礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

大本営、沖縄作戦の終結を発表(1945・6・25)

2016-06-25 03:17:46 | コラムと名言

◎大本営、沖縄作戦の終結を発表(1945・6・25)

 この間、中村正吾秘書官、および黒木勇治伍長の「日誌」によって、七一年前(一九四五年)の「今ごろ」の出来事を紹介している。出典は、それぞれ、中村正吾著『永田町一番地』(ニュース社、一九四六)、および黒木雄司著『原爆投下は予告されていた』(光人社、一九九二)である。
 本日は、『原爆投下は予告されていた』から、六月二三日~二七日の日誌を紹介する(一八五~一九一ページ)。
 六月二三日の分は、一昨日の六月二三日に紹介すべきであったが、「日本会議」関連のコラムを書き続けていたため、遅くなってしまった。
 なお、『永田町一番地』は、すでに、六月二九日までの分が紹介済である。

 六月二十三日 (土) 曇
 午前零時、上番する。下番者田中候補生の報告は、
「昨日午後十時のニューディリー放送によりますと、昨日、米軍B29四百二十機は山陽路の中小都市明石、姫路、岡山、福山の各都市を空襲し爆撃致しました」と。
「班長殿、広島はありせんでした」とつけ加える。やっぱり彼も、自分〔黒木〕の出身地を気にしている。
 山陽路でほかの諸都市が攻撃されて広島がないのがどうも理由がわからんとも思ったが、黙っていた。広島が空爆を受けないのは有難いことなんだが、どうして残しておくのだろう。あるいは広島だけ五百機で別途にやって来るのではないだろうか。もしかしたら、原子爆弾の投下予定地に考えて残しているんではないだろうかと、ふとそんな考えが横切った。いうべきではない。
「NHKの放送で大本営発表はなかったか」と聞くと、
「軍需省が東京ガスなどにガス料金四割値上げを許可するとの指令をしたそうです。これは二十日に遡及して実施。大正十五年以来の引き上げだそうです」
「ほかには?」と聞くと、「東京手形交換所が総会で解散を決定し、今後は日本銀行が実施するそうです。自分はこの意味がわからず報告しませんでした」と。
 彼は追及されたと思ったのか、下を向いていた。私は追及でなく、沖縄戦線について放送があったかと聞きたかった。言葉は注意して話さねばならぬ。それにしても、沖縄はどうなっただろうか。気になってならぬ。【後略】

 六月二十四日 (日) 晴
 午前零時、勤務に上番する。下番者田中候補生の報告は、
「(一)午後七時、NHK放送によると、義勇兵役法が公布され即日施行。すたわち男子十五歳より六十歳まで、女子十七歳より四十歳までを国民義勇戦闘隊に編成する。(二)午後十時ニューディリー放送によりますと、本日米軍P51約八十機は茨城県内の航空基地を空襲し、銃爆撃を加えました。以上二件、報告致します」
 昨日つぎつぎと質問したので、整理して報告してくれた。満年齢は普通は使わないので、数え年をいうのであろうか。田中や田原を考えてみたら、数え年では当然のことながら該当する。茨城の航空基地とは海軍予科練の霞ヶ浦〈カスミガウラ〉のことだろうか。
 一勤の勤務時間の早いこと。八時問という時間がどんどん経過してゆく。交換器のマイクに向かって対峙するのみ。
 午前八時、下番。下番後は二回目の勤務が気になって早く寝る。そして早く起きる。午後三時半起床し、昼食の後、服装を整える。
 午後四時、上番し、田中候補生と上下番の挨拶をする。申し送りの事項について聞くも、ないとのことである。隊長、上山少尉の二人ともおられる。久しぶりに顔を合わせる。ちょうどそのとき国民義勇隊の女子も加わる件で、隊長は、
「女子【おなご】を戦場に出さねばならないような戦争はすべきでない。女子は留守を守ると、昔からおしえこまれている。例外はあるが、上山、どう思う?」
「はッ、同感であります」
「それと最近ときに耳にする言葉だが、一億特攻と叫んでいるが、言わんとする意味は本土決戦に当たっては軍官民、老若男女を問わず、一億の人間は特攻の攻撃精神を発揮し、敵に殴り込んで敵を撃滅しようとの言葉だ。一億一心、一億総動員、一億特攻になったの
だろうが、このまま進んで一億玉砕になりはしないか心配だ。一億玉砕となれば、日本民族はこの地上から消滅するんだよ。そんな考え方は危険だよ」
 上山少尉は話題を変えるのがうまい。
「隊長殿、その後の沖縄が気になりますが」
「そうだ。黒木、大本営発表など聞き逃してはないだろうな」
レシーバーをはずし、起立して答えた。
「はッ、十八日の敵側情報でありますが、バックナー中将が戦死したというのが、沖縄関係の最後の情報であります。自分も非常に気になって、上番のつど前任者に確認をとっています。部下にも充分気をつけて聞き逃しのないように指示しております」
 隊長は帰られた。上山少尉は、何かしら手帳に小さな文字で書き込んでおられる。
 午後十時、久しぶりに聞くニューディリー放送が流れる。
 こちらはニューディリー、ニューディリーでございます。米軍は本日B29約三十機にて福岡、唐津を空襲し、それぞれの港湾地帯に機雷の投下を致しました。これとは別にB29約二十機は堺および新潟を空襲し、同様、港湾地帯に機雷の投下を致しました。繰り返し申しあげます。…………。
 上山少尉も放送直後に席を立たれた。午後十二時、上下番挨拶を交わし、田原候補生に勤務を申し送り下番する。

