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小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第1章 13)

2013年03月23日 | 小説

 来栖と友紀が、日本の習慣により、新来者のご挨拶の為、一人一人にビールを注いで回り、北里の前まで来ると、北里は大柄の身体をゆすらせて、この新しく村にやって来た若い二人を歓迎した。
「よく来てくれましたな。君たちは、これから、この村をしょって立つ人材じゃよ。わしは君たちを歓迎するよ。ひまがあるときは、わしの所へ遠慮せず、遊びに来なさい。わしの所は製材所をやっていてな、来栖君の住むぶな屋敷から、遠くないし……」北里は二人に言った。
「ありがとうございます」来栖は通りいっぺんの挨拶をしたが、友紀は北里のコップにビールを注ぎながら、北里に尋ねた。
「兄は、生前、村に来ると、必ず、泊めていただいたんですよね?」
「おお、そう、そう、亡くなった三輪君の妹さんだったね、君は。そうなんだよ。彼はうちの仕事も手伝ってくれたし、よくわしの家に泊まってな、わしとはよく、いっしょに酒を飲んだものじゃ。本当に、いい青年だったのに、あんなに若くてして亡くなるとは……」北里は悲しげな顔して言った。
「お兄さんはいつ亡くなったんですか?」来栖は友紀に尋ねた。
「去年の二月です」友紀は答えた。
「おう、おう、そう言えば、わしのところに三輪君が残していった、録音テープがダンボール箱に入ってな、たくさんあるぞ。恐らく、欧開明先生の講話の録音だと、思うがな。友紀さん、取りに来てくれるかな?」北里は友紀に言った。
「そうですか。はい」友紀は意外だったらしく、何と受け答えしてよいかわからないような、様子だった。
「ぼくが取りに行ってもいいですか?」来栖が突然、友紀に言った。
 友紀は驚いて、来栖に訊き返した。
「どうしてですか?」
「テープをぼくに貸してください。欧開明先生の講話のテープなら、ぼく、聴いてみたいので」来栖はもっともらしく、そう言った。
 友紀は顔をほころばせて、言った。
「そうですか?それはよいことです。来栖先生にテープをお貸しします」
「そうか、そうか、そういうことか。それはよいことだな」北里も感心して言った。
 そのとき、突然、ドカーンという爆発音が戸外で聞え、地面が振動で揺れた。
「どうした、どうした」周りの皆が、がやがや騒ぎ始めた。
 八雲は皆に向かって、叫んだ。
「みなさん、落ち着いてください。私が見てきます」
 八雲は一人で外に飛び出した。皆は立ち上がって、おろおろしていたが、間もなく、八雲がはあはあ、息を切らしながら、戻って来た。皆は、八雲の報告を促した。
「たいへんです。養老院が燃えています。笠間さん、すぐ、消防団を招集してください。……森本さん、こういう状況です」八雲のこの最後の言葉は、駐在所の森本に向かってだった。
 皆、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。宴会はこの場で取りやめになった。
 消防団長の笠間、駐在所の森本、それに診療所の若木は間違いなく、当事者であるに違いなく、彼らは、いち早く宴会の場を後にして行った。そして、もちろん、皆も火事の現場を見ようと、外に飛び出して行った。
 宴会の行われた公民館と村役場はすぐ近くで、山間の村にあっても、高台にあり、眼下の数百メートル離れた低い所に村営の養老院があり、炎と煙に包まれているのが見え、煙の匂いが鼻をついた。
 半鐘が鳴り始め、サイレンの音もあたりに響き渡った。
 来栖は友紀と並んで立って、養老院の方を見ていた。皆が、ぞろぞろ、坂道を降りて火事の現場に向かっていた。八雲を初め、先ほどの宴会の参加者の幾人かは消防団員だった。いつの間にか消防服に着替え、ヘルメットをかぶった八雲が駆けていくのが見えた。
 来栖と友紀もいつのまにか、火事の現場に向かって走って行く人々の流れに乗って、坂道を下りていった。
 突然、誰かが叫ぶ声が聞えた。
「欧開明先生だ!欧開明先生がいらっしゃった!」
 人々のどよめきがあり、そして、あちこちで歓声が上がるのが聞えた。
「欧開明先生!」「欧開明先生!」その声は火事でざわめく、人々の中で大きなこだまとなって響き渡っていった。

 

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村 (第1章 12)

