もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

7 025 池上彰・佐藤優「大世界史 現代を生きぬく最強の教科書」(文春新書:2015)感想特5

2017年12月28日 22時15分51秒 | 一日一冊読書開始
12月28日(木):  

255ページ     所要時間8:40     ブックオフ460円

著者:池上彰65歳(1950生まれ)。長野県生まれ。ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターを歴任し、2005年に退職。2012年より東京工業大学教授
佐藤優55歳(1960生まれ)。東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了

対談形式の本書の著者2人は、俺が今最も信頼を寄せているある種の<座標>のような存在である。本書の著された目的は、「現代の世界で起こっている様々な事象・ニュースをきちんと理解するためには、世界史の知識がどうしても必要不可欠である」ことを明らかにすることである。趣旨には俺も全く同感であり気楽に読み始めた。そして、参ってしまった。速読が全くできない。歯が立たない。これは現在進行中の老眼のせいだけではない。

内容がものすごくハイレベルなのだ。人気の著者2人の対談本でベストセラーだからという理由で、本書を「普通の新書だ」と思って買った人々の多くがえらい目にあったはずだ。本書を読む前提条件として要求される歴史・地理の知識レベルが半端でなく高いのだ。もちろん字面を追いかけて最期までページを繰ることは誰でも可能だが、理解、吸収の度合いは大きな差がでる。

俺は毎年、「世界史B」のセンター試験で95点前後をとっているが、その俺が読んでいて、両人の話のレベルに付いていききれないのだ。実は、今回の読書では、60数ページまで読み進んだ後、「これは無理だ!」と、一度挫折してしまった、改めて初めのページから線を引き、付箋をしながら読み直している。

佐藤氏はともかく、池上さんについてはテレビなどで分かりやすい解説者としてなじんでいる人が多いだろう。しかし、池上さんの著書は確かに分かりやすいのだが、意外と詳細で分厚くてレベルが高いのだ。ふだん実力をセーブして優しい解説者を務めている池上さんが、彼を凌駕する?好敵手としての対談相手を得たことで全力で知力を振り絞って、時に詳細に、時に大胆に様々なテーマ・事象について語り尽くしている、という印象である。

佐藤氏の側も、池上さんというハイレベルなキャッチャーを得て、元々規格外の並外れた博識さ、テーマ・事象への明確な判断・判定をおこない、有無を言わせぬ説得力を全ページにわたって発揮している。

もし、2人の対談の内容が的外れで、ただ意味もなく詳細、複雑、難解なだけであれば、「何ややこしいこと言ってるねん?!」と無視して読み飛ばせるのだが、いずれの話題も現代の国際情勢を理解する上で絶対に外せない身近で切実な話題であり、読み飛ばせない。ひとつずつ積み重ねながらついて行かざるを得ない内容なのだ。そして、読んだ後には、考えもしなかった問題提議に、類書では得られない世界観を「目から鱗」で変えられてしまう経験を何度もさせられ、自分が「何か変だな?」と感じながら言葉にできないでいた違和感に明確な言葉を与えられている。

2人の対談では基本的に意見の齟齬は発生しない、それは2人が同じ思想の持ち主だからではなく、非常に高いレベルの博識・知性から観れば、この程度のテーマ設定では見える風景はほぼ同じであり、答えもほぼ同じということ。もっと高いレベルになれば、違ってくるのだろう。

2人は「大学教育における一般教養(リベラルアーツ)重視!」で共通の見解をもっている。そして「すぐに役に立つものは、すぐに役に立たなくなるだけ」と今の大学教育の風潮を職人教育と批判している。