 六月二十五日 (月) 晴
 昨日の一勤と三勤をやったので疲れたのか、先週前半の勤務の疲れが残っていたのか、目が覚めてからも、また思い切り朝寝する。起床は午前十時近くなる。
 朝食を食べ洗濯を終えると、もう十二時となる。午後、何もする元気もなくて、ただ要点的に日記にメモする。
 午後三時半、服装を正し午後四時、上番する。【中略】
 午後七時、NHKのニュースが流れてくる。「海ゆかば」の静かな物悲しい音楽につづいて、
 ――大本営発表! 大本営発表! 沖縄戦における日本軍は去る二十二日以降詳か〈ツマビラカ〉ならず。組織的作戦は終結したものとして発表する――
 私は唖然として聞いていた。牛島〔満〕中将をはじめ第三十二軍首脳は、二十二日ごろ本当に自決されたのであろうか。それとも電信通信が不能となって全員、地下ゲリラに変身されたか。米側の発表を待ちたい。こんな情報なんで日本側は発表を早くするんだろう
 午後十時、ニューディリー放送が流れてくる。
 ――こちらはニューディリー、ニューディリーでございます。信ずべき情報によれば、米外国経済院総裁クローリは下院予算委員会で、ソビエト連邦に対する武器貸与を従来通り継続すると言明しました。繰り返し申しあげます。…………。――
 沖縄のことを何もいわないのに、不思議さを感じた。おそらくゲリラ戦が随所に行なわれているに違いない。最後の最後まで健闘することを祈る。また、米国から従来ソ連に武器貸与が行なわれていたことを初めて知る。ドイツは南北から米国の武器にやられたようなものだ。【後略】

 六月二十六日 (火) 曇後風雨強し
 午前九時起床。よく眠れたので気持がよい。気持と裏腹にどんよりした天候である。雨に降られたらと、早目にドラム缶浴場に行って行水する。水では石鹸も泡が立ちにくいが、とにかく汗をきれいに洗い落とし、雨を心配しながら洗濯をする。洗濯を終わったころからぽつりぽつりと降り出した。午後になって雨はますます強く風も出て来た。この雨では敵さん、やって来ないだろう。
 午後四時、上番し、田中候補生から引きつぐ。午後五時ごろ、隊長と上山少尉があいついで入って来られた。隊長は、
「牛島司令官はまだ生きておられ、ゲリラ活動を指揮されている」と話しかけ、上山少尉も、
「あの南部のバックナー中将が戦死したという真壁以南、あれからもう十日もたっており、あの小さな面積を考えるとどうともいえませんが、全員が地下ゲリラになってもと頑張っておられることを期待します」【中略】
 午後七時、NHK放送では戦況報告は何もなく、ただ本日の閣議について逓信院総裁から、「国内戦場化に伴う通信確保方策」が報告され了承されたという。
 午後十時、ニューディリー放送が流れてくる。
 ――こちらはニューディリー、ニューディリーでございます。信ずべき情報によれば本日、米軍B29二百七十機は、名古屋および航空基地の各務原【かがみはら】を空襲し爆弾を投下しました。また別のB29二百二十機は阪神間の各地を空襲し爆撃致しました。繰り返し申しあげます。…………。――
 内地は雨が降らないのだろうか。おそらく雨の合い間か降らない日を選んで行なっているのだろう。沖縄のことを何もいわないのは、戦闘がまだつづいているのだろう。
 隊長は午後十時半、上山少尉は少しおくれて退出された。雨の夜は涼しいはずなのに、壕の中はむせるように暑い。扇風機は暑い風を回しているだけだ。午後十二時、下番する。