2013年03月02日 | 小説

 猪田はえへんと咳払いをすると、まず、左手を挙げて、何か聞き取れない、外国語のような言葉を唱えた。その後、他の者たちもそれに続いて、左手を挙げて、一斉に同じ言葉を唱えた。猪田も全員が唱え終わるまで左手を挙げたままだった。来栖も知らず知らずのうちに、友紀といっしょに同じ動作をした。でも、その唱える言葉がわからず、友紀の発する音に耳を澄ましたが、まるで聞き取れなくて、ただ、口を動かしただけだった。
「みなさん、今日は新しい人がわれわれの村に加わりました。八雲君、紹介してください」猪田は皆に向かって言った。
「こちらが、三輪友紀さんです」八雲は友紀を差し示して言った。
「三輪友紀です。よろしくお願いします」友紀はそう言って、頭を下げた。
「こちらが、来栖信一さん」八雲がそう言うと、来栖はぎこちなく、頭をこくりと下げたが、何も言わなかった。
「お二人とも、近々、開校する村の小学校の分校に着任されます。みなさん、以後お見知りおきを」八雲は言った。
「まあ、お二人とも、そんなに硬くならずに……」猪田は少し微笑みながら言った。見たところ、彼は温和な気性の老人のようだった。
「八雲君、お酒をみなさんに注いでください」猪田は八雲に言った。
 八雲は上座にいるにもかかわらず、やはり幹事役には違いなかった。八雲が指示して、また自分でもいそいそと立ち回り、ビールを各自のグラスに注いだ。ビールが各自に行き渡ると、猪田が、グラスを手に取り、乾杯の音頭を取った。
「欧開明先生のご健康と、黄道の会の高得率構成比率の向上を祈って」猪田がそう言うと、周りの者たちも同じ言葉を繰り返した。そして、宴会は始まった。
 八雲は上座に座る人間にもかかわらず、ビールのビンを持って、猪田を最初に、上座から下座へ、一人一人にビールを注いで回り、来栖と友紀のところにもやって来た。
「八雲さん、何もわからないので、よろしくお願いします」来栖はそう言ったが、何か、暗い表情が顔にあった。それとは対照的に、友紀は明るい表情で、楽しそうだった。
「この村に来れて、本当によかったです。亡くなった兄も喜んでいると思います。これから、私も欧開明先生の理論の学習と実践をします」友紀は言った。
「それは、それはたいへんいいことです。この村も、いや、黄道の会も新しい優れた人材が加わって、ますますよくなります」八雲は上機嫌でそれに答えた。
 八雲に促されて、来栖と友紀はビールを持って、上座から注ぎに回った。猪田は友紀の顔を見て言った。
「惜しい人を亡くしたもんだ。あんたのお兄さんの三輪君は実にいい男じゃった。欧開明先生も彼にはたいへん、期待しておったのに、運命とはわからんものじゃ……」
「兄はこの会のおかげで、本当に幸せだったと思います。だから、私もこの会に入れてもらいました」友紀は言った。
「それは、それは、よかったのう。ところで、この方はもう会に入ったのかね?」猪田は来栖を指して、八雲に尋ねた。
「はあ、それが……まだです」八雲は答えた。
「来栖さんの入会届は、ご本人の印鑑を押すだけで、よいように準備してあります」突然、背後から、意外なことに、村長の大木が言った。
「来栖先生、どうですか?入る気持ちはありますか?もっとも、無理にお勧めしないのが、黄道の会の特徴です。現にこの村にも会に入っていない人もいます」八雲が言った。
 来栖は顔をゆがめて言った。
「会に入らないと、分校の教師はできなくなると言うことでは、ないと思っていますが、ぼくが、この会のことをまるで知らないので、今はなんともお答えできません」
「わかりました。会のことをよく理解されてから、入会されても遅くはありません」八雲は猪田と大木にめくばせした。
「会のことを理解すれば、理解するほど、入会しなければならないと感じるはずです。わたしが来栖先生にビデオやご本をお貸しします」友紀が来栖に言った。
「そうですか?それはたいへんよいことです。ぜひ、お願いします」八雲が彼女の態度に感心したらしく、友紀に言った。
 暫らく、来栖本人は、考えこむような顔をしていたが、やがてうなずいて、言った。
「いいでしょう。見せてください」
 皆は歓声を上げた。八雲だけは、ただ下を向いて、にやにやしていた。

 

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村 (第1章 11)

