原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

「眠れる森の左都子」

2010年08月22日 | 芸術
 (写真は、我が16歳の娘の自画像 「バレエ“デフィレ”の舞台」 )


 梅雨明けの7月上旬以降何年かぶりに連日厳しい猛暑が続く今年の夏は、誰しも朝は目覚めから不眠症気味の体が必ずやだるく感じられることであろう。
 今日こそは少しは気温が下がってくれることに期待して何とか重い体を引きずりつつ起きてみても、世の中が涼しいミラクル世界に変貌しているはずもなく、老いも若きも来る日も来る日も猛暑との闘いを強いられる。
 挙句の果てには熱中症で救急車で搬送される人が後を絶たない、灼熱地獄の今年の日本の夏模様である。

 こんな猛暑の夏には涼しい森林の木陰で「眠れる森の美女」にでも変身して、100年とは言わずともひと夏「冬眠」ならぬ「夏眠」してみたくもなるよねえ… 


 さて昨日(8月21日)、上記の写真のごとく幼い頃より中2までクラシックバレエを嗜んだ娘を引き連れて、東京日比谷の日生劇場へ松山バレエ団による「眠れる森の美女」を観賞に出かけた。 
 (ここで手前味噌ながら上記の娘の絵の解説をさせていただくことにしよう。 我が娘が小学生時代に出演した東京芝メルパルクホールに於けるバレエの舞台オープニング「デフィレ」の場面のプロ撮影写真を元に、美大予備校課題として平面画に描いたものである。)

 今回の松山バレエ団による「眠れる森の美女」は全幕ではなく“ハイライト”であった。 これには理由がある。 そもそもこの日生劇場のバレエ公演は、日生劇場が毎年子どもの夏休み期間中に開催している「国際ファミリーフェスティヴァル」の一環として企画した、あくまでも“ファミリー向け”の舞台なのである。 対象観客層を(推奨)4歳以上に設定し、ファミリーで楽しめるようにプログラムが組まれているのが特徴である。
 それ故に、小さい子どもや素人にも分かりやすく古典バレエを再構成し、2時間の短時間の“ハイライト”としてまとめ上げられているのだ。  しかも舞台本番に先立ち主要登場人物と解説役のダンサーが登場し、親切にも物語のストーリーやバレエの“マイム”の意味などを簡単に説明してくれる場面も設定されている、とのごとくサービス満点である。
 クラシックバレエの舞台とは本来ならば「全幕」を通して観賞してこそ、その全体像の趣を堪能できるものではあろう。 ただ、幼少の子ども達が長時間客席に座って舞台を観賞することの苦痛を考慮した場合、このような“ハイライト”は粋な計らいとも言える。

 バレエ観賞趣味の歴史が長い我が一家が何故に今回“ファミリー向け”バレエ公演を鑑賞することに相成ったのかをここで説明しよう。
 やはり我が家も子どもが幼少の頃は周囲の迷惑を考慮し一般向けの舞台観賞を避け、この種の“ファミリー対象”ものを観賞していたのだ。 
 実は我が子が3歳の頃、私個人の趣味で果敢にも一般向けの“マリンバ演奏会”に連れて行ったことがある。その演奏会では3歳以上の入場は「可」であったものの、いつもは静かな我が子が観客席でお喋りをし始めてしまったのだ。案の定周囲の観客に迷惑を掛けてしまい前方席の観客から睨み付けられた私は、即座に劇場外へ出ることになったごとくの失敗を経験している。
 その種の苦い経験のある私は、子どもが幼少の頃には子供向けに設定された舞台を観賞させるべきと考えた。 そうしたところ、この日生劇場の夏休みのフェスティバルの存在を知り、子どもが小学生低学年頃までほぼ毎年このフェスティバルのバレエやオーケストラやミュージカルを観賞してきたという訳である。
 そうしたいきさつがあり今尚日生劇場から毎年子ども宛にダイレクトメールが届き、先行予約で“いい席”をゲットできるため、今回その特権を有効利用したという訳である。
 しかも幼少の子どもを持つファミリーが観客対象のため、(近隣の席で子どもが騒いだり泣いたりする事態を耐えられるならば)“激安”料金で、例えばの話、日本に名立たる「松山バレエ団」のバレエが楽しめるのもこの“日生劇場フェステヴァル”の特徴でもあろう。


 松山バレエ団のバレエ公演をもう既に何本も鑑賞している我々親子の感想としては、いつもの舞台に比して全体的にまとまりが欠けた印象もあるが、それは致し方ないことであると捉える。(何分、観客は幼児やそのファミリーが大勢であるし、観覧料が低額なのだから…)
 
 それにしても素晴らしいのは、この子どもと素人相手の舞台に森下洋子氏と清水哲太郎氏が登場されることである。
 今回「眠れる森の美女」の主役であるオーロラ姫を演じられた森下洋子氏であるが、もう既に62歳の高齢であるにもかかわらず、日々ダンサーとしての練習を積み重ね今尚舞台に立たれる意欲とは凄まじいものがある。
 さすがに全舞台におけるオーロラ姫の演技は避けられて、後進の女性ダンサーに道を委ねつつ最終場面の見せ所での森下洋子氏の登場ではあるのだが、62歳にしてこの最後の場面に全力を尽くす森下氏の威厳と精神力は観客席にも十二分に伝わる思いであった。


 今年の夏は猛暑の連日だからと言って、本気で「眠れる森の左都子」に成り下がって「夏眠」することを志向する原左都子では決してないのだ。 
 世に活躍する年配の女性達の現役バリバリの姿を見聞するにつけ、その内面に秘めた大いなる理想に照らし我が人生を充実させたい思いを増幅させてもらえるのである。
 おそらく睡眠時間を削ってでもクラシックバレエに人生を賭けていらっしゃるであろう森下洋子氏を心より尊敬申し上げると共に、今後の更なるご活躍を娘と共に楽しみにさせたいただきたい思いである。 
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