 六月二十七日 (水) 雨
 雨風が内務班の小屋に吹きつける。屋根からの雨洩りはどうにもならない。下番したと思った田原は、もうすでにぐっすり寝込んでいる。時計をみれば八時十五分。自分の寝ていた雨の当たらないところに転がしてやる。もう蚊帳の一方は、すっかり濡れている。編上靴やズック靴を床の上にあげる。雨の中では水浴も洗濯もできない。途方に暮れてただ雨の降るのを眺めるだけである。【中略】
 午後四時、上番する。外の雨はどこ吹く風か。情報室は素晴らしい事務所である。難をいえば壕の中の一室換気はよいとは決していえない。煙草を二人が一度に吸うと換気は悪い。自分も煙草を吸うが、隊長や上山少尉のおられるときには遠慮するようにしている。午後六時現在、部屋に一人なので煙草を吸う。このころは煙草もマッチも配給がある。昨年の西江作戦のころのように三ヵ月も、煙草もマッチも米の飯も補給ゼロの時代を考えると有難い。
 沖縄戦線では、配給品なんか何もないのだろう。糧秣も底をついているのではないだろうか。
 午後七時、当番兵が食事を持って来てくれた。雨に濡れている。外はまだ雨が降っているようすだ。内地も雨が降っているのか、それとも、米軍の飛行基地が雨で飛び立ちにくいのか、飛行途中に大雨地帯があるのか、午後十時になっても、ニューディリー放送は流れてこない。静かな夜は、時計だけがどんどん針を動かして進めてくれる。午後十二時、下番する。

 六月二三日の項で、黒木伍長は、敵が広島を爆撃しないのは、「原子爆弾の投下予定地に考えて残しているんではないだろうか」(下線)と疑っている。もちろんこれは、本書における「伏線」のひとつである。
 また、六月二五日の項で、黒木伍長は、大本営が沖縄作戦の終結を発表したことについて、「こんな情報なんで日本側は発表を早くするんだろう。」(下線)と批判している。
 しかし、この大本営発表は、沖縄の沖縄守備軍将兵および沖縄県民に対し、敵国への抵抗を中止せよというメッセージだったと捉えるべきではないのか。
 一九四五年(昭和二〇)六月二三日、沖縄守備軍の最高指揮官である第三十二軍司令官牛島満中将らが自決し、これによって、沖縄守備軍の指揮系統は消滅した。しかし、牛島中将は、自決前に、「最後の一兵まで戦い悠久の大義に生きよ」と命令したとされ、事実、生き残りの将兵の抵抗は、八月二九日まで続いたという(ウィキペディア「沖縄戦」)。
 大本営のこの発表には、牛島中将の自決前の命令を否定するという意味があったのではないか。だからこそ、六月二五日という、比較的早い時期に、この発表がなされたのではないか。
 今月二三日、摩文仁〈マブニ〉の平和祈念公園で、沖縄県主催の沖縄全戦没者追悼式が開かれた。沖縄県が、六月二三日を「慰霊の日」と定めているからである。しかし、沖縄守備軍最高指揮官の自決した日を以て、「慰霊の日」としていることには、釈然としないものを感じている。

