南の海のワナビ

小説家を目指す「南野海」の野望ははたして達成されるのか?

天才詩人か地雷か? 中村九朗の「樹海人魚」

2007-05-29 23:59:05 | 読書
 ラノベ界の天才詩人とも、超絶地雷作家とも言われる、中村九朗先生の作品に初チャレンジしてみました。
 ガガガの創刊ラインナップにある「樹海人魚」。
 読む前から、かなりドキドキです。

 裏表紙のあおり文句を引用してみましょう。

強大な力で街を破壊し、ひとびとを殺し、そのうえ何度死んでもよみがえる恐怖の存在――”人魚”。人間はその怪物を撃退し、飼い慣らし、”歌い手”と呼んで同類退治の道具としていた。歌い手を操り人魚を狩る”指揮者”の森実ミツオは何をやってもさえないグズの少年。しかし、記憶をなくした歌い手・真名川霙との出会いが、ミツオを変える。逆転重力、遅延時空に過不眠死。絶対零度のツンデレ・バービー、罵倒系お姉・由希にみだらなラピット――奇想につぐ奇想と流麗な人魚たちが物語を加速する! 超絶詩的伝記バトル&ラブ。


 だそうです。
 なんかわかりませんが、おもしろそうです。(詩的伝記バトルってなんですか? って気もしますが)

 ただ気になるのは(というより楽しみなのは)、このひとの文章が詩的すぎて意味不明という評判がネット界を駆けめぐっていることです。

 「あれ? なんかけっこう普通の文章じゃない?」
 過剰な期待のせいか、読み始めてそう思ってしまいました(っていうか、南野の感性が変なのかな?)。
 文章が変という意味では、「天帝」の古野まほろ先生の方が上だと思いました。
 むしろ、個性的というか、奇想天外なのは設定の方だと思います。
 まったく頭のどこからこんな変な世界観を作り出したんだ? と思えるほど壊れた設定。やはりこれは才能なんでしょう。南野に足りないのは、案外このへんなのかもしれません。

 敵は存在の記憶をそのものまで消してしまう死花花。
 相手の睡眠を奪って、ゆっくり殺していく睡蓮。
 エリア内の時間の流れを変えるサークル・チェンジ。

 逆に味方の能力は、逆転重力(天井を歩き、空に向かって落ちる)霙。
 まわりを凍りつかせるバービーこと菜々。
 超スピードのラビットなど。

 敵は化け物だけど、味方はなぜか全員美少女。主人公の上官と姉もとうぜん美女。
 
 こんな状況で死闘はくり広げられます。

 そしてクライマックスを迎え、意外な事実が……。
 なんと、じつはこれミステリーだった?

 さすが富士ミスデビューの九朗先生だぜ。予想外でした。

 あれ? そういえば、最後の謎解き部分だけ見れば、まほろ先生の「天帝のはしたなき果実」と大差ない気がするぞ。いや、あくまでも雰囲気の話ですが。

 かなり変わった作品だとは思いますが、けっこう普通におもしろいですよ。
 ここまで読んで、気になった方はぜひチャレンジを。

樹海人魚

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「マージナル」はちょっとやばい

2007-05-29 00:06:10 | 読書
 ガガガってなんでもありかい?

 これが今回のガガガ大賞、「マージナル」(神崎紫電・著)を読んだとき最初に浮かんだ感想です。
 まあ、「武林クロスロード」が同時に発売されてるからよけいそう思います(こっちは別の意味でですけど)。
 それほど「マージナル」はダークです。
 レーベルによってはカテゴリーエラーということで、一次予選ではじかれた可能性があります。

 もちろん、南野にはこういう話に耐性があります。だからべつに読んでいて不快になることもありません。ただ、ラノベである以上、中学生だって読むわけなんですが、だいじょうぶなんでしょうか?

 陰惨な殺人事件の話でありながら、中盤まではそれほどヤバい雰囲気はありません。というか、作者、計算してそうならないようにギャグをちりばめたりしながらストーリーを展開していってるんだと思います。

 マージナルという言葉は、まともな人間と異常な人間の境界線という意味だそうです。主人公は序盤から中盤にかけては、「マージナル」とは言いながら、「こっち」側にいたようなところがあります。
 南野は最後まで、境界線を踏みながらも、こっちサイドにいるんだと思ってました。そうでないと、読者がついて行けないからです。

 ところが最終的にはもどってくるとはいえ、主人公はクライマックスの場面で向こう側に足を踏み入れます。これはラノベ的にはありなのか?

 そもそも、愛する女を殺すことを妄想することでしか欲情しない男が主人公というのはありなのか?

 通常、この手のサイコミステリーでは、異常な人間は出てきても、主人公はまともであるのが普通です。
 「羊たちの沈黙」でも主人公はレクター博士ではなく、FBI捜査官のクラリスですし、ライトノベルで言えば、「電波的な彼女」でも異常なのは周りの人間で、主人公はまともです(一巻しか読んでませんが、そうですよね?)。そうでなくては、読者が主人公に感情移入できないからです。

 なぜ、この物語では主人公が一番異常なのか?

 もちろん、読者がとうてい感情移入できない悪党を主人公にするジャンルもあります。ノワールというやつです。「不夜城」、「溝鼠」なんかのことですね。
 そういうやつだと、たいていは主人公は最終的にはろくでもない目に合いますが。
 こういう話は、人生の裏側のドラマを楽しんだり、悪党同士がつぶし合う様を喜んだりする側面があります。
 なんか違う気がするんですよね、こういうのとは。
 そもそも主人公、悪党というより異常者ですし。

 たしかにサイコミステリーの型としては新しいかもしれませんし、それをライトノベルでやったことがなおさら斬新です。
 ただ、これって、一般的なライトノベル読者の中高生はついていけるんでしょうか?

 後味の悪さは最悪で、主人公にまったく共感できませんが、そういう話に耐性があって、変わったサイコミステリーを読んでみたい人はトライしてみては?

マージナル

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