2013年03月02日 | 小説

 その晩の宴会に集まったのは、村の主だった人たちだった。
 村の有力者が数人、村長、村会議長、駐在所の森本、消防団長、郵便局長、診療所の医師若木、等々、女性も数名いた。そして、なぜか、その地方選出の衆議院議員である、古塚啓三がいた。
 この宴会は、メンバーも毎回決まった人間が参加し、主に黄道の会の教団の方針、考え方が、「村」と言う地方自治体の政策に以下に反映させていくかが話し合われる、毎月一回の「連絡会」の終わった後、開かれる親睦会とのことで、「連絡会」の時は書記を務め、親睦会の時は幹事役を務める八雲はもちろん、この場には必ず参加するのだった。この宴会の費用は、どこから出ているのかは不明で、参加者が各自負担しているわけではないことは確かだった。
 来栖と友紀はもちろん、連絡会には参加せず、親睦会のみの参加であったが、夕方六時半の十分前に、八雲に呼ばれて、村役場の近くの公民館に足を運ぶと、そこに宴席は設けられていた。畳の大広間に、カラオケのマイクやアンプ、スピーカー等が置かれている、小さなステージの側を上座とし、料理を盛った、昔風のお膳が、出席者の数だけ、コの字型に並べられていた。
「ここに座って、待っていてください。みなさん、まもなく、来ますので」八雲はそう言って、二人を宴席の末席に座るよう促した。
 来栖と友紀は少し緊張の面持ちで、その場に座って待っていると、やがて、どかどかと十数人の人間がなだれ込んできた。なぜか、先頭の二、三人が一様に興奮していて、声高に議論をしているかのようだった。
「そんなことは許されないぞ!その男をなんとかできないのか?」そのように怒鳴ったのは村の有力者の一人、北里だった。年の頃は五十過ぎで、その赤ら顔の太った大柄な体躯を震わせていた。村長の大木はそれをなだめるように、言った。
「金村勘吉は畑の作物を盗んでいるから、駐在所の森本君が本署と連絡し、彼を逮捕してくれるでしょう。ご心配なく」
「しかしだな、いっとき牢屋に入っていても、その程度の悪さしかしとらんと、すぐ舞い戻ってくるだろう」北里は言った。
「大丈夫です」大木はそう言って、北里にひそひそと耳打ちした。
 北里は驚いて、大木の顔をみつめた。
「そんなことができるのかね?」北里は大木に尋ねた。
 大木は大きくうなずいた。
 幹事役の八雲が皆に声をかけた。
「みなさん、いつものように、ご自分の名札が置かれた席にお着きください」
  見ると、お膳の上に各自の名前が書かれた名札があり、その名札には村長、村会議長等の役職名はなく、自分の名前以外に普通何級とかの等級が書かれていた。その等級は不可思議で、たとえば、現世では地位が高いはずの、衆議院議員の古塚啓三など、末席から数えて三番目で、普通四級と書かれていた。上座と思われる席には村の長老の猪田が座り、彼の等級は特別二級だった。驚いたことに、若い八雲が末席ではなく、上座に比較的近い席で、しかも彼の上司である村長の大木より上座の席だった。八雲の等級は特別一級で、村長の大木は普通八級だった。いったいこの等級がどのように決められ、どのような意味、効力があるのか、不明だった。ただ、どうやら、わかることは、等級の数が多い方が上だということだった。来栖と友紀の名札を見ると、来栖は普通0級、友紀は普通一級と書かれていた。
「おい、おい、八雲くん、いや、八雲先生……わしの等級が違っておるようだが……」そう言ったのは、村会議長の平野だった。
「平野議長、いや、平野くん、この前の等級評議会の評価結果をよく読んでください。あなたの欧開明先生の説く、源体宇宙論に対する理解度及び実践度は以前より、下がったんです。だから、以前の普通七級から普通五級になりました」八雲はそう言って、平野に自分の名札が置いてある席に座るよう、勧めた。
 平野は白髪頭を掻いて、何事がぶつぶつ言いながら、自分の席に腰を下ろした。
 皆がそれぞれ、自分の席に腰を下ろしたのを見て、八雲が皆に向かって、言った。
「みなさん、席につかれましたね?よろしいですね?」
「はい」、「はい」と各自が返事をした。
「では、猪田先生、お願いします」八雲はそう言って、ステージを背にして、中央の上座に座った、猪田を促した。

  

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