池上 以前、佐藤さんは、「日本の政治家の半分くらいは『イラン人がアラブ人だ』と思っているのではないか」と書いていましたね。 /佐藤 政治家から「イランを始め、アラブの動静はどうですか」とよく聞かれるのです。 /池上 イランがペルシャ人の国であることを知らない。  37ページ
佐藤 略。アラブの春には民主主義をつぶす機能しかなかった。政治的にイスラムと民主主義はなじまない。略。アラブを中心に動くのが、これまでの中東世界でしたが、「アラブの春」以降、アラブ諸国が弱体化し始め、代わりに非アラブのイランとトルコが中東世界で勢力を拡大しつつある。49ページ
佐藤 もしウイグル地域に「第二イスラム国」が出現したら、中国は、安全保障上、西方を向かざるをえなくなります。 /池上 その可能性は大いにあると思います。 /佐藤 そうなると、尖閣問題どころではありません。中国としては、対日接近の芽も出てくるかもしれません。 /池上 それは、日本にとって悪い状況ではない、ということです。 72ページ
池上 それに、「反省」と言えば、中国は「まあいいか」という対応ですが、韓国は反省だけではだめです。 /佐藤 反省するなら形を示さないといけない。「誠意を見せなさい」と。「誠意とは具体的に何ですか」と問うと「それはそっちで考えることです」と返ってくる。略。 /池上 しかし、全部聞いたあとで挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)が騒ぎだしたら、また要求を吊り上げる可能性があります。 /佐藤 あそこは抑えきれませんね。それと、謝るだけ謝って、慰安婦像の撤去なども要求しない、となったら、今度は、安倍政権を支持している右側を抑えられるかどうかが問題になるでしょう。102ページ
佐藤 現在のギリシャは、一九世紀に恣意的に作られた国家です。ロシア帝国と大英帝国のグレートゲームの中の仇花みたいなものです。略。国民はDNA鑑定をすれば、トルコ人と変わらない。略。言語も、古代ギリシャ語とはまったく違います。略。ギリシャは、ギリシャとして存在すること自体がいわば「仕事」になっているのです。104~107ページ
佐藤 略。しかし、住民投票は、沖縄にとって受け入れられる話ではありません。なぜなら、沖縄にのみ巨大基地を負担させるという差別法が前提になっているからです。原発は、受け入れる道県、並びに地元自治体の民主的な手続きを経て選ばれた首長や議会の同意を経て設置されていますが、米軍基地は、アメリカの占領下で、住民が強制阻害されている状況か、あるいは銃剣とブルドーザーで住民を追い出して勝手につくられた。ここが沖縄の米軍基地と原発の違いです。沖縄の米軍基地は、一つもそうした民主的手続きを経ていません。ですから、沖縄の基地問題の本質は、「反原発」と同じ発想では捉えられないのです。169ページ
・佐藤 ドローンの発展によって、兵器の体系も全く変わるはずです。中国がいくら空母を作っても、日本が強力なドローンを開発してしまえば沈められる。ここで面白いのは、中国もそれがわかっているはずなのに、それでも空母の建造を止められないことです。
176ページ
池上 日本人にとっては意外なのですが、実は韓国の人たちには、北朝鮮の核開発はそんなに無理やり辞めさせなくてもいい、という意識がありますね。韓国が独自に核開発をしようとすると、アメリカからいろいろうるさく言われるけれど、いずれ南北が統一されれば、北朝鮮の格が自動的に我々のものになる、と。185ページ
佐藤 ビリギャルが受けた慶應大学の学部は、小論文と英語だけの二科目受験でした。これでは大学生といっても、略、授業についていけるはずがない。結局、教養など何も身に付かないままに卒業することになる。/略。つまり、学歴ではなく「入学歴」が付くだけです。 212ページ
佐藤 戦後日本も危ないところでした。GHQが招いた教育使節団の勧告によって、漢字廃止、ローマ字表記にされてしまう可能性があったのです。少し前まで一般的に使われる漢字を「当用漢字」といっていましたが、これはローマ字表記を採用するまで、当座の間だけ使っていい感じです、という意味でした。 /池上 それが「常用漢字」になったのは、一九八一年のことです。219ページ
佐藤 いま日本の大学は、どこも、グローバル基準に合わせることに汲々としてます。しかし、そもそも大学における「スーパーグローバル」とは何を意味するのかを考えるべきです。/ギリシャ・ラテン古典学のある先生の話がとくに印象的でした。この先生は国立大から早稲田大学に移ったところ、英語の勉強が大変だとおっしゃっていました。四コマのうち一コマは、英語で授業しなければならないからです。そこで、「英語で伝えた場合、日本語で伝える場合の何割くらい伝えられますか」と尋ねると、「三割くらい」と。では、「学生の理解は日本語のときの何割か」と尋ねると、「二割くらい」と言います。三割かける二割で六%、つまり、日本語での授業に比べて、六%しか伝わらない講義をして、それをグローバリゼーションと言っている。/こんなことを真似る必要はありません。226ページ
池上 無暗に英語で授業をしても、自ら英語植民地に退化するようなものです。そもそも大学の授業を母国語で行えることは、世界的に見れば、数少ない国にしか許されていない特権です。その日本の強みを自ら進んで失うのはこれほど愚かなことはありません。227ページ
佐藤 今の日本は、歴史感覚がおかしくなっている。現在と過去を結び付ける勘が鈍っているから、「永遠の0(ゼロ)」を見て、泣いたりできるのでしょうが、略。ここしばらく、歴史ドラマに良作がありません。 /池上 二〇一五年のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」は、安倍首相の本拠地山口を舞台にしています。政権への露骨なごますりです /佐藤 「花燃ゆ」を見ていると、北朝鮮の「朝鮮の星」という映画を思い出します。これは、金日成主席の周辺の人々の物語りです。242ページ  

