ビデオが終り、その日の黄道の会の臨時集会は、舞台上に現れた桐野が引導役を務め、一同が再度、宇宙の《源体》に向かって敬意を表すると、散会になった。
大講堂の中の大勢の人々はざわめきながら、帰り仕度を始めた。
来栖は周りの状況を認識すると、立上って、隣りの席の四年生の女の子の児童の母親とまた話を始めていた友紀の手を取り、彼女がいやがるのも無視して、強引に引っ張って、人混みをかき分けて、階段を上って、やっとの思いで、外に飛び出た。来栖は友紀を人気の少ない方へ連れて行くと、高いテンションで言った。
「……三輪先生、はっきり言っておきますが、誤解しないでください。ぼくは古敷のよしこさんに何もしていません……彼女がぼくに関して言っていることは皆、彼女の妄想なんです……どうか、ぼくを信じてください!」
友紀は、西アジアの外国人だと言われてもそのまま通用する、頭髪にウェーブがかかり、眼が大きくて、浅黒い地肌で彫りの深い、髯剃りあとも濃い、来栖の顔をじっと見ていたが、来栖があまりにも真剣で、それがたいへん滑稽に感じられたので、思わず吹き出してしまった。
「三輪先生、笑わないでください!こちらは真剣なんだから……」来栖は憤慨して言った。
友紀は笑いをこらえるのに必死で、こう言った。
「……来栖先生ったら……いったいどうしたんですか?急に……」
「ぼくは三輪先生が誤解することをとっても心配しているんです……ぼくはあのかわいそうな古敷のよしこさんに何もしていません……本当です」来栖はなおも力説した。
大柄なからだをゆすりながら、村の有力者で製材所をやっている、北里がその場を通りかかった。北里がえへんと咳払いをし、若い二人の様子を怪訝そうにちらと見てから、独り言のように呟いた。「……今、聞いたが……古敷のよしこが、子を身ごもったらしい……」
来栖と友紀は驚いて、二人共、いっせいに北里の方を見た。北里はなおも続けた。
「……よしこはたぶん、妄想の中にいるからだろうが、最初はお腹の子供の父親は、欧開明先生だと言い張っていたが、八雲くんに問いただされて、やっと本当のことを言った……」
来栖と友紀が次の言葉を待っていると、北里はたいへん意外なことに、そのまま、口を閉じ、踵を返して行ってしまった。
来栖と友紀の間に気まずい沈黙があった。来栖は自分を抑えられず、言った。
「……三輪先生、よしこさんがなんと言おうと、絶対ぼくじゃありません。よしこさんをはらませたのは、ぼくではないです!」
友紀は今度は吹き出さずに、じっと来栖の顏を見ていたが、何か感じるものがあったらしく、やがて口を開いた。
「……普段あんなにまじめな来栖先生がこれだけ言うのなら、わたし、信じます……来栖先生はよしこさんに何もしていないと思います……」
「……ほ、本当ですか?ぼくを信じてくれますか?……信じてくれますか?」来栖は喜びのあまり、顔をほころばせた。
そして、来栖は、友紀に向かって言葉を発しようとしたが、内気な性格の彼は、緊張とプレッシャーのため、それがうまくいかないような素振りをし始めた。友紀も来栖から発せられる言葉を待つような姿勢になった……
そのとき、もうすでに自衛隊のヘリコプターはY村の上空にはなく、飛び去っていたが、警察の拡声器の声があたりに響きわたった。
「……Y村の黄道の会の皆さん、こちらはH県警・警視庁合同捜査本部です。このY村において、違法と思われる黄道の会の行為や活動を目撃された方は、捜査協力のために情報提供をお願いいたします。貴重な情報をご提供いただいた方には、報奨金をお出しします……また、情報提供された方ご本人にご迷惑がかからないよう、情報提供者の個人情報は一切公開いたしません……」
大講堂から出て来た人々の間では、一瞬どよめきがあったが、その放送があってから、一分後前後に、少し離れた来栖と友紀の耳には届かず、内容はよく聞き取れなかったが、拡声器を使った八雲の声が響きわたった。
それはどうやら、八雲が、黄道の会の会員たちに、欧開明への崇敬と黄道の会への忠誠及び会員同士の団結を強く呼びかけた演説らしかった。八雲の問いかけに呼応する、いくつもの声が群衆の間に湧き上がってそれが、警察の呼びかけの声を押し潰すまでになったかのようだった。





