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小説です

読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (第1章 5)

2013年01月20日 | 小説

 原良はここ十年近く、この村にいて、一つのことをやりつづけていた。彼は請負の土木工事業者で、村で唯一の一台の小型ショベルカーを持ち、村の内外で土木工事がある時は彼は呼ばれた。と言っても、この一つのこととは、彼のこの土木工事の本業のことではなく、実際まだ、一円の利益も彼に与えていない、宝探しだった。この村に巨額の埋蔵金が埋められた可能性があるという伝承があり、実際、この原良以外の人々もこの村での宝探しをやったことがあった。しかし、それらはどれも短期的な、一過性のものであった。
 原良の場合、非常に粘り強く、強い意志もあり、根気よく続けていた。彼は宝探しを自分の唯一の生きがいとしているところがあった。実際、村のあちこちを彼のショベルカーで掘り起こしては、埋め戻す作業をして、村のあちこちに盛り土の小山を作っていた。彼はやみくもに掘るのではなく、彼にはパートナーがいた。それは、テレビ等のマスコミにたまに登場し、著書もいくつかある霊能力者の黒木と言う男で、年齢も原良と同じくらいで五十幾つだった。いつから、どういう理由でこの二人が知り合い、このいつ終わるともわからない、もしかしたら、徒労に終わるかもしれない作業をどうして始めたのか、わからなかった。時々、一ヶ月に一度くらい、この黒木がやって来ては、地図を広げ、古文書を片手に黙想した後、彼が地図上で指差す地点を、原良はここかしこと掘り起こしていた。国有地の山林では、誰にも断り無く、掘り起こしていたが、もし黒木が指差した地点が私有地で地主の許可が必要な時は、彼らはどうしたかと言うと、何の前触れもなしに、突然、深夜に行き、土を掘り起こして、工事用の投光器で辺りを照らし、宝らしき物がないことを確かめると、土を埋め戻し、そうした場合、うず高い小山になるのだが、さっさと引き上げて行くのだった。実際、もし宝を発見した場合、法律で決まっているのは、発見者と地主が半分ずつと言うことでは、十年近く掘り続けている黒木と原良には何か納得できないものがあるのかもしれず、宝を見つけた場合、地主には内緒で宝を持ち去ろうと考えているのかもしれなかった。しかし、そうした場合、これは、ほとんど泥棒行為なのかもしれなかった。田舎のことゆえ、人の目が届かないこともあり、めったに問題になることはなかったが、ごく稀に、地主が自分の土地で掘り起こされた跡の例の小山を発見し、原良に怒鳴り込んできたこともあった。しかし、そうした場合、彼は、ただ平あやまりにあやまるだけだった。しかし、考えてみたら、十年近く、宝を発見せず、掘り続けていると言うことは、黒木の霊感が外れ続けているという証拠でもあった。そうであっても、原良は黒木の言うことに疑いを抱かず、黙々と聞き、言われるままに十年間近く掘り続けているのは驚嘆に値した。もっとも、黒木の指示した場所を掘ると、古民具であるとか、壺であるとか何かしら出てくることがたいへん多かった。ある時など、かなり古い時期の人骨が出てきたことすらあった。こうしたことは原良の宝探しに対するやる気を持続させるのには申し分なかった。
 その日の前の晩、黒木はやって来ていた。黒木と原良は不思議とうまが合い、気味が悪いくらいだった。今回は雑誌社の若い男の記者がカメラマンを伴って、取材に来ていた。黒木の仕事のスケジュールがタイトで、時間がないとのことで、その日の朝早くから宝探しは始まった。
 黒木は朝露に塗れた草木の生い茂る大自然の中で、例の如く、もう何十回となく繰り返えしたことだが、眼をつぶって黙想し、おもむろに地図に印しをつけていった。これは通常1つか2つのポイントだった。原良は地図を見ながら、場所の見当をつけると、その地点に、木の枝で十字の印しを地面につけた。記者とカメラマンが注目する中、原良の小型ショベルカーが仕事を始めた。たちまち、一メートル、二メートル、三メートルと掘り進んだ。この深さについては、黒木から指示があるのが常だった。黒木がもうこれ以上掘るなと言う場合は、すぐに掘ることは停止し、埋め戻しに入った。しかし、普通、何かしら出てきた時、黒木が地中に感じ取ったものが出てきたとき、それは必ずしも宝物ではなかったが、そこで掘ることは打ち切られ、掘り出した土を穴に戻すことを始めるのだった。
 こうしてショベルカーが地面を掘っている時、よしこが何かひとり言を言いながらふらふらと歩いてきた。彼女の家は農家で、身体の悪い母親と祖父母の三人といっしょに暮らしていたが、母親が目を離したすきに家を抜け出て、よく、村の中をあてもなく、何かぶつぶつつぶやきながら、ときどきかがんで野の草花を摘みながら歩きまわっていることがよくあった。この日の朝も、よしこは母親の目を盗んで飛び出して来たのだった。しかし、この日この時は、彼女はあたりに目をくばり、まるで誰かを探しているかのようだった。