【目次】はじめに(池上彰)/1なぜ、いま、大世界史か /2中東こそ大転換の震源地 /3オスマン帝国の逆襲 /4習近平の中国は明王朝 /5ドイツ帝国の復活が問題だ /6「アメリカvs.ロシア」の地政学 /7「右」も「左」も沖縄を知らない /8「イスラム国」が核をもつ日 /9ウェストファリア条約から始まる /10ビリギャルの世界史的意義 /11最強の世界史勉強法 /おわりに(佐藤優)

※よかったら、「5 029 池上彰・佐藤優「新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方」(文春新書:2014)感想特5」(2015年11月15日 02時45分14秒 | 一日一冊読書開始)も読んでみて下さい。

【内容情報】(出版社より)
『新・戦争論ーー僕らのインテリジェンスの磨き方』に続く、最強コンビによる第2弾! / 今、世界は激動の時代を迎え、各地で衝突が起きています。 /ウクライナ問題をめぐっては、欧州とロシアは実質的に戦争状態にあります。 / 中東では、破綻国家が続出し、「イスラム国」が勢力を伸ばしています。そして、これまで中心にいたアラブ諸国に代わり、イラン(ペルシャ)やトルコといったかつての地域大国が勢力拡大を目論むことでさらに緊張が増しています。 /アジアでは、中国がかつての明代の鄭和大遠征の歴史を持ち出して、南シナ海での岩礁の埋め立てを正当化し、地域の緊張を高めています。 / 長らく安定していた第二次大戦後の世界は、もはや過去のものとなり、まるで新たな世界大戦の前夜のようです。わずかなきっかけで、日本が「戦争」に巻き込まれうるような状況です。 /こうした時代を生きていくためには、まず「世界の今」を確かな眼で捉えなければなりません。しかし直近の動きばかりに目を奪われてしまうと、膨大な情報に翻弄され、かえって「分析不能」としかいいようのない状態に陥ってしまいます。ここで必要なのが「歴史」です。世界各地の動きをそれぞれ着実に捉えるには、もっと長いスパンの歴史を参照しながら、中長期でどう動いてきたか、その動因は何かを見極める必要があります。 / 激動の世界を歴史から読み解く方法、ビジネスにも役立つ世界史の活用術を、インテリジェンスのプロである二人が惜しみなく伝授します。

【内容情報】ベストセラー『新・戦争論』に続く最強コンビの第2弾!各地でさまざまな紛争が勃発する現代は、まるで新たな世界大戦の前夜だ。激動の世界を読み解く鍵は「歴史」にこそある!

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。