「みなさん。私は世界の国の人々のお役に立つ仕事をしている眞垣(まがき)と言います」その言い方はあまりにも真摯で、この山奥の小学生たちに話すにはいささか場違いな感もあったが、その眞垣の姿を眉間に皺を寄せて、これまた真剣な様子で見つめる欧開明の様子を見ると、それは、眞垣の醸し出す空気とマッチしている感じがあった。
眞垣は言った。
「日本は比較的平和な国になりましたが、世界では、たいへん残念なことですが、国と国が戦争したり、違う民族どうしで争ったり、戦ったりしていることが、いくつも発生しています。この世界には、確かに、解決するのが、たいへん難しい問題がたくさんあります。しかし、解決できない問題は無いのです。先ずはお互い争わず、戦いを止め、感情的にならず、よく話し合い、仲よくすることです。そして、お互いに信頼し合い、解決不可能とも思える問題に対しても、皆で最大限に知恵を絞り、最大限の努力をして頑張ることです。そうすれば、微かな光が指して来て、その光が次第に大きくなって行き、道は開けるのです……」
そう言って、眞垣は持参したパンフレットを子供たちに配った。
それは、ほとんど世界中の国々が加盟している国際機構の各国の国旗がはためく、その国際機構の本部の写真で、子供にも読めるように日本語の漢字に振り仮名を振った説明文で、「総会」等の各国の代表が参加する会議の風景が載っていた。眞垣がこの国際機構の役割や活動の状況を子供たちにもわかるように噛み砕いて簡単に説明した。そして、子供たちからの質問を待った。
子どもたちを代表して、六年生の女の子が質問した。
「私も世界の国の人たちのお役に立てる仕事がしたいです。どうしたらよいですか?」
「今の学校の勉強をしっかりやってください。そして、たくさん勉強して、大学や大学院に進学して、国際関係学など――国と国の関係の勉強をするのがよいでしょう。それともう一つ大事な勉強があります。外国の言葉を覚えることです。世界で多くの人に使われている言葉が六つありますが、これが公式の言語です。イギリス英語、フランス語、中国語、ロシア語、スペイン語、それにアラビア語です。私たちといっしょにお仕事するには、この内、二つ以上の言葉を話したり、読んだり、書いたりできないといけません」
眞垣はていねいに答えた。
今度は粗暴ですぐに怒り出す、五年生の男の子が眞垣に聞いた。
「戦争している国と国を仲直りさせるため、戦争しているところに行ったことがありますか?怖くなかったですか?」
「あります。近くで爆弾が爆発して、大勢の人が死んだり、けがをしたりして、私たちの仲間のスタッフも死んだり、大けがをしました。私ももう少しで死ぬところでした。でも、たいへん、たいへん長い時間がかかりましたが、その国ともう一つの国を仲直りさせて、戦争を終わらせることができました……」
眞垣の言葉はある種の感銘をこの山奥の村の子供たちに与えたらしかった。もっとも、この子供たちの親たちは皆、黄道の会の会員で、常日頃、欧開明の言葉として、世界の人々のお役に立つ人になることを子供たちに言い聞かせていたかもしれなかった。
眞垣が自分の席に戻ると、今度は欧開明が登壇し、子供たちに語りかけた。
「みんなは大きくなったら、この眞垣さんのような、世界の人々のお役に立てる人になれるよう、勉強もスポーツも頑張ってください……」王開明はそう言うと、付き人たちがクーラーボックスで用意していたアイスクリームを子供たちに配った。子供たちの歓声が上がった。
そして、その日の「童会」の学習は終わった。来栖と友紀は、大講堂のエントランスの前で子供たちと別れを告げると、役場の分校準備室へ徒歩で向かおうとしていた。
突然、バスが連続して二輌やって来た。それはどうやら、大講堂の大広間に仮住まいする、老人たちを近郊のいくつかの町の老人ホームへ運ぶ為、チャーターされたものらしく、フロントガラスには「Y村役場」と書かれた紙が貼ってあった。そして、そのすぐ後から、幅の狭い峠の道で、バスを追い抜くこともできず、サイレンを鳴らし続けて、やって来たと思われる、一台の救急車が止まり、中から慌ただしく、救急隊員が飛び出て来て、来栖と友紀にの目の前に現れた。
それと同時に、この村の集落の方から、原良が血相を変えて、こちらに向かって、駆けて来るのだった。





