その日はやって来た。開校式、それに始業式、入学式を同じ日に順番に行うということで、式次第も三部に分かれていた。
Y村役場からは村長の大木と八雲が出席していた。もっとも八雲は分校に用務員がいないこともあって、忙しく立ち回り、じっとしていることはなかった。
この日はN町でも同日に始業式と入学式が行われることから、N町の本校からは分校の校長を兼ねる校長ではなく、副校長が出席した。
来栖と友紀は当日、八雲から知らされたのだったが、あの李玲玲が教員補助として、彼らといっしょに働くことになっていて、正式に副校長から紹介された。
彼女は童会の時のような、きちんとしたスーツ姿で、満面に笑みを浮かべ、静かにたたずんでいた。
開校式は分校に新設の体育館で行われた。
最初にスーツ姿の進行役の八雲が、開式の言葉を述べ、開式を宣言すると、君が代の斉唱となり、皆が歌い終わると、その後、村長あいさつで、村長の大木が壇上に立った。
「……長い間、このY村村民の念願でありました、分校の開校式を本日、今、挙行することとなり、誠に感極まるところがあります。思えば、二十年前、私たちがこのY村にやって来た時は、過疎が進み、ちょうど分校が廃校となるところでした。そのあと、山奥でアクセスの問題があるY村ではありますが、われわれはこの地で食品会社、コンピュータ―ソフト開発会社、商品デザイン会社の設立に尽力した結果、現在の活況を呈しているわけであります。これにより、この村の人口は増え、両親といっしょに転入してきた子供たちの学業問題が生じたのでありますが、たいへん長い年月この問題を解決できず、たいへん遺憾なことでありました。しかし、このたび、やっと、子供たちが親元を離れ、N町の小学校に通わなければならない、不便も解消され、子供たちにとっても、また親御さんたちにとってもこの上ない喜びと安心をもたらすものであります。また、この場をお借りして、今回の分校開校について、各方面でご尽力をいただいた、衆議院議員の古塚啓三先生に深く御礼を申し上げます……」
小柄だが、顔が異様に大きい、関西なまりの大木は、テレビで活躍する漫才師の風貌と少し似ていることもあり、また、そのふざけたことを真面目に言う、ユーモアのセンスも多分にあるので、聴衆からは爆笑をもって迎えられることもたびたびあったが、さすがに、このあいさつでは、笑いを取る言動はなかった。
続いて、以前、宴会で八雲に自分の黄道の会の等級が違っているとクレームし、あとで、八雲に説き伏せられたY村村会議長の平野が壇上に立って、祝辞を述べた。平野の祝辞は聴衆の誰もがあくびを催すような内容及び口調で、平野も反応の悪さにバツの悪い様子で、白髪頭を掻きながら壇上を下りた。
その後、進行役の八雲が、「Y村名誉村民、欧開明先生のお言葉」と述べ、その言葉を聞いて、開校式の参加者たちがざわざわとどよめいている中をさっさと壇上に上がり、懐から封筒に入った紙を取り出すとおもむろに読み始めた。
「えへん。これから欧開明先生のお言葉をお伝えします。本日、長い間皆様の念願だった分校、いや、近い将来のY村村立小学校の前身となる分校の開校式、本当におめでとうございます。私はY村村民を代表して、心からお祝いすると共に、この学校で学ぶ皆様が、刻苦勉励をして、将来、世界の人々のお役に立つ人になることを心から切に願う次第です……」
八雲が壇上を下りても、暫く一時、参加者のざわめきは止まなかった。
その後、来賓紹介があり、八雲は参列の人々を順に紹介していった。N町のY村兼任の教育委員、衆議院議員古塚啓三の秘書の本木も来賓の中にあり、その他はY村の企業の代表者も来賓として呼ばれていた。なぜか、エコロジストのシュナイダーもジーンズ姿の軽装で退屈そうにその場に坐っていた。
そして、最後にY村の小学校から来た副校長が校長の代理として、謝辞を述べた。
八雲が閉式の言葉を述べ、閉式を宣言すると、来栖と友紀に先導された子供たち――上級生と手をつないだ新入学の児童が入場して来た。玲玲は子供たちの最後尾にいた。入場の音楽が鳴り響いた。
友紀が来栖の耳元で囁いた。「やっと始まりましたね」来栖は大きくうなずくと友紀に微笑んだ。





