しばらくの間、平安な日々が続きました。
ネズミの野郎は、僕の部屋に入ってこれません。そればかりか、天井裏を走る音も聞こえなくなりました。
きっと、部屋に入れなくなって餌をあされないからどっかにいったんだろう。
そう思ってました。
しかし……。
災害は忘れたころにやってくる。
ネズミ野郎の新たな襲来が始まったのです。
きっかけはある日、部屋の床にネズミの糞のようなものを見つけたことでした。
「なぜ?」
はげしくそう思いました。
だってそうでしょう? 僕はネズミの通路を完璧にふさいだはずなのです。それこそネズミ一匹通れないほどに。
念のため、キッチンシンクの下にある物入れの扉を開けてみました。
そこの奥にある、パイプシャフトに通じるすき間は板でちゃんとふさがってます。壊された形跡はありません。
さらによく調べてみました。
すると、どうやらミニ冷蔵庫とそのまわりの壁をふさいでいた板がすこしはずれていたのです。ガムテープで固定しただけですから、そういうこともあるでしょう。
ただ、疑問が浮かびました。
仮にネズミが、この冷蔵庫のすき間から出入りしたとして、そのあとはどうしたのだろう?
このままでは、台所の下と、部屋を出入りすることはできるかもしれないけど、台所と屋根裏を出入りすることはできません。
つまり、未だ屋根裏と部屋を結ぶ通路はないはずなのです。
それなのに、どうしてネズミ野郎は出てきやがるんだ?
名探偵・南野海はふたたびこの謎に挑まなくてはいけません。
名探偵は思いました。
ひょっとしたら気のせいかもしれない。
だってそうじゃないですか。ありえません。
板はたまたま外れただけなのでしょう。なにせガムテープで軽く留めてあっただけなのですから。
あのネズミの糞に似たものは、きっとなにかべつのものなのです。
なにせ僕はめったに掃除をしないので、ネズミの糞に似た、なにか得体の知れないゴミが転がっていても不思議じゃありません。
夜になると、無理矢理にでもそう信じ込むことで、安眠しようとしました。
でも、無駄でした。
夜中になると、例のがさごそ、がさごそという音で目がさめてしまったのです。
僕はこっそりロフトからはしごで下におります。
そのまま忍び足でキッチンのところまで行きました。
まあ、近づくと静かになるんですが、しばらくそこで待ってました。
すると、また音がしたんです。それもキッチンの壁の奥から。
僕はこのとき、ネズミ野郎の経路がある程度わかりました。
やつはキッチンの換気扇のダクトまわりから、キッチンの壁の奥をつたって、下に降りてきていたのです。
さらに僕は冷蔵庫まわりをくわしく調べました。
ありました。すき間が。
冷蔵庫の奥の方だったので、気づかなかったのです。
ねずみ野郎は、パイプシャフトから抜けるルートをつぶされて、新たなルートを開拓したのです。
そこを完全にふさぐのはむずかしそうなので、僕は次の日、粘着シートタイプのねずみ取りをそのすき間のまわりに配置したのです。
そうしておけば、そこから入りこもうとすればまさに袋のネズミ。粘着シートに絡め取られるしかありません。
念のため、冷蔵庫まわりのすき間をさらに念入りにふさぎました。
ネズミが万が一、罠を突破した場合でも、冷蔵庫まわりのすき間から部屋には行ってこれないようにしたのです。
完璧です。こうすればもうどんなネズミといえど、入ってこれるわけがありません。もし入ってきたなら、そいつは壁をすり抜けることができる壁抜けネズミです。
夜になりました。
不気味な音で目がさめます。
かりかりかりかりかりかりかり。
そ、そんな馬鹿な?
いや、これはきっと中に入ろうと思って冷蔵庫のすき間をふさいでいる板を咬み破ろうとしているんだ。
そう思うのはとうぜんでしょう。つまり、音こそ耳障りだけど、やつはとりあえずは部屋の中には行ってこれない。
ところがこの推理は大はずれでした。
僕はロフトの上から、床を走るネズミを見てしまったのです。
キッチンの方から、棚の下に入りこむ姿を。
そ、そんな、馬鹿なことが……あってたまるかぁ!
ありえません。やつにはほんとうに壁抜け能力があるのでしょうか?
いや、そんなことはさすがにあるわけありません。常識で考えれば、さっきのかりかりした音は、板のバリケードを突破した証拠なのです。
しかしこの推理が外れいていることは次の日に証明されました。
板ははずれてなどいなかったからです。
ネズミが逃げ出すすき間なんてありません。
いったいやつはどうやって、部屋と天井裏を行き来しているのでしょうか?
