尾崎光弘のコラム 本ときどき小さな旅

本を読むとそこに書いてある場所に旅したくなります。また旅をするとその場所についての本を読んでみたくなります。

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一教師の立場から時代の求める問題を考える

2017-09-27 06:00:00 | 

 庄司和晃のコトワザ研究の、始まりの仕方を特徴付ける第一の指標は「時代が求める課題に応えたこと」です。一九六五年の七月ころです。六三年に仮説実験授業(以下「仮説」と表示)の創設に参加し、一年半にも満たない間にその基礎的研究を『仮説実験授業授業』(国土社 一九六五、八)としてまとめたばかりでした。これを上梓したあと、庄司はこの本で、「仮説」に似た教育方法の歴史を辿った「予想・仮説着目史考」を書いたのですが、この関連で「問題解決学習」を先の論文の続編にどう位置づけるべきかを思案していました。ここに、一教師としての「いま・ここ」がありました。

「問題解決学習」とは、簡単にいえば、子供たちの興味・関心を踏まえた問題を学習単元として設定しその解決を考えさせる学習法のことです。もちろんこの為にはさまざまな知識や考え方や技能までが必要となりますから、その都度教えていかなければなりません。これは戦後に新しく創設された社会科の教育方法論として、アメリカからもたらされたものです。これに対して、そのような学習法では知識がぶつ切りにされ系統的な学習ができない、したがって学力低下がおきる、順序よく教えてゆけばそれなりに効果のあがる分野にまで影響が及ぶと考えた側から批判が出てきました。これを「系統学習」と呼びます。

この論争はなかなか決着がつかなかったと思われますが、一九五七年に旧ソ連がスプートニク1号という人工衛星の打ち上げに成功すると、当の「本家」のアメリカはソ連の宇宙開発レベルの高さに驚いてしまい(スプートニク・ショック)、このために、「系統学習」に方針転換してしまったのです。こうなると、日本は弱い。あっという間に(?)「系統学習」が声高に主張されるようになりました。この論争は一九六五年当時においても、とくに理科教師たちの間ではまだ議論がくすぶっていたことが想像できます。私には当時日本の教師間では、やや「問題解決学習」に対する希望が多かったという印象をもっています。なにしろ戦後の民主主義教育を象徴するような教育方法だったからです。

庄司は「問題解決学習」をもっとよく考えるために、当時の著名な教育学者の研究を参考にすることにしました。しかし、まったくと言ってよいほど役に立ちませんでした。その多くが外国の研究の紹介に終止し検証されることもなく提出され、自前の研究を装っても、根拠をしえないナサケナイ研究ばかりだったからです。庄司は憤慨し反発しました。反発のあまり、「属国意識あるいは主体性欠如」「植民地根性」とまで批判しています。原文を読んでみるとその激しさが分かります。そして、日本の教育学者には自前の理論を作ろうとする姿勢がないことを残念がったのでした。

そんなとき、くり返し読んでいた三浦つとむ『弁証法とはどんな科学か』(講談社 旧版)における冒頭の一節が突如ひらめいてきたのです。どんな一節だったか、私なりに要約すると、人間の生活は大小の問題問題解決の連続であって、生きるとは自分の身に起こる問題をいかに解決するか、その繰り返しといってもいい。その解決方法をふりかえってみると、以前こんなことがあったから今度はこうしよう、というような「経験」にもとづいた解決法がある。また人々の多くの経験を踏まえて作られた「諺・金言」がどの民族でも伝承されており、これを場面に応じて適用して解決を図ろうとする方法がある。しかし、もっと広く適用して解決を図る方法がある。それが科学であり弁証法などの普遍的法則である、となります。(どうも庄司寄りの要約になってしまったようです。不安な方は講談社現代新書の新版でもごらんいただけます)

庄司は大いに共感・感動して、これを「問題解決法の体系」と受けとめます。そして次のような図式を描き、三浦さんの記述を立体的に認識しようとしました。すなわち、A「経験」-B「諺・金言」-C「普遍的法則性・弁証法」、です。そしてこんな感想をもったのです。教育ということでは、Cの「弁証法」は、「仮説」によってイッテイル、コレハマア大丈夫ダ。Aの「経験」はカナリイッテイルとみてもいい。だが、Bの「諺・金言」は忘レテイタ、ヌケテイタ、気ヅカナカッタ、これは放っておいていい問題ではないという直観がやってきたのです。つまり、このなかでとくに衝撃を受けたのは、「諺・金言」についてだったのです。さて、このあと庄司はどのような行動を起こしたのでしょうか。

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