原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

宮内庁長官に「辞任しろ」とは言語道断!

2009年12月16日 | 時事論評
 12月14日に来日した中国国家副主席と天皇陛下との会見が、鳩山首相の強い要望により慣例に反して決定され、昨日(12月15日)実施された。


 この会見の問題点は、天皇陛下の外国の要人との会見は1ヶ月前までに打診する、という慣例の“1ヶ月ルール”を新政権が破ったことにある。

 羽毛田宮内庁長官は新政権のルール違反に対し、「相手国の大小や政治的重要性によって例外を認めることは、天皇の中立・公平性に疑問を招き、天皇の政治利用につながりかねない」との懸念を表明している。

 この宮内庁長官の発言に対し、民主党の小沢一郎幹事長は「天皇陛下の行為は内閣の助言と承認で行われるのが日本国憲法の理念だ」と反論し、「内閣の一部局の一役人が内閣の方針についてどうだこうだ言うのは、憲法の理念、民主主義を理解していない。反対ならば辞表を提出した後に言うべきだ。」と批判した。

 上記小沢氏の批判を受け、宮内庁長官は「憲法のひとつの精神として、陛下は政治的に中立でなくてはならない。そのことに心を砕くのも私の役回りだ」として“1ヶ月ルール”での対応の重要性を指摘した上で、「辞めるつもりはない」と辞任を否定している。
 
 今回の「天皇特例会見」に対しては、鳩山首相や小沢氏が「まったく問題ない」と強気を貫き「天皇の政治利用」を一貫して否定しているのに対して、野党はもちろんのこと政権内からも反発や異論、批判が相次いでいる。
 自民党からは、「首相が国益ではなく、自分たちの利益のためにルールを破った。天皇陛下を政治利用したと断じざるを得ない。」 「憲法の運用の中でも天皇と政治の関係は極めてデリケートなものだ。天皇の国事行為は極めて限定されている。日本の政治のデリケートな部分に対して権力を如何に行使するかという方向感が新政権はめちゃくちゃだ」 「皇室のルールを簡単に変えてはならない」等々の反発が渦巻いている。
 これら批判に対して鳩山首相は「“1ヶ月ルール”を杓子定規に考えるより、本当に大事な方であればお会いになっていただく。判断は間違っていない」と述べ、会見には何ら問題がないとの認識を貫いている。

 政権内からも今回の会見を疑問視する意見が上がっている。「今回だけは例外という対応にした方がいい」「今からでも会見をやめられるのであれば、やめた方がいい。天皇陛下にこういう形で要請したことは、党内でもかなり遺憾の思いがある」…
 一方鳩山首相は、「宮内庁長官が官房長官とのやりとりを記者に発表する事自体が異常だ。役人がすべてを取り仕切ると言う悪しき慣習が残っているのは残念だ」と矛先を宮内庁に向けている。 片や小沢氏は「天皇も今回の会見を望むはずだ」と天皇の意思を与党幹部が代弁し、内閣の行為を正当化するに至っている。

 (以上、ここ数日の朝日新聞記事より抜粋引用)


 それでは、私論に入ろう。

 今回、中国国家副主席と天皇陛下との会見が実施されたこと自体に関しては至って有意義なことと私論は捉えている。 中国国家副主席の習氏は現中国主席の最有力後継者と目されている程の大物であられるらしい。 中国側からも天皇との会見を熱望していたとの報道でもある。 隣国である中国との日中関係を将来展望するにあたって、せっかくの副主席の来日に際して天皇陛下との会見が実現した事は、日中双方にとって大いに意味のあることであろう。

 その一方で、日本国憲法は天皇を“国民の象徴”と定めている。 ポツダム宣言により「人民の意思により決定せられ」た政治形態を規定し、国民主権主義、基本的人権等を理念としている我が国の憲法である限り、天皇は「国政に対する権能を有しない」のである。 
 たとえ政権交代したとは言え、今尚現憲法が国家の最高規範である以上、たとえ新政権であろうと「天皇の権能」に関しての憲法の規定を遵守するべきなのだ。
 (元々“理系”で“お飾り首相”でしかない鳩山氏は、ここでは隅に置かせていただくとしても)小沢氏がおっしゃるところの「天皇も会見を望むはずだ」の”軽はずみ発言”には、法学を多少心得る一国民として呆れるばかりである。 そのような発言をしたいのであれば、我が国が法治国家である以上、新政権で憲法を十分に吟味して憲法改定を行った後にした方が無難なのではなかろうか?? この小沢氏の現職国会議員にしての現憲法を無視した無防備な発言こそが、「天皇の政治利用」に直結していると私も捉える。

 それでは、新政権は今回の会見実現のために如何なる対処をするべきだったのか?
 その答えは“1ヶ月ルール”を守ればよかっただけの話である。
 それが何故に守られなかったのかの報道が一切ないため、私はその辺の真相に関して未だに情報収集できないでいる。
 政権発足後3ヶ月もの期間が経過した今尚、政権幹部が実体の乏しい「国民の皆さんの期待」にばかりすがり続けている割には、未だに政権内部の実行力が伴わないのは何故なのか? 
(普天間問題にしても来年の5月まで先延ばしにしてまで、新政権は参院選対策を優先したいことが見え見えである。  私など対米関係に関して、弱国でしかない日本が米国をそんなに甘く見ていて済むのかとの危機感を、既に抱き始めているのだが…)

 それにしても、今回の宮内庁長官の発言に対する「辞任しろ!」との小沢氏の突拍子もない感情的な反論は、役人を執拗に叩き排除することにより、未だに何の力も持ち得ない新政権を無意味に正当化するがごとく“墓穴を掘った”だけなのではあるまいか? 
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