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新日本宗教団体連合会1200万票のゆくえ

2016-06-24 03:14:42 | コラムと名言

◎新日本宗教団体連合会1200万票のゆくえ

『週刊ポスト』二〇一六年七月一日号(六月二〇日発売)の記事「宗教戦争に異変!?あの教団が安倍を見捨てた」が、タイトルで「宗教戦争」という言葉を使っている理由は、同記事を最後まで読んでみるとわかる。記事の最後の部分を引用してみよう。

 早くから〔衆参〕同日選を念頭に置いて国会日程を組み、「解散が頭をよぎった」という安倍首相だが、土壇場で菅〔義偉〕氏の忠告に従って解散を断念した。真相は、自民党に票を出す創価学会「800万票」のパワーが首相の解散権を封じ込めたといっていい。
 さらに参院選後は、「憲法9条の理念・精神に反する改正には反対」(広報部)という創価学会と安倍首相の間で、憲法改正をめぐる軋轢が予想される。
 一方で、強すぎる学会票のパワーは、反学会の宗教団体票を野党に向かわせる。
 09年総選挙では、立正佼成会をはじめ創価学会と対立する新宗教が加盟する新日本宗教団体連合会(新宗連。信徒総数約1200万人)がフル稼働して自民党から民主党への政権交代の原動力となり、太田昭宏・公明党代表(当時)はじめ、公明党の小選挙区候補全員を落選に追い込んだ。
 その後は新宗連加盟団体の選挙熱は冷めていったが、公明党が政権復帰して安倍政権に強い影響力を発揮し始めただけに、新宗連1200万票が再び結束を取り戻して反自民に回れば選挙で大波乱をもたらす可能性は否定できない。事実、創価学会に唯一対抗できるパワーを持つといわれる立正佼成会が、前回の参院選では一人だった推薦候補を2人に増やしている(いずれも民進党)。
 宗教団体の巨大な集票力を政治が無視できない状況がある以上、参院選後の与野党の政策に大きな影響力を与えることになるだろう。とりわけ安倍政権の目指す憲法改正には各団体とも強いこだわりがある(各団体の見解については別表【略】のアンケート参照)。
 宗教と政治の関係は、かくも深い。

 ここで、ライターは、今回の参院選の過程で、新宗連1200万票が「大波乱」をもたらす可能性について指摘し、さらには、その影響が参院選後の与野党の政策にも及ぶ可能性を指摘している。あいかわらずの鋭い切り口である。
 私は、これらの「可能性」に加えて、今回の参院選の過程、あるいは参院選後において、現政権を支えている創価学会の内部でも、「大波乱」が生じうる可能性について指摘しておきたい。
 というのは、昨日のコラムでも少し触れたように、「日本会議」や神道政治連盟に傾斜する安倍首相の政治姿勢(宗教政策)は、創価学会という「仏教系」の宗教団体の会員にとって、あるいは、過去に創価教育学会が、国家権力によって壊滅的な弾圧を受けたことを忘れていない会員にとって、深刻な危機意識をもたらすものと考えるからである。【この話は、まだ続きますが、とりあえず明日は、話題を変えます】

*このブログの人気記事 2016・6・24

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生長の家、安倍晋三首相の政治姿勢を批判

2016-06-23 03:34:14 | コラムと名言

◎生長の家、安倍晋三首相の政治姿勢を批判

 一昨日、昨日に続いて、「日本会議」という組織が、なぜ、ここへ来て、急に注目を浴びるようになったのかについて、考えてみたい。
『週刊朝日』の二〇一六年六月二四日号(六月一四日発売)を買ったのは、表紙に大きく、「日本会議と安倍首相」という文字があったからである。しかし、特集記事「日本会議と安倍首相」は、わずか五ページしかなく、しかも、昨日のコラムで指摘した通り、この時期、なぜ、「日本会議」という組織が注目されているのかについては、踏み込んだ分析がなかった。
 その後、『週刊ポスト』の二〇一六年七月一日号(六月二〇日発売)を買った。新聞広告で、「宗教戦争に異変!?あの教団が安倍を見捨てた」という記事が載っていることを知ったからである。記事は、四ページだったが、『週刊朝日』の五ページの記事より、よほど内容が充実していた。少なくとも、「日本会議」という組織が、注目を浴びるようになった理由を考えていた私にとっては、『週刊ポスト』のほうが、『週刊朝日』よりも、ずっと有益であった。
 ともかく、記事を引用してみよう。

