礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

大阪発、直江津経由、上野行きの602号列車

2019-01-15 00:02:15 | コラムと名言

◎大阪発、直江津経由、上野行きの602号列車

 だいぶ前になるが、二〇一二年一二月二七日に、「昭和19年の東南海地震によって生じた鉄道の混乱」というコラムを書いたことがある。そこでは、社会学者にして歌人の高田保馬が、「昭和東南海地震」のアオリを受けて、京都から直江津まわりで上野まで移動したという話を紹介した。
 まず、そのコラムを、そのまま引用する。

◎昭和19年の東南海地震によって生じた鉄道の混乱
 昨日に続き、高田保馬『社会歌雑記』(甲文社、一九四七)から。
 昭和一九年(一九四四)一二月七日、「昭和東南海地震」が発生した(この呼称は、当時のものではない)。この地震によって、東海道線は不通になった。そのアオリを受けた高田保馬は、京都から直江津まわりで、東京に往復したという。

(41) をやみなく汽笛鳴り去り鳴り来る一夜をいねぬ越の直江津(昭和十九年)
 これは十二月十日という日付をもつてゐる。愛知静岡の地震があつて東海道線が不通になつてから北陸線と中央線だけが関東と関西とをつなぐ通路であつた。私共の立場では中央線の利用が出来ないので、北陸線経由で東京に往復した。年末に近づくにつれて、列車の混雑は烈しくなつた。月に一二回の東京行もなかなかのことではない。十二月十日の朝に直江津廻り上野行といふ列車にのりこんではみたが、腰かける席などあるわけはない。新聞紙をしいて小さく座つてゐた。大阪で席をとつた一行四名の客の如きは、佳肴珍味を人見よがしに並べてつつき合つてゐる。列車の速力は遅い。直江津に着くまで十二時間、予期した通りの立ち通しである。此上はと思つて直江津で下車して駅前の旅館に一泊した。車内で連〈ツレ〉が出来て、二人は四畳半の一室をふりあてられた。野宿せずに済むだけでもありがたいことである。丁度初雪の晩で町はとけかかつた雪に蔽はれてゐた。同室の客は岐阜の山中から来たといつて、かち栗を火鉢であぶつて私にもすすめた。床に入ては見たが中々にねつかれぬ。機関車を中心として汽笛があちらに鳴つたり、こちらに鳴つたりする。たうとう、睡らずに夜を明してしまつた。直江津の町にとまることなど、これからまづないと思ふが、縁あつて一泊したその晩は、ただ汽笛の連続であつた。翌日、朝五時頃直江津をたつて信越線経由、上野に出た。途中所見。「漸くに下りとなりて雪はだら長野平の冬浅みかも。」「浅間山雪のおもてにかげ動きまひるの空をわたる雲あり。」
 短い文章だが、よく当時の雰囲気を再現している。
 短歌については、どうこう言えるだけの鑑賞力を持ち合わせていないが、冒頭の一首、文末の二首、ともに良い短歌だと感ずる。特に最後の一首に感銘を覚えた。
 二首目にある「雪はだら」は、雪がまだらに積もっている様をあらわす言葉か。

今日の名言 2012・12・27

◎直江津に着くまで十二時間、予期した通りの立ち通しである

 高田保馬『社会歌雑記』(甲文社、1947)118ページより。上記コラム参照。当時の時刻表を確認したわけではないが、この列車は、大阪発の直江津まわり上野行きと思われる。筆者は、京都からこの列車に乗り込み(たぶん)、12時間立ち通し、ついに直江津で途中下車したという。直江津駅前で同宿した岐阜人は、米原からこの列車に乗り込んだものと推察される。
        ――――
 以上が、その日のコラムである。このときは、「当時の時刻表」を参照することができなかったが、昨年末、神田神保町の古書展で、昭和十九年十二月の『時刻表』(東亜交通公社)を入手した。おそらくこれは、復刻版なのだろう。
 それを見ると、二〇ページおよび六〇ページに、大阪発、米原・直江津経由、上野行きという列車が載っている。高田保馬が乗ったのは、たぶん、この列車であろう。この602号列車は、大阪駅6:50始発、京都駅7:34着、同駅7:39発、米原駅9:30着。ここから北陸線に入る。同駅を9:36発、金沢駅14:58着、同駅15:06発、直江津駅19:42発。
 このまま、この列車に乗っていれば、翌朝5:47に上野駅に着くわけだが、高田は、すでに十二時間以上、立ち通しである。そこで、直江津駅で下車し、直江津駅前に宿をとった。
 翌朝、直江津から乗ったであろう列車も、この時刻表の一七〇ページで確認できる。高田が乗ったのは、たぶん、信越本線の318号列車である。直江津駅5:14発、高崎駅12:05着、同駅12:20発、終点の上野駅14:55着。
 それにしても、時刻表というものは重宝なものである。これを座右に置くだけで、ひとむかし前の記述が、にわかにリアリティを増す。

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