編者のつぶやき

川田文学.comの管理者によるブログ。文学、映画を中心に日常をランダムに綴っていく雑文

仮想現実

2006年08月26日 | Weblog
 最近、私が働く職場でちょっとした事件があった。下の階で叫び声のような、奇声が聞こえ、「何だ?何だ?」と見に行ったら、見慣れた男性アルバイト社員が、男二人がかりで羽交い絞めにされている。どうも周りの数人を殴ったらしい。標的にされた一人は、「何だよ。全くの無実だよ。僕じゃないよ」なんてことを口走っている。そのフロアには、100人ほどの従業員が働いていたが、みな沈痛な面持ちで、怖いぐらいの沈黙を守っていた。
 騒ぎを聞きつけた上司が現れ、すぐに当事者を別室に連れていったが、まわりに事情を聞いてみると、「2ちゃんねる」が原因しているらしい。
 職場に関係するスレッドが立ち上がっていることは、噂で聞いていたが、私は大の2ちゃんねる嫌いなので、開いてみたことはなかった。そのスレッドのなかで同僚の女性社員の実名を使った、性的な侮辱めいた題名のスレッドが新たに立ちあがり、ひどいことが書かれたらしい。その女性社員は、その男の彼女だった。そこには、彼女だけではなく、他の社員や、他のアルバイトのことも、口汚く実名で罵られていた。
 事情を聞いて、私も憤りで一瞬我を忘れたとき、東大出身のエリート社員がまじめな顔で言った。
「事情はどうあれ、暴力はいけませんよねぇ…」
 私は『ああ、そういう一般論があったなぁ』と変に納得していると、それを受けて誰かが、
「そうですよね。わたしも巻き添えをくって、彼に噛まれましたよ」
と言う。私は、胸くそが悪くなり、その場を去った。
 犯人は、あのフロアにいたアルバイトのなかに確実にいたのだ。いや、隣にいる社員かもしれない。私は、疑心暗鬼に囚われ、考えるのをやめた。
 別室に通された当事者は、こういう事態を放っておく会社側も悪い、として、なだめる上司のまえで机をひっくり返し、再び暴れたという。結局、彼は、しばらくに自宅謹慎という形になったらしい。

 わたしの友人も以前同じようなことをされ、精神的に立ち直るのに2年ほどかかった実例を見ていたので、他人事に思えなかった。その友人がショックだったのは、普段仲良くしていた、まわりの友人がほとんど同情しなかったのが原因らしい。当事者にしかそのつらさはわからないのだ。幸いにして、IPアドレスから犯人を突き止めてくれる人が出てきて、どうにか解決した。

 標的にされた女性社員は、自分のためにやってくれた事とはいえ、まわりに暴力を振るった彼に当惑を感じているようだった。私は、彼女に言った。
「2ちゃんねる、のようなところで、実名で罵られる屈辱は、書かれた当人にしかわからないことで、意外と周りはケロッとしているもんだよ。私もまわりで同じようなことがあったけど、『そんなの気にしないのが一番だ』『ほっとくのが一番』と言って、一緒に怒ってくれる人ってなかなかいなかったよ。『暴力はいけない』なんていう一般論は誰でも言える。だって、それって正論だもん。まあ大抵、けんかの弱くて、愛のない人だよね、そういう一般論をいう人って。
 どうして、いい大人が、誰でも知ってる正論を押しのけても感情をむき出しにしたのか、そこが重要であって、暴力そのものを悪とするのは、違うんじゃないかな…」

 2ちゃんねる、というのは、私のようなネット素人には知らない、いろいろなルールがあるらしく、1000に達すると自然とそのスレッドは消滅して、それからは、お金を出さないと見れなくなる仕組みだと言う。そのほかにも、どこかに、sageと入力すると、タイトル順位を下げられるとか、性別をごまかしていれるといいとか、削除作業はボランティアがしているとか、2ちゃんをここまで、大きくしたのは、凄腕の技術者やマスコミ人なども関係しているとか、2ちゃんにくわしい社員から聞いた。とっても複雑で責任の所在さえもどこにあるのかわからないのだ。
 もちろん、名誉毀損で何件もの訴訟も起こっているらしいけど、ほとんど敗訴で、管理者は法廷にも現れないらしい。でも、訴えてる人って、本当は管理者じゃなくて、書いた本人に謝ってほしいはず。
 ネットは情報を集めるには、とても便利なもので、きちんとした目的のある人には限りなく有効なものだけど、こういう噂ばなしサイトを見ると、人間というのは、人の悪口や噂話が大好きで、みじめったらしいものだな、と心の底から思う。
 


 

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