 

 

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村 (第1章 4)

2013年01月01日 | 小説

 その夜、来栖が見聞きしたことは実に不思議で異様なことだった。
 それは現実とも夢とも区別がつかない、夢うつつの境地にある状態で、来栖はそこに連れてこられた。そこは大きな広間のようなところで、大勢の人が天井から吊り下げられた砲弾形の器具に上半身をすっぽり入れ、それぞれ、両脚をぶらんと露出して、宙に浮いていた。誰かが来栖の目の前に器具を下ろした。そして、器具を開いて、あふれ出る光の洪水で中がどうなっているかわからない、半分半分になった器具の中に来栖を入れ、器具を閉じて、スイッチを入れ、緑のランプが点灯すると手を放した。器具はバネで吊られているかのように、来栖もろとも上に向かって天井の方にするすると浮いて行った。
 やがて、来栖の頭の中に映像が浮かんだ。身体の線を見分けることができない、ゆったりした白いガウンを着た、一人の人間が現れた。それは長い髪の、もし、男ならば優男でたいへんな美男子、それがもし、女なら、美少年のような女とも言えるような人間が、これまた声変わりしていない少年のような高い声で宇宙の摂理を語りだした。悠久の過去を見るならば、全て一切の物は、一つであったと。来栖はこの人間がたいへん美しい、すばらしい人間だとを感じ始めた。来栖には、この人間が好きで好きでたまらなくなり、その人間に近づいて行った。近づいて行ったが、その人間との距離はいっこうに近くならず、まるで室内トレーニング用のルームランナーの上を歩いているかのようだった。よく見ると、来栖の周りに大勢の老若男女が坐って、この美しい人間が説く講話に聞き入っていた。来栖もこの群衆と同じ心理に変わっていった。この美しい人物が説く話がたいへん心地よく、心に染み入るように聞こえるようになり、それを無条件で受け入れていく自分に気がついた。また、このできごとを体験しているとき、一種のなんとも言えない、人を幸せな気分にさせる芳香がしていたことを来栖は、後で思い出した。
 来栖が気がついた時には、自分の部屋で布団に寝ていて、戸外で小鳥の囀る声が聞こえていた。枕元を見ると、「朝8:30に迎えに参ります。八雲」と書かれた一枚の紙があった。時計を見ると、まだ六時だった。彼はまた一寝入りしようと、布団をかぶった。どれくらい経った頃だろうか、日はもう、完全に上り、辺りは明るくなっていた。突然、ドアを叩く音がし、来栖は目を覚ました。時計の針は七時三十分を指していた。来栖は起き上がって、大きな伸びを一回すると、飛び起きて、ドアのところに駆け寄った。都市部のアパート暮らをし、うるさい勧誘やセールスマンを追い払うための習慣が抜けない来栖はドアを開けずに、「どなたですか?」と大きな声で怒鳴った。「おはようございます。来栖せんせ、朝ごはんですよ」外で少し聞き覚えのある女性の声がした。来栖がドアを開けると、そこには昨日、夫婦喧嘩をしていた中年の女がお膳を持って立っていた。来栖はすっかり忘れていたが、商店の少ない、辺鄙なこの村の事情を考えた、八雲の提案で、朝夕の食事の賄いを頼んだのだった。ついでに言っておくが、この中年女は夫といっしょに、この切り通しに建つ、奇怪な建物の来栖と同じ二階に住み、夫は村役場の守衛をしていて、女は普段、これまた村役場の掃除婦をしていた。二人に子どもは無く、姓は三方(みかた)と言った。
 湯気の立った、炊きたての飯を食べ、みそ汁をすすり、魚の干物をつまんで、来栖は何年かぶりで和食の朝食をとった。いつもはトーストに目玉焼きにコーヒーだったので、腹に幾分かいつもより満腹感を感じながら、身支度を整え、八雲が迎えに来るのを待った。
 八雲はなかなか来なかった。約束の八時半を過ぎても、九時になっても、彼は来なかった。ようやく約束の時間より一時間遅れの九時半になって、ドアを叩く音がした。ドアを開けると、それは八雲ではなく、若くてきれいな女性だったが、目の周りに病的な隅があり、異常に痩せていた。彼女は突然しゃべり出した。
「へぇー、あなたが、今度来た、分校の先生なんだ!なんだ八雲の馬鹿が、言ったほどじゃないじゃない。ハンサムで男前だって。確かに、日本人ぽくないけれど、なんだか人に騙されそうな間抜けな顔をしてるわ。ところで、あなたいくつよ?」
 来栖はこの奇妙な来訪者を迎えてあっけにとられて、暫らく言葉も出ないくらいだったが、かろうじて出た言葉は相手を怒らせかねない言葉だった。
「あなたが、あの頭がおかしくなったよしこさんですか?」
「頭がおかしい?誰に向かって言ってるの?えっつ!」急に言葉のトーンが変わって、よしこは怒りだした。
「ごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃなかったんだけれど...」来栖は弁解した。
「じゃ、どんなつもりよ!」よしこはますます怒り出し、来栖の部屋に侵入してきた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」相手の剣幕に恐れをなして、来栖はただ、たじたじとなるばかりだった。
 その時、よしこの背後から誰かがやって来た。「また、やってるな」その男の声は聞き覚えのある声だった。見ると、八雲が服を泥だらけにした無残な姿でそこに立っていた。

