原良はここ十年近く、この村にいて、一つのことをやりつづけていた。彼は請負の土木工事業者で、村で唯一の一台の小型ショベルカーを持ち、村の内外で土木工事がある時は彼は呼ばれた。と言っても、この一つのこととは、彼のこの土木工事の本業のことではなく、実際まだ、一円の利益も彼に与えていない、宝探しだった。この村に巨額の埋蔵金が埋められた可能性があるという伝承があり、実際、この原良以外の人々もこの村での宝探しをやったことがあった。しかし、それらはどれも短期的な、一過性のものであった。
原良の場合、非常に粘り強く、強い意志もあり、根気よく続けていた。彼は宝探しを自分の唯一の生きがいとしているところがあった。実際、村のあちこちを彼のショベルカーで掘り起こしては、埋め戻す作業をして、村のあちこちに盛り土の小山を作っていた。彼はやみくもに掘るのではなく、彼にはパートナーがいた。それは、テレビ等のマスコミにたまに登場し、著書もいくつかある霊能力者の黒木と言う男で、年齢も原良と同じくらいで五十幾つだった。いつから、どういう理由でこの二人が知り合い、このいつ終わるともわからない、もしかしたら、徒労に終わるかもしれない作業をどうして始めたのか、わからなかった。時々、一ヶ月に一度くらい、この黒木がやって来ては、地図を広げ、古文書を片手に黙想した後、彼が地図上で指差す地点を、原良はここかしこと掘り起こしていた。国有地の山林では、誰にも断り無く、掘り起こしていたが、もし黒木が指差した地点が私有地で地主の許可が必要な時は、彼らはどうしたかと言うと、何の前触れもなしに、突然、深夜に行き、土を掘り起こして、工事用の投光器で辺りを照らし、宝らしき物がないことを確かめると、土を埋め戻し、そうした場合、うず高い小山になるのだが、さっさと引き上げて行くのだった。実際、もし宝を発見した場合、法律で決まっているのは、発見者と地主が半分ずつと言うことでは、十年近く掘り続けている黒木と原良には何か納得できないものがあるのかもしれず、宝を見つけた場合、地主には内緒で宝を持ち去ろうと考えているのかもしれなかった。しかし、そうした場合、これは、ほとんど泥棒行為なのかもしれなかった。田舎のことゆえ、人の目が届かないこともあり、めったに問題になることはなかったが、ごく稀に、地主が自分の土地で掘り起こされた跡の例の小山を発見し、原良に怒鳴り込んできたこともあった。しかし、そうした場合、彼は、ただ平あやまりにあやまるだけだった。しかし、考えてみたら、十年近く、宝を発見せず、掘り続けていると言うことは、黒木の霊感が外れ続けているという証拠でもあった。そうであっても、原良は黒木の言うことに疑いを抱かず、黙々と聞き、言われるままに十年間近く掘り続けているのは驚嘆に値した。もっとも、黒木の指示した場所を掘ると、古民具であるとか、壺であるとか何かしら出てくることがたいへん多かった。ある時など、かなり古い時期の人骨が出てきたことすらあった。こうしたことは原良の宝探しに対するやる気を持続させるのには申し分なかった。
その日の前の晩、黒木はやって来ていた。黒木と原良は不思議とうまが合い、気味が悪いくらいだった。今回は雑誌社の若い男の記者がカメラマンを伴って、取材に来ていた。黒木の仕事のスケジュールがタイトで、時間がないとのことで、その日の朝早くから宝探しは始まった。
黒木は朝露に塗れた草木の生い茂る大自然の中で、例の如く、もう何十回となく繰り返えしたことだが、眼をつぶって黙想し、おもむろに地図に印しをつけていった。これは通常1つか2つのポイントだった。原良は地図を見ながら、場所の見当をつけると、その地点に、木の枝で十字の印しを地面につけた。記者とカメラマンが注目する中、原良の小型ショベルカーが仕事を始めた。たちまち、一メートル、二メートル、三メートルと掘り進んだ。この深さについては、黒木から指示があるのが常だった。黒木がもうこれ以上掘るなと言う場合は、すぐに掘ることは停止し、埋め戻しに入った。しかし、普通、何かしら出てきた時、黒木が地中に感じ取ったものが出てきたとき、それは必ずしも宝物ではなかったが、そこで掘ることは打ち切られ、掘り出した土を穴に戻すことを始めるのだった。
こうしてショベルカーが地面を掘っている時、よしこが何かひとり言を言いながらふらふらと歩いてきた。彼女の家は農家で、身体の悪い母親と祖父母の三人といっしょに暮らしていたが、母親が目を離したすきに家を抜け出て、よく、村の中をあてもなく、何かぶつぶつつぶやきながら、ときどきかがんで野の草花を摘みながら歩きまわっていることがよくあった。この日の朝も、よしこは母親の目を盗んで飛び出して来たのだった。しかし、この日この時は、彼女はあたりに目をくばり、まるで誰かを探しているかのようだった。