名探偵、南野海と壁抜けネズミの最後の戦いが始まります。
つづく
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ネズミの野郎は、僕の部屋に入ってこれません。そればかりか、天井裏を走る音も聞こえなくなりました。
きっと、部屋に入れなくなって餌をあされないからどっかにいったんだろう。
そう思ってました。
しかし……。
災害は忘れたころにやってくる。
ネズミ野郎の新たな襲来が始まったのです。
きっかけはある日、部屋の床にネズミの糞のようなものを見つけたことでした。
「なぜ?」
はげしくそう思いました。
だってそうでしょう? 僕はネズミの通路を完璧にふさいだはずなのです。それこそネズミ一匹通れないほどに。
念のため、キッチンシンクの下にある物入れの扉を開けてみました。
そこの奥にある、パイプシャフトに通じるすき間は板でちゃんとふさがってます。壊された形跡はありません。
さらによく調べてみました。
すると、どうやらミニ冷蔵庫とそのまわりの壁をふさいでいた板がすこしはずれていたのです。ガムテープで固定しただけですから、そういうこともあるでしょう。
ただ、疑問が浮かびました。
仮にネズミが、この冷蔵庫のすき間から出入りしたとして、そのあとはどうしたのだろう?
このままでは、台所の下と、部屋を出入りすることはできるかもしれないけど、台所と屋根裏を出入りすることはできません。
つまり、未だ屋根裏と部屋を結ぶ通路はないはずなのです。
それなのに、どうしてネズミ野郎は出てきやがるんだ?
名探偵・南野海はふたたびこの謎に挑まなくてはいけません。
名探偵は思いました。
ひょっとしたら気のせいかもしれない。
だってそうじゃないですか。ありえません。
板はたまたま外れただけなのでしょう。なにせガムテープで軽く留めてあっただけなのですから。
あのネズミの糞に似たものは、きっとなにかべつのものなのです。
なにせ僕はめったに掃除をしないので、ネズミの糞に似た、なにか得体の知れないゴミが転がっていても不思議じゃありません。
夜になると、無理矢理にでもそう信じ込むことで、安眠しようとしました。
でも、無駄でした。
夜中になると、例のがさごそ、がさごそという音で目がさめてしまったのです。
僕はこっそりロフトからはしごで下におります。
そのまま忍び足でキッチンのところまで行きました。
まあ、近づくと静かになるんですが、しばらくそこで待ってました。
すると、また音がしたんです。それもキッチンの壁の奥から。
僕はこのとき、ネズミ野郎の経路がある程度わかりました。
やつはキッチンの換気扇のダクトまわりから、キッチンの壁の奥をつたって、下に降りてきていたのです。
さらに僕は冷蔵庫まわりをくわしく調べました。
ありました。すき間が。
冷蔵庫の奥の方だったので、気づかなかったのです。
ねずみ野郎は、パイプシャフトから抜けるルートをつぶされて、新たなルートを開拓したのです。
そこを完全にふさぐのはむずかしそうなので、僕は次の日、粘着シートタイプのねずみ取りをそのすき間のまわりに配置したのです。
そうしておけば、そこから入りこもうとすればまさに袋のネズミ。粘着シートに絡め取られるしかありません。
念のため、冷蔵庫まわりのすき間をさらに念入りにふさぎました。
ネズミが万が一、罠を突破した場合でも、冷蔵庫まわりのすき間から部屋には行ってこれないようにしたのです。
完璧です。こうすればもうどんなネズミといえど、入ってこれるわけがありません。もし入ってきたなら、そいつは壁をすり抜けることができる壁抜けネズミです。
夜になりました。
不気味な音で目がさめます。
かりかりかりかりかりかりかり。
そ、そんな馬鹿な?
いや、これはきっと中に入ろうと思って冷蔵庫のすき間をふさいでいる板を咬み破ろうとしているんだ。
そう思うのはとうぜんでしょう。つまり、音こそ耳障りだけど、やつはとりあえずは部屋の中には行ってこれない。
ところがこの推理は大はずれでした。
僕はロフトの上から、床を走るネズミを見てしまったのです。
キッチンの方から、棚の下に入りこむ姿を。
そ、そんな、馬鹿なことが……あってたまるかぁ!
ありえません。やつにはほんとうに壁抜け能力があるのでしょうか?
いや、そんなことはさすがにあるわけありません。常識で考えれば、さっきのかりかりした音は、板のバリケードを突破した証拠なのです。
しかしこの推理が外れいていることは次の日に証明されました。
板ははずれてなどいなかったからです。
ネズミが逃げ出すすき間なんてありません。
いったいやつはどうやって、部屋と天井裏を行き来しているのでしょうか?
名探偵、南野海と壁抜けネズミの最後の戦いが始まります。
つづく
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