 参院選が事実上スタートした6月9日、宗教法人・生長の家がウェブサイトに掲載した声明が永田町に衝撃を与えた。
 安倍政権の原発再稼働や安保法制による憲法解釈変更を批判し、
〈来る7月の参議院選挙を目前に控え、当教団は、安倍晋三首相の政治姿勢に対して明確な「反対」の意思を表明するために、「与党とその候補者を支持しない」ことを6月8日、本部の方針として決定し、全国の会員・信徒に周知することにしました〉
 そう「反安倍」を宣言したのである。
 生長の家といえば「明治憲法復元論」を唱えた初代総裁・谷口雅春氏が生長の家政治連合を立ち上げ、自民党右派の一翼を担ってきたことで知られる。現在も、憲法改正や靖国神社参拝など安倍首相の政治路線を強く支持する保守系民間団体「日本会議」の創立メンバーには生長の家出身者が多く、同会議の中核組織と見られていた。
 それだけに、参院選真っ最中の自民党内には動揺が隠せない。【中略】
 一体、何が起きているのか。
 日本会議と安倍政権との関係を掘り下げて反響を呼んでいる『日本会議の研究』(扶桑社刊)の著者、菅野完【たもつ】氏はこう見る。
「日本会議は生長の家の元信者を中心に運営されてきたが、教団は元信者たちの愛国運動を時代錯誤だと受け止め、元信者に対する批判として非難声明を出したと見るべきでしょう。一方で教団関係者や信者らの情報によれば、教団のなかには今回の参院選で、野党統一候補に投票するよう信者に呼びかける動きがある」【中略】
 国政選挙で巨大な票を動かすのが宗教団体だ。
 いずれも公に政党支持を表明してはいないが、自民党の2大宗教基盤とされるのが、全国約8万社の神社を統括する神社本庁と伝統仏教59宗派が加盟する全日本仏教会(全日仏)であり、「神道政治運盟国会議員懇談会」会長を務める安倍首相はとくに神社本庁との結びつきが強い。
 宗教評論家の清水雅人氏が語る。
「神社本庁系の政治団体である神道政治連盟の主張は靖国神社公式参拝、自主憲法制定、国旗掲揚と国歌斉唱など安倍政権の政策と一致している。日本会議の役員にも神社本庁など神道系の宮司が役員に就いており、日本会議と神社本庁などが一体となって安倍政治を支えている。
 政界の慣例では、総理になると議員連盟のトップの役職を降リるものだが、安倍首相が総理就任後、神政連〔神道政治連盟〕国会議員懇談会の副会長から会長になったことを見ても、いかに神道系団体を重視しているかがわかる」
 日本会議や神道系団体に対する最高の選挙アピールになったのが、伊勢志摩サミットだった。
 安倍首相はオバマ大統領ら各国首脳と伊勢神宮を訪問した際、鷹司尚武〈タカツカサ・ナオタケ〉・大宮司に迎えられて一般の参拝者が入れない「御垣内〈ミカキウチ〉」まで進んだ。ちなみに、鷹司大宮司は日本会議の顧問でもある。
「総理が伊勢志摩を選んだのは、皇室の祖霊を祀る伊勢神宮に各国首脳を案内することに主眼があった。安倍支持層への強いアピールになった」(自民党幹部)
 しかし、この安倍首相の神道への傾斜が仏教団体との軋礫〈アツレキ〉を生んでいる。【中略】
「安倍首相は一般の自民党議員より神道系宗教団体との関わりが強い。そのため、仏教系など他の教団が自民党支援に複雑な意識を強めている」(清水氏)
 仏教票と神道票は靖国参拝問題で正反対の対応を求めており、自民党の候補たちはその矛盾を抱えながら双方から票を得るという〝曲芸〟を演じている。【後略】

