のこれらの話を聞いて、一瞬ざわめいた。
「……と言うのも、ご承知の通り、警察が懸賞金をかけて、しきりに情報提供を求めても、私たち黄道の会の会員の中からは、誰一人、協力する者はなく、また、信仰に疑念を抱いて、われわれの言葉で言うところの『退歩』する者が一人もいないので、警察はまったくのお手上げ状態だからです……これは、いかにわが黄道の会の一人一人の会員の信仰が強固で揺るぎないことを示すあかしでもあります……」桐野はここで話を切って、聴衆の反応を確かめた。
   大講堂の中では、その桐野の言葉に拍手をする者や熱気を持って賛同する声が数多く聞えた。桐野はその雰囲気を感じ取ると、話を続けた。
「……さきほども言いましたように、警察はよしこさんを自分たちの捜査のために利用しようとしています……ここにワナがあります。皆さんもよしこさんに虚言癖、空想癖があることご承知かと思いますが、顕著なものに、欧開明先生の子供をみごもったと言うのがあります……もちろん、皆さんも知っての通り、毎日、修行で『斎戒』している欧開明先生にそのようなことはまったく考えられません……ところが、警察はそれを利用し、欧開明先生がよしこさんに性的暴行を加えたと言う嫌疑を捏造しようとしています。それは、別件逮捕のような形で、欧開明先生の身柄を確保することを考えているからです……」この言葉を聞いて、再び大きくざわめき出した聴衆に向かって、桐野はなおも話を続けた。
「……実は、この件は、畑の作物を盗んで警察につかまった、浮浪者の金村勘吉が根も葉もないことを証言しているからなのです……」
   ざわめく聴衆の中から勘吉を口汚く罵る声が聞えた。それは北里の声だった。そして、Y村の黄道の会の大勢の面々の激しい憤りの声がこの大講堂の中に満ち満ちていき、ほとんど収拾できないほどになった。桐野はしきりに聴衆に落ち着くことを促したが、なかなか静まることはなかった。
   このとき、ついに舞台の奥から、いつものようにスーツを着て正装した、長身の欧開明その人の姿が現われた。彼は一人の中年の婦人を伴っていた。
   桐野の「みなさん、ご静粛に!ご静粛に!」と言う声がやっと効を奏して、聴衆は静まった――と言うよりも、それは欧開明が皆の前に姿を現わしたからに違いなかった……

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