原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

切なくも美しかった “はつと惣兵衛の恋物語”

2016年03月28日 | 恋愛・男女関係
 私はNHKの新しい「連ドラ」が始まる都度、 「原左都子エッセイ集」バックナンバーに於いて当該ドラマを視聴した感想及び私見を公開して来ている。


 昨年(2015年)秋から放映中の 「あさが来た」 も、もちろんずっと昼の時間帯の再放送を出来得る限り欠かさず見続けている。

 それでも何故、今週最終回を迎える連ドラ「あさが来た」に関する論評エッセイを綴らなかったのかに関して言うと、それはおそらく我が“天邪鬼”気質故と自己分析する。
 聞くところによれば、この朝ドラ、平成に入って以降最高の視聴率を挙げ続けているとの報道だ。
 そんな人気番組にわざわざ原左都子が講評を述べずとて、世にその反応がわんさか押し寄せていることであろう。


 そんな天邪鬼の私も、先週3月25日(金)に放映された 「はつと惣兵衛の最後の別れの場面」の描写に心底“ほだされて”しまったのだ……

 3月25日の「あさが来た」のシーンは、まさに“はつと惣兵衛”夫婦の死別に標的を絞り、二人の生涯に及ぶ夫婦愛の姿を作家氏が全力でシナリオを書き上げたものと理解した。
 その場面は壮絶だった。 
 和歌山のみかん農家の世帯主 惣兵衛のひっそりとした「死」を描いただけの場面であるにもかかわらず、見事なまでに半年続いたドラマ内での“はつと惣兵衛の恋物語”の情感を描き切っていた。

 NHK連ドラ内で出演者の死を描く場面は多々あれど、この場面程、原左都子が泣けた事は今まで一度足りともない。 それ程に秀逸な「恋物語の終焉」だった。

 その後私はスポーツジムへトレーニングに出かけたのだが、バイクマシーンでのトレーニング中にも“はつと惣兵衛の別れの場面”が脳裏から離れず、泣きながらバイクの車輪を回し続けたものだ。


 ここで、NHK連ドラ「あさが来た」を見ておられない方々に、少しだけ “はつと惣兵衛”の場面をウィキペディア情報を元に、テレビで視聴した我が記憶を交え紹介しよう。

 主人公 あさ と はつ は資産力を誇る商家今井家に生まれた姉妹だが、幼き頃よりそれぞれに婚家とお相手が決められていた。 (そのお相手が交錯しつつも)両人共成長した後、祝言を挙げることと相成る。 
 しかし はつ の婚姻相手である眉山惣兵衛は冷淡で、義母となる菊からは威圧され、はつが気丈に振る舞うのとは裏腹に結婚への不安が増していく。
 婚姻後も、相変わらず笑顔がなく表情が乏しい惣兵衛に対し更なる不安を募らせるはつだが、その後、はつが井戸に転落するとの事件が起こり、惣兵衛がそれを助ける。 (この事件をきっかけに、少しだけはつの惣兵衛に対する意識が変化したようだ。)
 はつが嫁いた山王寺家は経営破綻の道程を歩み、一家は夜逃げをやむなくされる。
 その後和歌山の土地を今井の父から受け継いだはつだが、その和歌山を自ら訪れた惣兵衛はその地で“みかん農家”を開業する意向をはつに告げる。
 (時がずっと経過して、先だって3月25日放映場面にて……) 
 和歌山では惣兵衛が体調の急変により病の床に就く。 自身の死期を悟った惣兵衛は、はつと次男養之助、危篤を聞き駆け付けた長男藍之助に、自身の人生は家族に囲まれて幸せだったと言い遺し、家族に見守られながら静かに息を引き取る。 


 史実によれば、あさの姉である はつ は20代半ば頃に和歌山で死を遂げている。

 私の知る限りでは、 はつ は今井家(本名不明)の妾の子であったらしい。
 正妻の子として生まれた妹の あさ が立派な家柄に嫁ぐのは当たり前。 妾の子の はつ は、元々二の次の家へ嫁がされる運命下にあったようだ。
 史実の現実によると、 あさの姉のはつは嫁いだ先が実際経営破綻の道程を歩み和歌山のみかん農家と成り下がり、その和歌山にて20代後半との若さで死に至っている様子だ…

 実に辛く怖い現実であるが、当時は未だ「正妻」と「妾」の子とでは、特に女子の場合その扱いが大きく左右したであろう事実に胸が痛む思いだ…


 さて、そんな現実を番組冒頭頃より把握していた私は、一体全体 NHKのシナリオが如何にそれを扱うのかを興味深く注視いていた。

 そうしたところ、NHKは 長女 はつ の扱いを大幅に変更した模様だ。
 それもそのはず、番組当初より、姉のはつの方がおてんば娘の妹あさよりずっと存在感が大きかったのではあるまいか?
 二人が成長した暁にも、女優 宮崎あおい氏の演技力に助けられこの番組は成り立ったとも表現出来よう。
 更には、はつの夫惣兵衛役の柄本佑氏の名演技の程も実に素晴らしかった!


 最後に、原左都子の私論でまとめよう。

 あさ と はつ、 一体どちらが幸せだっただろうか??

 もちろん、番組では主人公あさの幸せを第一義として描こうとしていることは歴然だ。 
 (私事だが、一昨年膵臓癌で急死を遂げた我が義理姉も、あさが立ち上げた当該女子大学家政学部を卒業しているのだが)、確かにあさが打ち立てた日本で始めての女子大学創立との野望の程も素晴らしかった事には間違いないであろう。

 ただ、私は はつの夫 惣兵衛が、ドラマ内で死に際に発した言葉が忘れられない。
 「自分は山王寺家で顧客にヘラヘラする人生を歩まされるよりも、和歌山に移りみかん農家の主となって家族と共に頑張った事の方がずっと自分を誇れる人生を歩めたと思う。 はつ、本当にありがとう…」

 惣兵衛が死に至った時代から世紀の時代が過ぎ去ったにもかかわらず…
 今尚、鬱陶しくも「世襲」に頼る人民が我が国の上層部に蔓延り続けている現実にゲンナリしつつ…

 それでもこの私も はつ の夫氏惣兵衛のごとく、たとえ一代で終焉を迎えようが自分が欲する人生を歩み続けたいものだ。