つい最近のことです。
夜寝ていると、がさっ、がさっとなにか部屋を物色する物音がしまし、目をさましました。
僕は寝ていたロフトから恐る恐る下をのぞきます。
音はぴたっと止みました。
電気を点けてみましたが、さいわい、強盗がいたなんてことはありません。
ネズミだ。
直感的にそう思いました。初めてのことじゃないからです。
そう。僕の部屋には前にもネズミが出たことがあります。あのときもこんな感じでした。
さらに、ときおり、天井裏でがさがさ音がすることから、アパートにネズミが住んでいることは間違いありません。
そいつが下りて来やがったんでしょう。
だけどこのとき、僕はそれがネズミの仕業だと確信すると同時に、
「そんな馬鹿な?」とも思いました。
あり得ないからです。
なぜか? それを説明するには、過去にさかのぼらなくてはなりません。
ちょうど二年くらい前だったと思います。
たしか夏でした。僕が部屋に寝っ転がっていると、積んであった雑誌だか新聞だかの山から何者かが飛びだしたのです。
しかもそれはものすごいスピードで走ると、一瞬のうちにどこへともなく消えてしまいました。
「うおおおおおお?」
まあ、それくらいの声は出したかもしれません。
それがネズミであることは容易に想像つきました。
問題はいったいどこからそんなものが入ってきたのか?
そのとき、僕は「きっと窓を開けていたとき、外から入ってきたんだろう」と推理しました。他に考えが浮かばなかったのです。
そして、ネズミは今どこに消えたのか?
部屋のどこかにいるのでしょう。なにせ、自慢じゃないですが、部屋がぐちゃぐちゃ。ネズミ一匹ごとき、隠れようと思えばどこにでも隠れられます。
「こ、この中から、ネズミを探して追い出さなきゃならないのか?」
僕は愕然としました。このときほど、自分が部屋を片づけられない性格だってことを恨んだことはありません。
普通に考えれば、整理してネズミの隠れ場所をなくす。それがベストであることは間違いありません。
しかし、僕はその後に及んで、なんとか片付けをしないでネズミを追い出す方法はないかと考えたのです。
名案が浮かびました。
そうだ。バルサンを焚こう。
いや、僕だってネズミがバルサンで死ぬとは思っちゃいませんよ。ゴキブリじゃあるまいし。
ただ、さすがに逃げるだろう。そう思ったんです。
だから、一カ所だけ、逃げ場を作っておいて、バルサンを焚けば、そこから外に逃げ出すのは自明の理じゃないですか。
ただ、窓をすこし開けてバルサンを焚くと、ひょっとして火事と間違われかねません。
そのままどっかに出かけて、帰ったときには消防車が来てたら大変です。
だから、僕はバルサンを焚くと同時に、庭(というほどのもんじゃありませんが)に出ると、アルミサッシをちょっとだけ開けたままにして、そこで見張ってました。そうすれば万が一、誰かが煙を見てさわいでも言い訳できますから。
僕はその状態でしばらく待ちました。
すぐに煙に巻かれてこっから逃げ出してくるにちがいないからです。
ところがネズミの野郎は、いっこうに出てきません。
「おかしい。ひょっとしてすごく我慢強いネズミなんだろうか?」
いくらなんでもそんなことがあるわけありません。
「そうか、わかった!」
思わず手を叩きました。
ネズミの野郎は僕の知らない間に、窓からすでに外に逃げ出していたに違いありません。そのことに気づかなかっただけなのです。
僕は安心して、煙がおさまるまで外で時間をつぶそうと思いました。
ただ、窓(というか、庭に出るアルミサッシ)を開けっぱなしにしてどこかに出かけるのはやっぱりまずいし、かといって鍵を閉めるには部屋の中に入らなくてはなりません。
僕はやむを得ず、息をいっぱいに吸い込むと、煙のただ夜部屋の中に入り、鍵を閉めると、中を横断して玄関から外に出ました。
「ちくしょう。なんでこんな目に……」
そうは言いつつ、ネズミがいなくなったのであれば、まあいいかとも思いました。
煙がおさまって、部屋に戻ってからはとうぜん窓は開けません。暑いですがエアコンをつければすむことです。
もう、ネズミが外から入ってくるなんて二度とごめんですからね。
夜になって、僕は安心して眠りました。
ところが夜中になって、ふたたび、がさごそ、がさごそと、不気味な音が鳴りひびいたのです。
つづく