 記事は無署名だが、そうとう力量のあるライターが執筆していると思われる。
 ライターは、「宗教戦争に異変」というタイトルの通り、今回の「日本会議」をめぐる一連の動きを、「宗教戦争」として捉えている。一連の動きとは、すなわち、『日本会議の研究』の発刊(四月三〇日)、「日本会議事務総長 椛島有三」名義、扶桑社あての出版停止の申し入れ(四月二八日)、生長の家による声明「今夏の参議院選挙に対する生長の家の方針」(六月九日)などを指す。
 また、ライターは、この「宗教戦争」という捉え方を、「日本会議」という組織における紛争に限定していない。安倍首相の政治姿勢(宗教政策)をめぐって、宗教界に、「政治と宗教」という大きな問題が提起され、有力宗教各派も、それに対応せざるをえなくなっている。こうした状況を、「宗教戦争」として捉えているのである。
 なぜその問題提起が、この時期だったのか、ということについて、ライターはハッキリと指摘しているわけではないが、七月の参議院選挙を念頭においた動きとして、捉えていることが、文脈から読みとれる。安倍首相の政治姿勢を問い、その根底にある宗教問題の存在を強調するのは、たしかに、選挙前のこの時期がふさわしい(衆参同時選挙という予想も、一時はなされていた)。そのことは、『日本会議の研究』の企画・刊行についても、もちろん指摘できるし、それに続いた類書の企画・刊行についても指摘できるはずである。
 さて、生長の家は、戦前に大弾圧を受けた大本教(「皇道大本」の俗称)の流れを汲む新興宗教である。そして、大本教も生長の家も、神道系の宗教であることに注意したい。
 神道系の宗教である生長の家が、「日本会議」や神道政治連盟に傾斜する安倍首相の政治姿勢(宗教政策)に異を唱えたことが持つ意味は大きい。なぜなら、それは、仏教団体(創価学会含む)に対する、強いメッセージになるからである。「なぜ、あなた方、仏教団体は、各国首脳を伊勢神宮に参拝させた安倍首相に、何らの抗議もしないのか」。【この話、さらに続きます。なお、黒木勇治伍長の「日誌」、六月二三日以降分の紹介は、数日後に延ばします】

*このブログの人気記事 2016・6・23

 

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『日本会議の研究』をめぐる「騒動」

2016-06-22 04:17:57 | コラムと名言

◎『日本会議の研究』をめぐる「騒動」

 昨日の続きである。なぜ、「日本会議」という組織が、ここへ来て、急に注目を浴びるようになったのだろうか。
 このことに関して、『週刊朝日』二〇一六年六月二四日号(六月一四日発売)の特集記事「日本会議と安倍首相」は、次のように解説している。

 この組織が今、大きな注目を集めるようになったきつかけは、著述家の菅野完【たもつ】氏が5月に出版した『日本会議の研究』(扶桑社新書)をめぐる騒動だ。
 当の日本会議側が同書の発売直後、版元の扶桑社社長に対し、内容に事実誤認があるなどとして出版停止を申し入れたことが発覚。初版8千部に過ぎなかった同書の存在がクローズアップされたのである。
 この新書は増刷を重ね、現在4刷12万6千部のベストセラーになっているという。扶桑社の担当者も「予想以上の売れ行き」と驚きを隠さない。
 組織のルーツは右派の学生運動
 都内の大手書店の新書ランキングでは軒並み上位。どの書店でも関連本とともに、目立つ位置に大量に平積みされていた。
「発売してからとにかく売れ方が異常。在庫が瞬く間になくなって、『いつ入るんだ』と問い合わせが相当数来た。そもそも新書は政治関連がいちばん売れるジャンルですが、それにしても異常な売れ方をしてますね」(都内大手書店担当者)
 今後、『日本会議の全貌』(俵義文著、花伝社)、『「日本会議」の正体』(青木理著、平凡社新書)など関連本が続々と発売される予定だ。
 扶桑社に経緯を尋ねてみたが、「現在係争中の案件にも触れるためコメントは控えさせていただきます」(担当者)とのこと。
 日本会議にもどんな抗議をしたのか問い合わせたが、同会広報部は書面で以下のように回答してきた。
「長年扶桑社の出版事業の普及拡大に協力関係のある本会の立場で扶桑社社長に申し入れたものです。申し入れ書の内容がインターネットを通じて即時公開されたことは極めて遺憾」
「申し入れ内容の詳細、および具体的箇所の開示については現時点では差し控えます」
 同書の中で日本会議の中心人物として名前が挙げられているのが、椛島有三〈カバシマ・ユウゾウ〉事務総長だ。日本会議の事実上の事務局として機能している団体「日本青年協議会」の会長でもある。
 同書によれば、椛島氏は宗教団体「生長の家」の出身者。生長の家は創始者の谷口雅春〈タニグチ・マサハル〉氏の国家主義的な思想により、83年に路線転換するまで政界に強い影響を及ぼしていた。
 椛島氏は長椅大学在学中に左派学生と戦った右派の学生運動で頭角を現した人物という。その後、他の生長の家出身者とともに70年に「日本青年協議会」を結成。集会や地方議会での決議を通して主張を浸透させていく現在の活動手法を確立し、現在も「実動部隊」として、日本会議を主導する役割を果たしているという。
 安倍首相の〝お友達〟の筆頭格で、同国会議員懇談会の幹事長を務める衛藤晟一首相補佐官も生長の家出身で、椛島氏と同じ右派の学生運動の闘士だった。【以下略】

