イスラム国を過激派集団として彼らとの戦いを戦争とは呼ばない。従って宣戦布告もない。戦争に伴う国際協定も存在しない。すべて力による勝敗、敵を壊滅させた時が問題の解決となる。その顕著な事例がブッシュによる「大量破壊兵器」を理由とするイラク攻撃である。サダム・フセインは虐殺されたが、イラクは敗戦協定に調印したわけではない。勝利した国=アメリカによって作られた政権が権力を握る。国民がその政権を支持するとは限らないし、紛争は複雑に長期化する。イスラム国はまさにその「申し子」ではないか。アフガニスタンもシリアもリビアも同様な経過を辿っている。この紛争を主導しているのがアメリカであり、かっての植民地支配者英仏たちである。中東の不幸は豊富な石油資源の存在であった。
一月下旬アインアルアラブ(クルド名コバニ)をクルド兵が占領、イスラム国は撤退する。このシリア北部の都市は2012年にシリア政府軍が撤退し、クルド人の自治組織が事実上支配・統治していた。この街をイスラム国が一時占拠していたのである。それは戦略的な要衝ートルコとの国境の街であり、海外からのイスラム国志願兵のシリア入国路でもあった。アメリカはこの拠点攻撃のため最大の空爆を実施する。連日6回程度の、1月25日には17回の空爆を行う。イラクのクルド兵も、トルコの許可を得て救援に駆けつける。その結果としてのクルド兵の勝利であった。
アインアルアラブ(クルド名コバニ)はクルド人が多く住む地域であり、市内には約45,000人、周辺を含めると40万人の人口を擁していた。昨年9月以降の戦闘により双方の兵士と市民の死亡1600人(AP通信)街は廃墟と化し、住民が復帰できる状況ではない。戦争とは呼ばないが地獄絵が展開されたのである。
このコバニの戦闘は新たな課題も突きつけた。クルド民族をどう位置付けるかという問題である。クルド人口2100万人 トルコ東部 850万人(トルコ人口の14%) イラン北西部 600万人(イラン人口の9%) イラク北部 300万人(イラク人口の15%)その他シリア外。彼らは内部で多くの派閥を抱えていたが、対イスラム国戦では同一歩調をとってきた。トルコ労働者党(PKK)はアメリカからテロ集団に指定されているが、今回は敵の敵として利用する。しかしトルコは認めない。
イスラム国に対するアメリカ・有志国連合の空爆は既に2000回に及ぶと言われる。無人偵察機はたった一台の自動車をも見逃さない。有志国連合は一名の死者もださない。殺されるのはイスラム国兵であり、そこに住むアラブの市民である。いつ攻撃するのか、いつ退却するのか、いつ殺されるのか、イスラム国兵には寸時の暇もない。酒も厳しく禁じられている。そんな所へなぜ世界から2万人もの若者が参加するのか、深刻に考えて見たい。