「夏至」は6月21日だった。一年中で昼間が最も長いのが今の時期。季語には「明易」がある。
「獺に燈をぬすまれて明け易き」
久保田万太郎のこの句は『文人たちの句境』で関森勝夫が載せているもの。
揖斐川河口の港町桑名、船津屋という料理旅館も揖斐川岸に建っている。ここは泉鏡花の『歌行燈』の舞台だ。昭和初年には万太郎もここで『歌行燈』の脚本を書いた縁のある場所である。
昔の揖斐川にはカワウソが住んでいたらしい。捕えた魚をすぐには食べず獲物を置いておく習性を『獺祭』というが、これがよく知られ出したのは、安倍首相の票田、山口の地酒がこの名だからということはないのだろうか。
カワウソは古来からヒトに悪さをするという俗説があって、鏡花も『歌行燈』で「時々崖裏の石垣から獺が這いこんで板廊下や厠に点いた灯を消して、悪戯をするげに云います」と言わせている。万太郎の句もこれを巧みに使っているのだ。
関森は自分で船津屋を訪ねたことがあるようだ。旅館の隣には万太郎のこの句が碑になっているとか、七里の渡し跡から伸びる河岸はコンクリートの防潮堤と化して、カワウソのような動物などが住める環境はないと一目で納得できるほどの激変ぶりだと腹を立てている。
『文人たちの句境』が出版されてから25年が経った今、船津屋の周辺はさらなる変貌を見せているだろう。万太郎の句碑を見に一度出かけてみようか。
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