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夜寝ていると、がさっ、がさっとなにか部屋を物色する物音がしまし、目をさましました。
僕は寝ていたロフトから恐る恐る下をのぞきます。
音はぴたっと止みました。
電気を点けてみましたが、さいわい、強盗がいたなんてことはありません。
ネズミだ。
直感的にそう思いました。初めてのことじゃないからです。
そう。僕の部屋には前にもネズミが出たことがあります。あのときもこんな感じでした。
さらに、ときおり、天井裏でがさがさ音がすることから、アパートにネズミが住んでいることは間違いありません。
そいつが下りて来やがったんでしょう。
だけどこのとき、僕はそれがネズミの仕業だと確信すると同時に、
「そんな馬鹿な?」とも思いました。
あり得ないからです。
なぜか? それを説明するには、過去にさかのぼらなくてはなりません。
ちょうど二年くらい前だったと思います。
たしか夏でした。僕が部屋に寝っ転がっていると、積んであった雑誌だか新聞だかの山から何者かが飛びだしたのです。
しかもそれはものすごいスピードで走ると、一瞬のうちにどこへともなく消えてしまいました。
「うおおおおおお?」
まあ、それくらいの声は出したかもしれません。
それがネズミであることは容易に想像つきました。
問題はいったいどこからそんなものが入ってきたのか?
そのとき、僕は「きっと窓を開けていたとき、外から入ってきたんだろう」と推理しました。他に考えが浮かばなかったのです。
そして、ネズミは今どこに消えたのか?
部屋のどこかにいるのでしょう。なにせ、自慢じゃないですが、部屋がぐちゃぐちゃ。ネズミ一匹ごとき、隠れようと思えばどこにでも隠れられます。
「こ、この中から、ネズミを探して追い出さなきゃならないのか?」
僕は愕然としました。このときほど、自分が部屋を片づけられない性格だってことを恨んだことはありません。
普通に考えれば、整理してネズミの隠れ場所をなくす。それがベストであることは間違いありません。
しかし、僕はその後に及んで、なんとか片付けをしないでネズミを追い出す方法はないかと考えたのです。
名案が浮かびました。
そうだ。バルサンを焚こう。
いや、僕だってネズミがバルサンで死ぬとは思っちゃいませんよ。ゴキブリじゃあるまいし。
ただ、さすがに逃げるだろう。そう思ったんです。
だから、一カ所だけ、逃げ場を作っておいて、バルサンを焚けば、そこから外に逃げ出すのは自明の理じゃないですか。
ただ、窓をすこし開けてバルサンを焚くと、ひょっとして火事と間違われかねません。
そのままどっかに出かけて、帰ったときには消防車が来てたら大変です。
だから、僕はバルサンを焚くと同時に、庭(というほどのもんじゃありませんが)に出ると、アルミサッシをちょっとだけ開けたままにして、そこで見張ってました。そうすれば万が一、誰かが煙を見てさわいでも言い訳できますから。
僕はその状態でしばらく待ちました。
すぐに煙に巻かれてこっから逃げ出してくるにちがいないからです。
ところがネズミの野郎は、いっこうに出てきません。
「おかしい。ひょっとしてすごく我慢強いネズミなんだろうか?」
いくらなんでもそんなことがあるわけありません。
「そうか、わかった!」
思わず手を叩きました。
ネズミの野郎は僕の知らない間に、窓からすでに外に逃げ出していたに違いありません。そのことに気づかなかっただけなのです。
僕は安心して、煙がおさまるまで外で時間をつぶそうと思いました。
ただ、窓(というか、庭に出るアルミサッシ)を開けっぱなしにしてどこかに出かけるのはやっぱりまずいし、かといって鍵を閉めるには部屋の中に入らなくてはなりません。
僕はやむを得ず、息をいっぱいに吸い込むと、煙のただ夜部屋の中に入り、鍵を閉めると、中を横断して玄関から外に出ました。
「ちくしょう。なんでこんな目に……」
そうは言いつつ、ネズミがいなくなったのであれば、まあいいかとも思いました。
煙がおさまって、部屋に戻ってからはとうぜん窓は開けません。暑いですがエアコンをつければすむことです。
もう、ネズミが外から入ってくるなんて二度とごめんですからね。
夜になって、僕は安心して眠りました。
ところが夜中になって、ふたたび、がさごそ、がさごそと、不気味な音が鳴りひびいたのです。
つづく
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