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村 (第1章 3)

2013年01月01日 | 小説

 来栖は昼にも八雲に連れて来られて、昼食を食べた、村に一軒しかない食堂兼仕出屋で、村長の大木を待っていた。大木は来栖を面接したあの関西なまりの顔の大きな小柄な男で、年の頃は五十幾つだった。夜7時の約束だったが、もう既に十分過ぎていた。
 それから間もなく、店の前に一台の車が停まり、大木とおぼしき男が降り立った。車は走り去った。大木は店の中に足を踏み入れ、来栖の顔を見るなり言った。
「お待たせして、すいません」
「いいえ」来栖は恐縮して答えた。
「実は会議が長びきましてね...」と大木は多忙なことをほのめかしながら、店の者に燗をした日本酒を出すように言いつけた。
「日本酒ですが、どうですか?」大木は酒を飲むしぐさをして、来栖に尋ねた。
「はい。ありがとうございます」来栖は答えた。
「今時の若い者は親のすねかじりでも飲むそうですな。私の頃は学生など、金もなく、アルバイトばかりして、酒を飲むひまなどなかったが...」大木は少し、感慨深げに言った。
 燗をした日本酒が来ると、大木は来栖に酒を注いだ。来栖も日本の習慣に従って、大木の杯に酒を注いだ。しばらく二人は酒を酌み交わしながら、来栖は大木に自分を採用してくれたことに謝意を述べ、大木は来栖の僻地農村の教育にかける情熱に胸を打たれたなどと、来栖を採用した理由などを述べた。その雰囲気から見て、大木はかなりの酒好きのようだった。来栖が単刀直入に自分が今いちばん関心のあることを、大木に尋ねた。
「分校へはいつ連れて行ってもらえますか?」
「そう、そう、前にもお話したとおり、今、建設中です。私も忙しいので、暇を見てお連れしたいですが...」大木はすまなそうに答えた。
「八雲さんでもよろしいんですが、私を連れて行くのは」来栖は自分の新しい仕事場を一日も早く見てみたい様子だった。
「うーん、八雲はあそこを知らんです。それに、八雲は私の秘書で、他にも仕事があり、そう、毎日、あなたにお付けするわけにも...」
どうやら、大木は建設中と言う分校にすぐに来栖を連れて行くことに何か問題があるらしかった。
「じゃ、僕は明日はどこへ行けば、いいんですか?」来栖は尋ねた。
「うーん、そうだね...(これは小さな声)道場はまだ早いか。うーん、とりあえず、役場に来てください。分校準備室がありますので。八雲に言っておきます」大木は言った。
 「八人の生徒たちは今、隣り町のN町から戻って来てますよね。会えたらいいんですけれど...」来栖は少し探るような目で、大木に問いただした。と言うのも、彼は原良のこともあり、少し疑いを感じてきていたからである。
 意外にもこれはあっさり、大木は承諾した。
「いいですよ。私が呼んだ時に来てもらえれば、お引き合わせします。みんな、自分たちの村の分校の先生を首を長くして待っています」
「そうですか!それはうれしいです!」子ども好きで教育に情熱を燃やす、来栖は満面に笑みを浮かべて、叫んだ。
 実際、来栖は子どもが無性に好きだった。最近まで、町内の少年野球チームのコーチをしていた。彼は子どもたちの中にいると、違和感を感じなかった。実際彼自身、大人になりきっていない、大きな子どものようなところがあった。来栖は僻地の山村の分校の教師になることに、なんら抵抗もなく、むしろ深い喜びを感じていた。
 大木が来栖の杯に酒を注いだ。来栖はその一杯を飲み干すところまでは、覚えていたのだが、どうしたわけか、その後、意識がなくなった。もともと、それほど酒に強い方ではなかったが、これくらいの酒量で人事不省になることは、後から考えると、何か普通ではないことがあるに違いなかった。それはもしかしたら、酒の中に何か薬物が入れられていたことも可能性としてはあったが、不思議なことに同じ酒を飲んでいた大木はなんともないらしかった。これはいったいどういうことだろう。
 来栖が気がついたときには、あの切り通しにある不思議な建物の二階の彼の部屋の布団の上に寝かされていて、時刻は夜明けの頃だった。それは夢なのか、現実のことだったのかはっきりしないが、来栖の頭の中にははっきりとした印象が残っていた。それは、たいへん不可解な体験だった。

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