 この記事によれば、『日本会議の研究』(扶桑社新書)をめぐる「騒動」がキッカケとなって、「日本会議」という組織が注目を浴びるようになったのだという。
 そうかもしれない。しかし、この本のあとを追うように、上杉聰氏の『日本会議とは何か』(合同ブックレット)や俵義文氏の『日本会議の全貌』(花伝社)という本が出ていることを忘れてはならない。これらの本は、当然、『日本会議の研究』の発刊前に、あるいは同書をめぐって「騒動」が起きる前に、企画され、準備されてきたはずである。ということであれば、この時期、「日本会議」という組織が注目されたことに関しては、何らかの理由や背景があって、それゆえに、『日本会議の研究』、『日本会議とは何か』、『日本会議の全貌』といった本が、ほぼ同時期に企画され、若干の時間差をもって刊行された、と見るべきなのである。
 しかし、『週刊朝日』六月二四日号の特集記事は、そうした「理由や背景」にまで踏み込んでいない印象があった。【この話、続く】

*このブログの人気記事 2016・6・22(7位にかなり珍しいものが入っています)

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なぜ、「日本会議」が注目されているのか

2016-06-21 07:09:52 | コラムと名言

◎なぜ、「日本会議」が注目されているのか

 ここのところ、「日本会議」という組織が注目を浴びている。
 キッカケは、おそらく、菅野完〈スガノ・タモツ〉氏の著書『日本会議の研究』(扶桑社新書)であろう。この本は、本年四月三〇日に刊行されたが、現在、アマゾンのランキングで、総合16位に位置している。
 続いて、五月一三日には、上杉聰氏の『日本会議とは何か――「憲法改正」に突き進むカルト集団』(合同ブックレット)という本が出た。こちらは、アマゾンのランキングで、総合142位に付けている。
 さらに、六月一七日には、俵義文〈タワラ・ヨシフミ〉氏の『日本会議の全貌――知られざる巨大組織の実態』(花伝社)という本が出た。こちらは、アマゾンのランキングで、総合425位である。
 いずれも、かなり売れている。特に、菅野完氏の本が、よく売れている。
 それだけではない。まだ、発売されていない本までが、「売り上げ」を伸ばしている。
『週刊金曜日』成澤宗男〈ナルサワ・ムネオ〉編著『日本会議と神社本庁』(金曜日)は、六月二八日が発売予定日だが、すでに、アマゾンのランキングで、総合839位に付けている。
 青木理〈オサム〉著『「日本会議」の正体』(平凡社新書)は、七月一一日が発売予定日だが、すでに、アマゾンのランキングで、総合1201位。
 山崎雅弘著『日本会議――戦前回帰への情念』(集英社新書)は、七月一五日が発売予定日だが、すでに、アマゾンのランキングで、総合3029位。
 まだ、発売されていない本にランキングが付いているということは、かなりの予約注文が入っているということだろう(上記のランキングは、いずれも、本日午前7時前後)。
 これは、驚くべきことである。このように、急に、「日本会議」が注目されてきた背景を、いったい、どのように捉えればよいのだろうか。【この話、続く】

*このブログの人気記事 2016・6・21

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