もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

6 075 重松清「定年ゴジラ」(講談社文庫:1998、2000)感想4+

2017年06月05日 02時00分42秒 | 一日一冊読書開始
6月4日(日):  

435ページ    所要時間7:15    ブックオフ400円

著者35歳・37歳(1963生まれ)。

111002に所要時間2:00で眺め読みをしているらしいので二度目になる。但し、内容は全く残っていないので、ある意味初めて読むのと同じ感じである。

東京郊外の少々トウのたったニュータウンに住み着いた著者が、「街を歩く定年族の皆さんは、僕の父親の世代でもある」「父親の世代を主人公にした物語を、三十代前半の息子が、しかも三人称で書く。略。お手本だったか反面教師だったかはともかく、自分の考える夢のかたちを息子に伝えてくれた父親世代を、ちょっと違うまなざしで見つめられるようになった」ことがなによりも嬉しい、と著者は言う。

本書の主人公父親世代四人組は、早く言えば昭和ひとケタ世代で、上梓された当時、61~67歳ぐらいだろう。彼らは、まさにもみさんの父母の世代でもある。6年前の眺め読みでは、何とも覚えがなかったが、今回は7:15という失敗読書だった故に、今まで思いもよらなかった自分の父母のことが何度も去来した。そういう意味では、亡き父母を偲ぶ功徳のあった経験と言える。

重松清の小説は、ある面で著者自身の歩んできた人生の同時代史的性格をもつものが多い。俺が著者の小説に魅かれるのも、結局自分の生きてきた道を振り返る行為にもなっていることによる気がする。山崎さん、町内会長(古賀さん)、ノムさん(野村)、フーさん(藤田)。特に印象的なのは、ノムさんで、彼は「とんび」のやっさんと重なる人格である。このキャラクターは著者にとって大切なイメージなのだろうと読み取れた。

俺だって三十代前半頃、生前の父母がどういう時代を生きてきたのか、もちろんふと考えないではなかったが、その考えることの重みを自覚できていなかった。満州事変や日中戦争の深みにはまった頃の日本で生をうけ、小学校の卒業前後で敗戦した日本の姿を目に焼き付け、ろくに親を頼ることもできず、貧乏や差別の中、むしろ多くの弟妹を抱えながら懸命に働き続けて成人し、二十歳過ぎに結婚して、俺たち子どもをもうけ、今度はその子供たちのために懸命に働き、自分たちが得られなかった教育を子どもに与えるためにさらに懸命に働く。小学校しか卒業していない父母に対してもみさんの兄弟は皆、大学に進んだ。

俺は「とんび」のやっさんの息子のアキラと同じ会場で一緒に早稲田大を受験していることになる。全勝のつもりが、落ちて、受かって1勝2敗。結局、早稲田には行かず。数学ⅡBの勉強を生かせる学費の安い国立大学に進み、住み心地は良くないが、驚くほど賃貸料の安い大学付属の寮で4年間を暮らした。そして、俺は大変愚かにも両親の小学校卒業を軽んじていた。

(ちなみに当時は、まだ入試のウラ操作はなかったので、私大の最高峰は明確に早稲田大学であり、慶応大学よりも上だった。)

でも、自らが子の親となり、50歳を超えた今、思い起こせば父母から受けた恩愛の深さに戸惑うばかりである。親不孝を深く後悔するばかりである。でも、両親は俺たち兄弟に対して「本当によく育ってくれた」と心から感謝し、喜びをもってくれていたんだろうな。とも思うと親の恩愛に対していたたまれない思いになるのだ。「孝行をしたい時には親は無し。されど墓に布団はかけられず」。本書の第四章「夢はいまもめぐりて」は、亡き親への思いをすごく思い出させられた。

人生の終活を考えるこの歳になっても、いまなお亡き父母の恩愛の手のひらの上で援けられていることを思うことが強まっていく日々である。失敗読書を通じて、作品世界に浸りながら、結局、自分の親を思う時間だったんだなと思った。父母のことが本当に会いたくて仕方がない。

【目次】定年ゴジラ/ふうまん/きのうのジョー/夢は今もめぐりて/憂々自適/くぬぎ台ツアー/家族写真//帰ってきた定年ゴジラ (講談社文庫版より追加収録)

【内容紹介】暇であっても退屈ではない!老朽化したニュータウンで第2の人生を歩み始めた定年4人組の物語。/ 開発から30年、年老いたニュータウンで迎えた定年。途方に暮れる山崎さんに散歩仲間ができた。「ジャージーは禁物ですぞ。腰を痛めます。腹も出ます」先輩の町内会長、単身赴任で浦島太郎状態のノムさん。新天地に旅立つフーさん。自分の居場所を捜す4人組の日々の哀歓を温かく描く連作。「帰ってきた定年ゴジラ」収録の完成版。
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