徒然草紙

読書が大好きな行政書士の思索の日々

児玉源太郎

2018-05-05 11:55:09 | 読書
小林道彦氏の評伝『児玉源太郎』を読みました。私には児玉源太郎に対して司馬遼太郎の『坂の上の雲』によって作られた確固としたイメージがあります。すなわち、政戦両面に秀でた天才的な戦略家というイメージです。しかし、日露戦争に関するいくつかの本を読んでいくうちに、必ずしもそうとばかりはいえないところが出てきているため、本当のところはどうなのだろう、といった疑問を持つようになっていました。その疑問が本書を読むことで解けた気持ちがします。
 
児玉源太郎はシビリアンコントロールというものをわきまえた軍人であったことと、政治的な野心はなかったけれど、当時の日本にとって最良の選択をとることができた人物であって、しかもそれができる位置にいたということがよくわかりました。
 
もちろん、失敗もしています。それでも、政戦両面に渡る傑出した能力をもった人物であったことは間違いなかったわけです。何だかホッとした気分ですね。
 
もうひとつ、大山巌や乃木希典との関係についてもよく書かれていて、こちらについては今までもっていたイメージが少し変わりました。
 
大山巌との間にゆるぎない信頼関係が築かれたのは日露戦争に突入してからで、その前夜には種々軋轢があったようです。また、乃木希典についても、幼馴染、といったイメージがありましたが、二人が近しい友となったのは西南戦争以降のことです。もしかすると、この作品以外でも、これらのことは既に書かれていて、私の勝手な思い込みだっただけなのかもしれませんが、とにかく、意外な感じを持ちました。
 
児玉源太郎については日露戦争のイメージしかなかったのですが、生涯を通した伝記を読んだことで、彼の人物像を新たにすることができました。
 
先ほどのシビリアンコントロールについていえば、児玉のような軍人がもっと多くいれば太平洋戦争の惨禍は免れた可能性があるのではないか。読後、そのような感想をもちました。児玉はあくまでも政府の政策決定によって軍を動かしたわけであって、国家、国民など眼中になかった昭和初期の軍人連中などとは根本から違っていた人物だったからです。

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