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読者の皆様を惹きつけるストーリー展開でありながら、高尚なテーマを持つ外国の小説みたいなものを目指しています。

村 (最終章 3)

2024年10月18日 | 小説

 来栖と八雲はほぼ同世代だったが、八雲が来栖より二歳年上で、この二十数年間、八雲は来栖を呼ぶときは、分校時代は「来栖先生」、初等教育センターに来栖が配属され、その実質的な責任者になってからは、例えば「副所長代理」と言うように、その役職名で呼ぶことが常であった。八雲は来栖と一定の距離を保ちながら、自分がいつも来栖の上位者であることを来栖にわからせようとする雰囲気も来栖は感じていた。
 来栖の方は、初めて八雲に会ったときからこの物語の現在時間まで、八雲のことは「八雲さん」と呼ぶだけで、八雲が副村長になってからでも、その役職名を呼ぶことはなかった。Y村の行政の役職名を黄道の会の中で使用する例は以前村長であった大木の場合しか今までなかった。
 H県の県庁所在地S市の名前を冠したこのS空港は三千メートルの長さの滑走路が一本ある地方都市の空港であったが、国際線も近隣の韓国と台湾からそれぞれ週二便あった。
 アレックスは当日午後に到着する韓国からの便に搭乗予定と来栖は聞いていた。ゲートから韓国人の観光客が恐らくこのH県の温泉目当ての来日であったが、三々五々出てきた。
 来栖は「Mr. Alex Michio Furuzuka」と印刷したA4大の紙を掲げ、ゲートから出てくるその便の搭乗客と思われる人の目のつくところに立っていたが、いくら待ってもそれらしき人物は現れず、人の流れがいったん止まってしまった。
「どうしたんですかね?」一度はゲートを離れ、再び戻ってきた八雲に来栖は問いかけた。
 突然、来栖の携帯電話が鳴った。見慣れない外国からの国際電話のような着信電話番号に来栖は驚き、電話を取りながら、八雲に目配せをした。
「もしもし、来栖先生ですか?ぼくはアレックスです」
 来栖は驚いて、八雲と顔を見合わせた。
 数分後、来栖と八雲の目の前に、バックパックを背負い、大きなスーツケースを持ったアレックス本人が現れた。それは大柄で、筋肉質な日本人とも外国人とも見分けがつかない雰囲気の青年だった。アレックスの容貌は欧開明の血縁者らしく、眉目秀麗の美しい顔立ちであったが、どことなく憂いを帯びた眼の光を時々放つことがあり、快活な雰囲気がすべてかと思うと、はっとさせれることもしばしばだった。
 アレックスの話では、成田着のトランジットの飛行機が中継地のない直行便に変わったので、羽田にも早く着き、日本国内便も変更し、予定より一時間半早くこのS空港に到着したとのことだった。韓国の空港から直接S空港に到着する便のスケジュールは、いちばん最初にアレックスが来栖に連絡したものだったが、変更後の日本国内便がS空港に到着する時刻があまり変わらなかったので、変更になったことをアレックスは来栖に連絡していなかった。
 八雲はこの青年、アレックスと初対面ではないらしく、黄道の会のグローバル大会の時のアレックスの発表を覚えていて、八雲はアレックスとその時の話をしたので、だいぶ打ち解けた様子だった。
 Y村へ向かう車上では、アレックスは驚いたことに、自分が来栖の教え子であったことを語るのであった。来栖が黄道の会の派遣でイギリスの大学で学び、教育学修士の学位を得て、帰国した後、三年間は初等教育センターの準備期間で、公立の学校としてのY村の分校はなくなっていたが、初等教育センターの前身の私立小学校は設立され、黄道の会の会員の家庭の児童の受け入れを開始していた。その時は来栖はこの小学校の教壇に立っていたが、アレックスのことの記憶はなかった。欧開明の血縁者なら、来栖が覚えていないはずはなく、これは不思議なことだった。
「当時は、自分の子供が特別扱いされるのを嫌がった両親の意向で、欧開明先生がぼくの伯父さんであることは秘密でした」アレックスの言葉に驚き、来栖は一人の男の児童を思い起こした――アレックスの現在の容貌から、病弱でよく母親が送り迎えをしていた一人の男の子がアレックスだったような気がしたが、その子の名前は来栖は思い出そうとしても思い出せなかった。
「うーん、名前が思い出せない」来栖がつぶやくと、アレックスが助け船を出した。
「鈴木です」
 来栖は日本人に多い、この平凡な姓を平凡であるがゆえに、どうしても思いだすことができなかった。
 来栖がアレックスから聞いた話によると、アレックスの母は欧開明の実の妹だったが、彼女は兄の欧開明と違い、日本国籍を取得し、黄道の会の会員の鈴木と言う彼の父と結婚した。その後、彼と二つ下の弟が生まれた。彼が中学生になったころ、彼の父の方の原因で、アレックスの母は彼の父と離婚し、結婚前の姓に戻ったとき、母を親権者とするアレックスの姓も母の元の姓の古塚に変わったとのことだった。


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